第29話 王道が一番危険と相場が決まっている。④
「朱莉! あのトラップ、五秒、いや、十秒止められれば解除できそうか?」
「はぁ。はぁ。多分! ううん。絶対解除してみせる」
「わかった。俺が止めるから、トラップの解除を頼む」
「!! はぁ。はぁ。了解!」
動いているトラップが解除できないなら、俺がトラップを止めている隙に解除してしまえばいい。
俺ならトラップを食らっても少しの間なら耐えられる。
坂も終わったし、一度大玉が転がるのを止めてしまえば、大玉は止まるかもしれないが、ここはダンジョンの中だ。
あの大玉が物理法則に則って動いているとは限らない。
一度止めても謎の力で転がり出すと思っておいた方がいい。
「京子は余裕があれば聖域の発動を頼む」
「はぁ。はぁ。わか、はぁ。りま、はぁ。はぁ。はぁ」
「無理はしなくていいから。トラップは俺たちがなんとかする」
「はぁ。はぁ。任せておいて」
「じゃあ、行くぞ!」
俺が立ち止まると、京子と朱莉も立ち止まる。
朱莉はいつでもトラップの解除に取り掛かれるようにトラップ解除ツールを取りだす。
必要なものだけ引っ掴み、ツールボックスの方はその辺に放り投げてしまった。
京子も杖を構えて聖域を発動しようとしている。
だが、息が整わず、発動はされていない。
間に合うかは微妙なところだ。
「『一閃』!」
小太刀を構えてスキルを発動すると、いつものように時間が引き延ばされる独特の感覚がやってくる。
引き延ばされた時間の中で、ゆっくりと転がってくる大玉を認識する。
だが、いつもは見える急所が今回は見えない。
俺の技量ではあれが破壊できないということがわかった。
それどころか、有効なダメージを与えられるかどうかも微妙なところだ。
どれだけ硬いんだよ。
だが、可能な限り多くのダメージを与えて、少しでも長く大玉を止めるため、大玉の全体像を確認し、重心を割り出す。
そこに最大のダメージを与えられるように一撃を繰り出した。
「しっ!」
大玉に攻撃を加えた小太刀はガラスが砕けるような音を立てて砕け散る。
だが。これまで最高の一撃が決まったと思う。
その証拠に、俺では有効なダメージを与えられないはずの大玉は一瞬ではあるが後退した。
つまり、勢いは完全に殺せたということだ。
「やっ……てない!」
だが、案の定、大玉はすぐに俺たちの方に転がり始める。
やっぱり、物理的な力じゃなくて、魔法的な何かによって動いていたようだ。
このままだと三秒もしないうちにまた俺たちに向かって転がってきそうだ。
流石に、三秒では朱莉もトラップの解除はできないだろう。
「うおぉぉぉぉ!」
「サグルっち!?」
俺はアメフトのタックルみたいにして大玉にぶつかっていく。
攻撃で止められないなら体で止めるしかない。
「朱莉! 今のうちに頼む!」
「!! わかった! 『トラップ解除』!」
朱莉はトラップの解除に取り掛かる。
どうやら、結構大変みたいだ。
その表情はかなり厳しい。
(俺のHPはもつか?)
なんか身体中がめちゃくちゃ痛い。
身体中を引きちぎられるみたいな感覚だ。
多分、トラップの周りに力場みたいなのが発生していて、触れている相手にダメージを与えるようになっているんだと思う。
自分のHPがガリガリ減っていってるのがわかる。
でも、五秒くらいなら持ちそうだ。
十秒持つかは微妙だが、気合いでなんとかするしかない。
「はぁ。『聖……』はぁ。はぁっ『聖域』! はぁ。はぁ」
「!!」
直後、京子の聖域が発動した。
次の瞬間、俺へのダメージが無くなる。
同時に身体中の痛みもどこかへいってしまった。
だが、俺のHPの代わりに京子のMPがガンガン減っているはずだ。
さっきのダメージの感じから言って、持って五秒というところか。
俺の残りHPもたせば、十秒は余裕で持つはずだ。
俺は、再びダメージが来ることに身構えながら、大玉を押さえ続ける。
「うぉ!?」
だが、ダメージが来る前に大玉はガラスが砕けるような音を立てて砕け散った。
「解除成功〜〜〜」
どうやら、トラップの解除に成功したらしい。
朱莉はばたりとその場で横になった。
俺もその場にへたり込む。
京子も杖をついてへたり込んでいた。
「やったね!」
「あぁ」
俺たちは心地よい達成感と共に、しばらくの間、その場所で休憩した。
ちなみに、トラップの奥にあった宝箱の中身は中級ポーションだった。
二度とこんなところくるか!




