第22話 本来は攻撃的な表情である。
「それで、負けておめおめと戻ってきたってわけか?」
「いや、違うんだ! 竜也!」
「そうだ。あいつらがずるい手を使ってきたから」
「……」
充と悟、恭平の三人は有村家から逃走して、竜也の下に戻ってきていた。
警察から逃げることは充たちにとって特に問題はなかった。
ダンジョンに潜ればそれだけで一般人である警察の目からは見えなくなるのだ。
自分たちを発見できない警察など恐れる必要はない。
事前の情報通り、近くにEランク以下のダンジョンはなかったが、ないならあるところまで行けばいいのだ。
ノロマな警察から駅一つ分逃げることなど、彼らにとっては造作もないことだった。
だが、帰ってくると、竜也はたいそうご立腹だった。
充たちがおめおめと逃げ帰ってきたからだ。
後ろ盾となる大きな組織がない半グレは舐められたら終わりだ。
一度舐められれば周りの同業者からも攻撃されるし、仕事にも支障をきたす。
そのため、竜也は自分のパーティメンバーである三人が逃げ帰ってきたことを重く受け止めていた。
「言いたいことはそれだけか?」
「「!!」」
悟と恭平は竜也の睨みに震え上がる。
悟と恭平は竜也と同じパーティではあるが、二人と竜也の実力差は隔絶していた。
竜也がセカンドジョブを失ったが、それでも二人がかりでも竜也には勝てないと思っている。
特に、竜也は探索者である部下たちを今まで何度も粛清してきたので対人戦に特化した成長をしていた。
戦闘になれば敗北するのはどちらか目に見えている。
「充! お前もなんとか言ってくれよ!」
「僕はー逃げてきたんじゃなくてー。少し気になることがあったからー帰ってきただけだからねー」
「気になること?」
一人だけ余裕の表情だった充が話し始めると、竜也は興味深げに充の方をみる。
探索者になってから仲間になった悟や恭平と違い、充は竜也が探索者になる前からの知り合いだ。
そのため、竜也は充にだけは気を許していた。
そんな充が気になることがあると言い出したので、竜也は一度矛を収めたようだ。
悟と恭平はホッと胸を撫で下ろす。
「……なんだ。言ってみろ」
「あの探索者さー。剣と魔法のー両方を使ったんだよねー」
「「そういえば」」
悟と恭平もそのことを思い出したようだ。
サグルと呼ばれていた探索者は剣で充とやり合いながら、魔法で悟の火球を撃ち落とした。
これは本来起こり得ないことだ。
ジョブは基本的に物理特化か魔法特化に分かれている。
魔法使いは剣を使えないし、戦士は魔法が使えない。
魔法と剣の両方を使える見習い手品師というジョブもあるにはあるが、所詮は手品師だ。
戦闘にもサポートにも使えないゴミジョブだと聞いたことがある。
「もしかして、魔法剣士みたいな派生ジョブだっていうのか?」
「まさかー。そこまで強くはなかったよー」
例外的に、魔法使いと戦士の派生ジョブである剣士のジョブランクを一定以上にすると魔法剣士というジョブが発生すると広く知られている。
魔法と剣の両方が使える強ジョブだ。
発生条件が厳しいため、かなり強力なジョブだと言われており、Cランクのダンジョンに潜っている上級探索者の中に何人かいると言われている。
竜也たちも前に一度だけダンジョン内でそれっぽい探索者を見たことがあるが、竜也たちが手こずるであろうDランクのモンスターを一人で屠っていた。
だが、今日戦った探索者はそこまで強くなかった。
「じゃあ、なんでそいつは魔法と剣の両方が使えたんだ?」
「竜也はーわかるんじゃないかなー? 元最速ダンジョン踏破者の竜也ならさ」
「……」
一つのジョブでは魔法と剣とを使うことができない。
だが、魔法使い系のジョブと戦士系のジョブの両方を持っていればどちらも使うことができる。
そこまで考えて、竜也は充が何を言いたいのかやっと理解した。
「そいつが新しい最速ダンジョン踏破者だって言いたいのか?」
「それはーわからないかなー。でもーもしそうだったらー竜也は自分で殺したいでしょー?」
「……」
「「ひぃ」」
竜也がニヤリと笑い、殺気が膨れ上がる。
殺気の矛先ではない悟と恭平が震え上がってしまうほどの殺気だ。
笑顔は本来、攻撃的な表情だと言われているが、竜也の表情はまさにそれだった。
充は久しぶりに本気になった竜也を見てニヤリと笑う。
「幸子も呼び戻せ。俺が直々に引導を渡してやる」
「りょ〜かーい」
充は軽く返事をすると、竜也の下を後にする。
悟と恭平もそんな充を追いかけるように部屋から出ていった。
倉庫内には他のメンバーもいたのだが、竜也の殺気を恐れてどこかへいってしまったらしい。
竜也の倉庫には竜也以外誰もいなくなっていた。
「くくく。見つけたぞ。これまでの落とし前をつけてやる」
竜也は誰もいなくなった倉庫で、一人、笑うのだった。




