第35話 かっこいいセリフだけど、それ死亡フラグなんだよな③
「サグルっち!」
「サグルさん!」
『サグル』はばたりと力なく倒れる。
京子は『サグル』に駆け寄る。
「!」
倒れたそれからは生気が感じられなかった。
そして、京子も今何が起きたか理解した。
「安心するのがー早すぎたみたいだねー?」
「えー? もう終わりー? 私きた意味ないじゃん?」
「面倒がないのはいい」
「あいつは俺の手で殺したかったんだが、あっけない幕引きだったな」
「……」
「「!!」」
倉庫内の明かりがつく。
朱莉と声のした方を向くと、そこには五人の男女がいた。
そのうち、優男とガタイのいい男、痩せ型の男はこの前襲撃してきた人たちだ。
確か、戦士と拳士と魔法使いだったか。
今はそれに加えて、女性が一人と男性が一人いる。
この五人組が竜也のパーティメンバかな?
竜也は名前から言って男性のはずなので、中央で偉そうに椅子に座っているのが竜也だろう。
女性の方は構成的に考えて僧侶だろうか?
「あなたが竜也?」
「おやー? 目上の人に対する礼儀がーなっていないみたいだねー? これはー教育が必要みたいだー」
優男がこちらに近づいてこようとする。
「待て、充」
「リュウヤー? どうかしたのかい?」
それを、竜也は制する。
優男は立ち止まり、竜也の方をみる。
「まだ『称号』が返ってきてねぇ。そいつはまだ死んでねぇぞ」
「!!」
優男は目を大きく見開く。
「『一閃』!」
「!! きゃぁぁぁぁぁぁ!」
俺は迷わず女性に『一閃』を叩き込む。
僧侶と思しき女性は反応すらできず、一閃をうけて吹き飛んでいく。
そして、壁に叩きつけられて動かなくなった。
まずは一人目。
息はしているようだから死んではいないな。
峰打ちだし、あれで死なれたら困るけど。
俺はバックステップして京子たちのところに戻る。
「サグルさん!」
「サグルっち!? え? どういうこと!?」
朱莉は『サグル』と俺を交互に確認する。
「それは『身代わり分身』だよ」
俺がスキルを解除すると、京子のすぐそばにあった『サグル』は土塊になって崩れ落ちる。
奇襲を予想して、倉庫に入った時から俺は『身代わり分身』を使い、本体は『隠密』を使って隠れていた。
相手方は美香さんが無事で安心したところに奇襲をするつもりだったようだが、俺は俺が死んだと安心しているところに奇襲する気満々だった。
竜也にばれたのは予想外だったが。
「いきなり女を狙うとは、なかなかの外道だな」
「……ヒーラーを最初に潰すのは常道だろ?」
本当は竜也を速攻で仕留めたかった。
だが、竜也はなぜか俺の生存に気づいており、隙が見つからなかった。
だから、次に厄介そうなヒーラーっぽい女性を排除させてもらった。
ヒーラーはバフも厄介だし、回復されると面倒だ。
数が少ないこちらとしては、最初に潰しておきたい相手だった。
ヒーラーじゃなかったらごめん。
でも、竜也なんかとつるんでるのが悪いと思います。
「俺はお前に会いたかったぜ?」
「俺は別に会いたくなかったけど」
「そう連れないこと言うなよ。お互い、『最速ダンジョン踏破者』の称号を手に入れた仲だろ?」
「……あーなるほど」
それを聞いて、合点がいった。
どうやら、こいつは俺の前の『最速ダンジョン踏破者』だったらしい。
称号保持者が死亡すれば、繰り上がりで第二位のこいつが『最速ダンジョン踏破者』になるはずだ。
自分に称号が返ってきていないということは俺が死んでいないということだ。
どうりで一度も気を抜かないはずだ。
「やっぱり充は頼りになるな。お前の予想が正解だったみたいだ」
「ははは。死んでないとはー思わなかったけどねー? 身代わりかー。何のジョブかなー?」
「さぁな。どうせ、忍者とかその辺だろう。殺しちまえばなんだっていい」
「それもそうだねー」
竜也は立ち上がり、ナイフを構える。
すると、竜也の気配が一瞬で薄くなった。
視界では捉えられているのに、そこにいると気付けないような感じだ。
盗賊系のジョブかな。
思ったより強そうだ。
これは四人同時は結構きついかな?
「朱莉。京子と一緒に拳士と魔法使いの二人の足どめを頼めるか?」
でも、俺だって一人じゃない。
朱莉と京子がいるのだから、四人のうち二人を任せればいいだけだ。
朱莉と京子が二人を抑えてるうちに、俺が竜也と戦士を倒して仕舞えば、後の二人は多分どうとでもなる。
「大丈夫。でも、倒しちゃっても問題ないんでしょ?」
「……あぁ。頼む」
「!! うん!」
朱莉が自信満々に請け負ってくれる。
朱莉は俺の趣味を知ってるから、有名なセリフを言ってくれたんだろう。
でも、ごめん。それ、死亡フラグなんだ。
俺は一刻も早く竜也たちを倒すことを決心した。




