第41話 消火活動はちゃんとやりましょう②
「最後の一匹。T字路の右!」
「わかった!」
T字路に差し掛かると右手に黒い毛玉のようなモンスターがいた。
「ッシ!」
「ギェ? ギェギェ!」
朱莉が小石をぶつけるとモンスターの注意は引けたようで、モンスターは朱莉の方に迫ってくる。
「よし。ラストはボス部屋だけだな。次の十字路を左。その次のT字路を右に曲がればボス部屋だ」
「りょ!」
「「「「ギェギェギェギェギェ」」」」
最後のモンスターも含め、四体のモンスターを引き連れて朱莉はボス部屋へと向かう。
「あかりちゃん! あと少しだよ! 頑張って!」
「ありがとう! キョウちゃん!」
「「「「ギェギェギェギェギェ」」」」
朱莉はサグルの案内を受けてボス部屋に向かって走り出す。
モンスターたちを引き離してしまわないようにできるだけゆっくりだ。
朱莉はサグルたちと一緒にダンジョン内を駆け巡っていた。
Gランクダンジョンは数部屋しかないため、全部回るのはそこまで大変じゃなかった。
一番大変だったのはモンスターたちを誘導することだ。
こうやってモンスターを誘導してみて、モンスターは倒さなければリポップしないということがわかった。
だが、Gランクダンジョンではモンスターの索敵範囲がめちゃくちゃ狭い。
攻撃が当たるか当たらないかギリギリの距離を保たないと、モンスターたちは自分の元いた場所に帰っていってしまう。
それに、モンスターがめちゃくちゃ弱いのも問題だった。
最初、誘導しようと朱莉がモンスターに投げナイフをぶつけたのだが、それだけでモンスターは倒せてしまった。
投擲スキルを使っていないにも拘らずだ。
結局、投擲スキルなしでその辺に落ちていた小石をぶつけることでモンスターが死なないレベルのダメージに抑えることに成功した。
「はぁ。はぁ」
「朱莉。大丈夫か?」
「大丈夫!」
サグルが心配そうに声をかけてくるが、朱莉は一言大丈夫とだけ答える。
大したスピードで移動していないので、肉体的には疲れていないが、精神的な疲労によって額から嫌な汗をかいていた。
(サグルっちとキョウちゃんのためにも頑張らないと)
朱莉が一人でやりたいと言うと、京子とサグルは二つ返事でOKしてくれた。
そのあとのめんどくさい作業にも文句の一つも言わず付き合ってくれている。
何度失敗してもだ。
サグルのアプリに表示されている雑魚モンスターとボスモンスターの位置情報がなければ、完全踏破は不可能だった。
ランクアップ現象が始まるまでまてば全部のモンスターが朱莉たちの方へときてくれるので、全てのモンスターを倒すことは可能だったかもしれないが、ランクアップ現象によって美香にどんな影響が出るかわからない。
だから、ランクアップ現象が始まる前にはなんとか全てのモンスターを倒したかった。
(……きっと大丈夫!)
サグルが言っていたことが事実だとしても、サグルが踏破したのはIランクダンジョンで今朱莉たちが潜っているのはGランクダンジョンだ。
同じ結果が出るとは限らない。
ダンジョンとは関係なく父親は気持ちを持ち直した可能性だってある。
でも、昔のような明るいお母さんが戻ってきてくれる可能性が少しでもあるのであれば朱莉は挑戦したかった。
全部のモンスターを一箇所に集めるのは想像以上に大変で、何度も心が折れそうになったが、京子とサグルが応援してくれたおかげで、あと少しのところまでたどり着くことができた。
朱莉は明るい母親の笑顔を思い出しながらボス部屋へと駆け込む。
「グギェギェギェギェギェギェ!」
「「「「ギェギェギェギェギェ」」」」
部屋に入った瞬間、正面からはボスモンスターが迫ってくる。
どうやら、ボスモンスターは雑魚モンスターより索敵範囲が広いようだ。
後ろからは四体のモンスターがちゃんとついてきている。
サグルと京子はこの部屋に入った直後に部屋の隅へと退避してくれた。
これで心置きなく戦える。
「……」
朱莉は気を抜かずに後ろのモンスターを引きつけつつ、ボスへと近づいていく。
ボスモンスターに近づき、五匹のモンスターがスキルの有効射程内に入ってから朱莉はチラリとサグルの方を見ると、サグルはスマホを確認してOKのサインを送ってくる。
雑魚モンスターは湧いていないようだ。
「『旋風』!」
「グギェ……」「「「「ギェギェギェ……」」」
朱莉は五体のモンスターを一刀で切り刻む。
モンスターたちはボフっと軽い音を立てて喪失した。
――――――――――
恐怖の大醜鬼(G)を倒しました。
恐怖の醜鬼(G)×4を倒しました。
経験値を獲得しました。
恐怖のダンジョン(G)が攻略されました。
報酬:121円獲得しました。
称号『無慈悲』を獲得しました。
――――――――――
「……終わった」
こうして、朱莉は母親の中にあった恐怖を切り裂いた。




