第20話 マッポが来たから撤退するぞ!②
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
「京子!」
ガラス窓をぶち抜いて入ってきた男はまっすぐに京子の方に向かう。
俺は京子と男の間に滑り込み、男の右拳を受け止める。
「『鉄拳』!」
「ぐっ」
「サグルさん!」
スキルを使ったということはこいつは間違いなく探索者だ。
なんとか両手をクロスして受けることができたが、直接攻撃を受けた右腕が痺れてしまう。
これほど強いダメージを受けるのは初めてだ。
無敵の人の効果があっても声を出すのが我慢できなかったくらいだ。
間違いなくEランクのダンジョンボスよりも強い。
武器なしではかなりきついかもしれない。
「『二連撃』!」
「(やっぱり、武器を出す隙はくれないよな)」
男は今度は左手を振りかぶる。
スキル名から言って連撃を繰り出すつもりなんだろう。
こいつはおそらく、拳士だ。
拳士は武器を装備できない代わり、連続攻撃が得意なジョブとヘルプに書いてあった。
多分、俺に武器を装備する余裕を与えずに倒し切るつもりなんだろう。
「サグルっち! コレ」
「!! 助かる」
後ろで様子を見ていた朱莉がアプリから小太刀を取り出し、投げてくれる。
朱莉のダンジョンGo!の中にも俺の武器が格納されていた。
もしもの時のための予備だ。
予備のため、今使っているメイン武器よりは少し劣るが、ないよりは全然いい。
「『斬撃』!」
「!!『バックステップ』」
俺が受け取った武器を飛んできた勢いそのままに切り付けると、拳士はスキルの発動を中断し、俺の斬撃をバックステップで避ける。
そして、入ってきた窓際まで下がっていく。
「このまま帰ってくれるなんてことはない?」
「まさか、そんなわけないだろ?」
「ちょっとー。抜け駆けはー、ずるいんじゃないかなー」
「俺としては役割がない方が良かったんだが」
拳士の後ろから、剣をもった戦士っぽい男と、杖を持った魔法使いっぽい男が入ってくる。
おそらく、拳士のパーティメンバーだろう。
「気をつけろ、思っていたよりこいつ、やるぞ」
「まぁねー。Eランクダンジョンをーかなりのスピードでー攻略できるやつだからねー」
「はぁ。本当にめんどくさい」
拳士と戦士の二人が前に出て、魔法使いが後ろに下がる。
そして、戦闘態勢を整える。
「まぁー。三対一ならー。負けないだろうけどー」
「そうだな。むっ!」
拳士はとんできた何かをはたき落とす。
拳士が確認してみると、それは投擲用のナイフのようなものだった。
とんできた方を見ると、朱莉がおり、朱莉はすすっと俺の後ろに隠れる。
「『聖域』」
そして、京子と朱莉を守るように光の柱が立ち上る。
京子が聖域のスキルを使ったようだ。
聖域のスキルは発動者の一定範囲内に対する防御スキルで、京子の近くにいれば攻撃を受けてもダメージを受けない。
その代わり、京子のMPが受けた攻撃分減少するし、内側から外側への攻撃もできないようになってるんだが。
「『高強化』、『高加速』」
そして、立て続けに強化魔法を俺と朱莉にかける。
赤と緑の燐光が俺たちの周りに舞い、ステータスが上昇した感覚がわかる。
「どこに目をつけてるんだ? 三対三だぞ」
「ちっ。そういえば、あの女は僧侶だって話だったな」
「はぁ。めんどくさい」
「でもー。戦えるのはー二人だけでしょー? こっちの方がレベルは上だろうしー。こっちの有利はー変わらないー、よ!」
「!!」
戦士の男が一歩で距離を詰めてきた。
そして、俺に向かって横薙ぎを繰り出してくる。
しかも、わざわざ武器のない右側を狙ってだ。
俺は左手に持った小太刀を右手に持ち替え、相手の剣を受ける。
「くっ」
そして、そのまま鍔迫り合いになる。
(! 重い)
スピード特化アタッカーの忍者より純粋アタッカーの戦士の方が、パワーは優っている。
それに、さっきの拳士から受けたダメージが抜けきっていないため、右手にはあまり力が入らない。
京子の支援があるのに押し負けてしまいそうになる。
「俺だけにー、かまけてて、大丈夫かーい?」
「〜〜〜〜『火球』」
「!?」
戦士の後ろにいた魔法使いが炎の魔法を放ってくる。
目標は俺の後ろにいる京子たちだ。
今、『聖域』内にいる京子たちには攻撃が効かない。
聖域の魔法については知らないようだ。
だからと言って、やすやすとその事を教えてやるつもりはない。
炎が家に燃え移ったら大変だしな。
「(『水遁・魚心』)」
「!!」
俺は左手を飛んでくる火球の方に伸ばし、水の忍術を使う。
俺の左掌から水の魚が飛び出し、火球の方へと飛んでいく。
魚は火球とぶつかり、相殺する。
『水遁・魚心』は敵の攻撃を相殺する忍術だ。
初めて使ったが、結構便利だ。
MPの消費も少ないし。
「な! 魔法!! っく!」
「ちぃ!」
驚いた顔の戦士と後ろで動き出そうとした拳士の方にナイフが飛んでいく。
朱莉が投げたものだ。
拳士は初動が潰されてしまい、こちらに攻撃して来れなかった。
戦士の方も朱莉のナイフを避けたことで体勢が崩れる。
「サグルっち! 今!」
「ナイス朱莉! うりゃ!」
「くそ!」
体勢が崩れればパワーのまさる戦士でも押し切れる。
俺は戦士に攻撃を与えようとしたが、戦士は背後に向かって飛び退き、俺の攻撃を避けた。
「どうやらー。仕切り直した方がーいいみたいだねー」
「何! 俺はまだやれるぞ!」
「バカか。恭平はいいかもしれないが、こんな狭いところでは俺も充も全力が出せない」
「む!」
朱莉の家は普通の民家だ。
こんな狭い場所では剣を使う戦士と、魔法を使う魔法使いは全力が出しにくい。
周りに被害を出していい向こうと違い、家に被害を出したくない俺たちも全力を出せないのは一緒なんだが。
「有村さん! 有村さん!! 大丈夫ですか!?」
「うるさいマッポも来たみたいだしー。撤退するよー」
「わかった」
「これでー終わったとー思わないことだよー。お前ら三人はー確実にー殺すからー♪」
「お前らの顔は覚えたからなぁ! 次は決着をつけてやる!」
男たちは捨て台詞を残して自分たちが破壊した窓から脱出していった。




