第40話 消火活動はちゃんとやりましょう①
「これで大丈夫だな」
「あの、サチコって人のスマホも壊してきました」
「よし」
戦闘が終わって、俺たちがまずしたことは竜也たちのスマホの破壊だった。
スマホさえあればダンジョンに潜ることができる。
だが、逆に言うと、スマホがなければダンジョンに潜ることはできないのだ。
ここで竜也たちのスマホを壊してしまえば、竜也たちがダンジョンに潜って警察から脱走したりはできないはずだ。
新しくスマホを買っても、ダンジョンGo!のアプリを探すのは簡単じゃない。
何かのタイミングで偶然見つけるしかないのだから。
近くにダンジョンGo!のユーザーがいれば招待してもらうことはできるかもしれないが、刑務所内にダンジョンGo!のユーザーはいないだろう。
刑務所内じゃスマホも手に入らないだろうし。
それに、アプリの入ったスマホが壊れてしばらくすると身体能力もかなり落ちてしまうらしい。
ヘルプには、ダンジョンGo!のアプリが入ったスマホが壊れてから一週間くらいすると、ジョブ補正が消えてしまうと書かれていた。
なんでも、アプリが体の魔力の経路を開き、利用しやすい形にコントロールしているらしく、アプリの力がなくなってしまうと自然と魔力の経路は閉じてしまうそうだ。
……俺の体改造されちゃってたよ。
アプリを再インストールすれば再び魔力の経路が開かれ、すぐに能力は戻るらしいが、一週間以内にダンジョンGo!のアプリを探し出して再インストールすることが推奨されていた。
出所後は再びアプリをインストールすればまた襲ってくるかもしれないが、その頃には俺たちはもっと強くなっているし、竜也たちは色々なところから恨みを買っているみたいだし、俺たちどころじゃないだろう。
そんなことをしていると、遠くの方からサイレンの音が聞こえてきた。
どうやら、パトカーや消防車が近づいてきているらしい。
多分、行き先はこの倉庫だろう。
原因は俺の使った『風遁・雷神掌雷』だ。
あれのせいで倉庫の天井に大穴が空き、その穴の周りから発火してしまった。
気づいた時には結構燃え広がっており、なんとか消火には成功したが、結構遠くからも火の手が上がっている様子が確認できたと思う。
消防車が呼ばれるのは当然だな。
「じゃあ、帰ろうか」
「そうですね」
俺はそう言ってダンジョンGo!のアプリを取り出す。
俺たちも竜也にならってダンジョンに突入してから脱出するのだ。
脱出直後であれば警察からも見つからず安全に脱出できる。
美香さんは俺が担いで隠密のスキルを使って脱出すればいいだろう。
隠密のスキルはだいぶ成長していて、密着している対象であれば一緒に気配を消してくれるようになった。
俺が美香さんを担いで、両腕に朱莉と京子がしがみつけばダンジョンに入らなくても隠密の力を使って脱出できると思うが、流石にそんな提案はできない。
「じゃあ、ダンジョンに潜るよ! あれ?」
「ん? どうした?」
「恐怖のダンジョンっていうGランクダンジョンができてる」
「!! 朱莉! 早くそれに潜れ!」
「? わかった」
俺たちは急いでGランクダンジョンに潜った。
***
「サグルっち。言われた通り、Gランクダンジョンに潜ったけど、なんなの?」
「私もGランクのダンジョンなんて初めて聞きました。Fランク以下もあったんですね。あ、そういえば、サグルさんが最速ダンジョン踏破者の称号を手に入れたのもFランク以下のダンジョンって話でしたよね。もしかして、称号を取るためにこのダンジョンに潜ったんですか?」
「……いや、そういえば、そのダンジョンに潜った時のことを京子には話してなかったな」
「? はい。Fランクより簡単なダンジョンだったとしか」
俺は初めてダンジョンに潜った時のことを話す。
おそらく、朱莉の父親の負の情念がダンジョンになったものに潜ったこと。ダンジョンを攻略するのは比較的簡単だったこと。そこで称号を色々手に入れたこと。
そして、攻略すると、朱莉の父親は憑き物が落ちたような顔で出てきたことをだ。
朱莉と京子は真剣な表情で俺の話を聞いていた。
「……」
「それで、位置的に考えても、これは美香さんの負の情念が固まったダンジョンだと思うんだ」
「……このダンジョンを攻略すれば、お母さんを救えるかもしれない」
「そういうことだ。まあ、完全攻略しないといけないかもしれないし、完全攻略してもなんの影響もないかもしれないが、やってみる価値は十分あるだろう」
「……」
GランクダンジョンはFランクダンジョンより小さいが、モンスターが何匹か居る。
モンスターは一度倒すと直ぐにリポップするので、同時に倒す必要がある。
同時に倒すとなると、一箇所に集めて一網打尽にする必要がある。
ボスも一緒に倒さないといけないので、集める先はボス部屋かな。
「あかりちゃん! やってみようよ!」
「雑魚を集めてくれれば俺が一掃するよ。まあ、雑魚集めが一番大変なんだけど。Gランクダンジョンのモンスターは弱すぎるから、注意を引く攻撃がとどめになっちゃうかもしれないし」
「……」
俺たちが朱莉に話しかけている間、朱莉はずっと俯いていた。
美香さんの精神に影響を与えることはあまり乗り気ではないのかもしれない。
まあ、母親だからな。
ほぼ間違いなく良くなると言っても、悪い方向にいってしまうという可能性もあるわけで、やるのが怖いという気持ちもわからなくはない。
サンプルが俺がやった一回しかないし。
そう思っていると、朱莉は顔をあげ、俺たち二人の方をまっすぐみる。
「キョウちゃん、サグルっち。このダンジョンの攻略、私一人でやりたい」
朱莉は決意の火が灯った瞳でそう宣言した。




