第34話 かっこいいセリフだけど、それ死亡フラグなんだよな②
「これは、間違いないな」
「そうですね」
ダンジョンを出てからまっすぐ朱莉の家に帰ると、ローテーブルの上に一枚の写真が置かれていた。
窓を塞いであったブルーシートがなくなっているので、窓から侵入したのだろう。
その写真にはどこかの床に寝かされた美香さんが写っている。
乱暴は受けていないようだ。
少しホッとすると同時に、こんなことをしてきた竜也たちに対する怒りが沸々と膨れ上がってくる。
「……」
そして、その裏には「ダンジョンGo!について話がある。地図の場所まで来い」と書かれていた。
文字の下には簡単な地図が描かれている。
この場所は品川区だな。
タイミング的にも竜也たちだろう。
「ごめん。まさか、警察病院に侵入されるとは思ってなかった。留置所にだって侵入できたんだから、警察病院にだって侵入できるって想像できたはずなのに」
「サグルっちは悪くないよ。私だってお母さんが攫われるなんて少しも思ってなかったもん。それに、病室内にはいられないんだし、多分一緒だったよ」
留置所にいた犯人たちは殺されていたので、少し想像すれば警察病院も安全じゃないとわかったはずだ。
だが、竜也たちのターゲットは多分俺たちだろうし、美香さんの方は大丈夫だと勝手に勘違いしていた。
まさか、人質にするために攫われるとは思っていなかった。
確かに、俺たちは美香さんの病室内にはいられないが、守る方法はいろいろあったはずだ。
「まだそれほど時間は経ってません。早く助けに行きましょう」
「そうだな」
俺たちがダンジョンを脱出したのが三時ごろで、美香さんがいなくなったのがその数分前。
二時半に看護師さんが確認に行った時には美香さんは無事だったらしい。
新宿のダンジョンから朱莉の家まで俺が二人を担いで全力ダッシュできたので、ダンジョンの脱出から数分で戻ってこれた。
だから、攫われてからまだ三十分ほどしか経っていないはずだ。
美香さんはまだ無事な可能性が高い。
だが、時間が経てば経つほど危険は増していくはずだ。
今は病院で打たれた睡眠薬が効いているおかげで眠っているようだが、起きれば美香さんはパニックになると思う。
そうなれば、竜也たちは何をしてくるかわからない。
少なくとも、病院の医師みたいに優しく対処してくれるとは思えない。
「警察が来る前には動いた方がいいと思うし」
佐々木さんと斉藤さんもこの家に向かっているらしい。
見つかってしまうといろいろめんどくさそうなので、早く移動したほうがいい。
俺たちは朱莉の家を後にして品川区へと向かった。
***
「なんか、不気味ですね」
「そうだな」
俺たちは朱莉の家を後にして、地図にあった場所へときていた。
地図の場所は寂れた倉庫だった。
扉は錆びているし、アスファルトの隙間からは雑草が生え放題になっているので、おそらく今は使われていないのだろう。
東京にもこんな場所があるんだな。
「中に入ってみよう」
「うん」「はい」
扉には鍵がかけられていなかった。
いや、鎖と南京錠で鍵がかけられていた痕跡はあったが、鎖は引きちぎられ、門の片方にぶら下がっている。
引きちぎられた鎖も錆び始めているので、かなり前からこの場所を勝手に使ってるみたいだ。
扉はギギギギと軋みをあげながらゆっくりと開く。
扉は錆び付いているため、かなり重く、忍者のジョブ補正がないと開けられたかどうか微妙なところだ。
中は真っ暗で、入り口から入った光が、倉庫の中を照らす。
そして明るくなった場所に誰かが倒れているのが見えた。
その人影は病衣を着ており、薄汚れた倉庫からはかなり浮いて見えた。
「お母さん!」
倒れていたのは、美香さんだった。
朱莉は急いでその人影に駆け寄る。
俺も急いで美香さんの下に駆け寄った。
美香さんは意識がないようだ。
だが、血色もいいし、その寝息は穏やかだ。
さっと見まわしたが、病衣は埃で汚れてこそいるが、外傷はなさそうだ。
俺はホッと胸を撫で下ろす。
遅れてやってきた京子も安心したような顔をしている。
京子から見ても大丈夫そうなら、多分大丈夫だな。
どうやら間に合ったみたいだ。
「お母さん! お母さん!」
「朱莉。多分、まだ病院で打たれた睡眠薬が効いてるんだと思う。そっとしておいたほうがいい」
「そっか。よかっ……!! サグルっち!」
その直後、とんできた剣が『俺の頭部』に突き刺さった。




