第17話 ドキドキ♪ファッションショー!②
「あぁ! もう水着売ってる!」
この時は気づかなかったが、朱莉のこのセリフが俺の地獄の始まりだった。
午前中に買い忘れたものがあると朱莉がいったので、俺たちはカフェを出て渋谷バルクに戻ってきていた。
渋谷バルクでエスカレーターに乗っていると、水着の広告が目に飛び込んできた。
エスカレーターっていつも季節物の宣伝とかがデカデカと貼られてるよね。
(そういえば、もう7月か)
7月といえばサマーレジャーのシーズンではある。
水着が売っていてもおかしくはない。
「本当だ! かわいいな〜。前の入らなくなったんだよね」
「キョウちゃんは成長してるもんね〜」
「そ、そうじゃなくて、前に水着買ったのなんて中学生の時だから! そのせいだから!」
「へー。まぁ、そういうことにしておきますかー」
朱莉は京子の体を舐め回すように見ながら意味ありげにそんなことを言う。
そうだな、京子は成長がすごいからな。
朱莉に京子の高校入学時の写真を見せてもらったが、どこがとは言わないが、間違いなく成長なされていた。
中学の時のでは入らなくなるだろうし、去年のでも入ったか怪しいところだ。
「あかりちゃんだっておっきくなってるでしょ?」
「そ、そんなことないよ!」
「うそだー。絶対おっきくなってるって」
どうやら、形勢は逆転したらしい。
確かに、朱莉もここ数年成長し続けている。
俺と初めて会った頃は本当に子供って感じだったのに。
当時は小学生だから当然か。
それにしても、朱莉が京子に押されているのは珍しいな。
大体は朱莉が京子を引っ張っていく感じなのに。
その時、朱莉が俺の方を見て逃げ場を見つけたと言わんばかりにニヤリと笑う。
「!!」
俺は嫌な予感がしたので全力で気配を消す。
「せっかくだから、見ていかない? サグルっちもいい?」
だが、逃げられなかった。
朱莉は俺の目をまっすぐ見てそんなことを聞いてくる。
くそ! 朱莉を斥候職にしたのは失敗だった。
最近の連続ダンジョンダイブですでに盗賊のジョブについている朱莉から姿を隠すのは不可能だったか。
いや、すでに捕捉された状態では気配を消しても逃げることはできないか。
待て、大穴探! まだ逃げ道があるじゃないか!
「あぁ。俺はあのベンチで待ってるから、二人で見てきてくれ」
俺は近くにあるベンチを指差してそういう。
ちょうど近くに誰もいないベンチがあって助かった。
あそこで俺が待っているうちに二人に選んできてもらえばいいだろう。
水着を選ぶなら、女の子だけの方がいいはずだ。
試着とかもするだろうし。
水着売り場とかバリバリ陽のオーラの強そうなところじゃないか。
焼け死んでしまうわ。
「えー。サグルっちの感想も聞かせてよー」
「えーっと」
だが、朱莉は俺を逃すつもりはないようだ。
ニコニコと満面の笑みでそう言ってくる。
俺は助けをもとめるように京子の方をみる。
京子だって、女の子同士の方が水着とか選びやすいはずだ。
「あの、サグルさんは私の水着見るの、嫌ですか?」
京子は少し不安そうに上目遣いに俺の方を見ている。
そんな目で見られたら嫌だとはいえない。
「……ついていかせていただきます」
「!! ありがとうございます!」
「やったぁ! じゃあ、水着売り場にレッツゴー!」
俺は朱莉に引きずられるようにして水着売り場へと向かった。
***
「燃え尽きたぜ。真っ白にな」
俺は一人、水着売り場の隅っこにあるベンチで休憩をしていた。
あのあと、結構大変だった。
美少女二人による水着ショーは熟成されたボッチの俺には刺激が強すぎた。
鼻の下を伸ばさないようにするので精一杯で、碌な感想も言えなかったと思う。
役得もあったが。
今でも目を閉じれば赤いビキニ姿の朱莉や白のワンピースタイプの水着にパレオを巻いた京子の姿が思い出せる。
まさに、瞼の裏に焼きついているというやつだ。
……二人とも、脱ぐとすごいんですね。
一杯一杯の俺を見て、朱莉は俺を解放してくれた。
今のゴタゴタが全部終われば、今年の夏に海に連れていくという条件をつけられたが。
車はレンタカーを借りればいいし、お金には困ってない。
東京の近場に海水浴場があるかは知らないが、その辺は調べればいい。
いっそのこと、沖縄とかに連れていってもいいかもしれないな。
「お待たせー。サグルっち!」
「サグルさん。お待たせしました」
「おかえり、二人とも。それほど待ってないよ」
実際、それほど待っていないが、二人の手にはそれぞれ、紙袋が下げられていた。
それぞれ別のお店の紙袋だ。
多分、俺と別れた頃にはすでに何を買うか決めており、会計だけをしてきたのかもしれない。
俺は立ち上がってその袋を受け取る。
水着の感想を言う仕事は完遂できなかったが、荷物持ちの仕事は完遂させていただこう。
「次はどこに行くんだ?」
「それなんだけど、そろそろお母さんの事情聴取も終わると思うから、帰ろうと思うの」
「あー。もうそんな時間か」
時計を見てみると、すでに四時を回っていた。
渋谷から家まで一時間以上はかかるので、今から帰ると帰り着くのは六時ぐらいになるだろう。
事情聴取は六時までと言っていたので、今から帰れば美香さんが家に着く前に俺たちが家に着けるはずだ。
「じゃあ、帰るか。京子もいいか?」
「はい」
「じゃあ、帰ろー!」
俺たちは朱莉の後を追って駅へと移動を始めた。




