第16話 ドキドキ♪ファッションショー!①
「うーん! 久々の渋谷!」
「私も渋谷に買い物に来るのは久しぶりかも」
朱莉の家で借金取りが捕まった一週間後。
俺たちは渋谷に遊びにきていた。
一週間の間様子を見てみたが、借金取りたちは現れる気配を見せなかった。
数日は朱莉の家の周りのダンジョンを潰していたが、最近はそれをやめても借金取りたちは来ない。
今週の月曜日と火曜日は家の周りのダンジョンを三人で潰しまくっていた。
昼間は京子と朱莉が学校のため、俺一人でやっていたが、Eランクは朝のうちに潰し切っており、Fランクダンジョンしかなかったため、そこまで大変でもなかった。
週の水曜日からは様子見のため、ダンジョン攻略を止めてみたが、借金取りたちが来ることはなかった。
俺たちがダンジョンを攻略しまくったせいで朱莉の家の近くにいたFランクダンジョンに潜っていた探索者が一時的にどっかに行ってしまったようでFランクダンジョンの攻略速度が落ちて、Eランクダンジョンが一日に四つほど生まれてしまったが、三人で協力すれば全部攻略するのはそこまで大変ではなかった。
おかげでかなり稼げたし、大成功と言ってもいいかもしれない。
木曜日には探索者も戻ってきていて、攻略速度も元のレベルに戻っていたし。
もしかすると、探索者の俺たちがバックにいると判断して、取り立てをやめたのかもしれない。
こんなことなら会社がまだ大丈夫なうちに探索者に成れていればと思わなくもないが、今更だろう。
そして、土曜日の今日は息抜きも兼ねて朱莉と京子で買い物に来ていた。
俺は二人の荷物持ちとしてついてきた。
本当は俺は奥さんの護衛に残ろうと思っていたのだが、奥さんは今日は警察に事情聴取に呼ばれてしまった。
なんでも、捕まった借金取りたちが留置所内で病死してしまったらしい。
病死なので、有村親子は関係ないのだが、形式的に事情聴取をするそうだ。
何を聞かれても、借金取りたちとは顔も合わせたことがないので答えられないと思うが。
流石に警察に借金取りはやって来ないだろうということで、俺はお役御免となり、京子たちと一緒に買い物に来ることになったのだ。
「サグルさん!」
「サグルっち! こっちこっち!」
「今いくよ」
まあ、息抜きにはちょうどいいかもな。
初めて来る場所だし、俺も楽しもう。
***
「(そんなふうに考えてた時代が、僕にもありました)」
お昼近くになり、俺は京子たちとおしゃれなカフェに来ていた。
今日の午前中は渋谷バルクや渋谷801、渋谷ヒカルへとか色々なところを回った。
渋谷って思ってたよりいろんなところがあるんだな。
朱莉たちは次々とショップに入っていくので、俺はついていくのがやっとだった。
そして、何より辛かったのが、今、バルクでやってるバスケ漫画のショップに行けなかったことだ。
最近復刻で映画をやっていたので、限定ショップが渋谷バルクにできていた。
ゴリ先輩のバルクTシャツとか、先生のタプタプマウスパッドとか、主人公のふんふんキーホルダーとか、気になる商品はいっぱいあった。
できれば一時間くらいみていたかった。
だが、今日は朱莉のための買い物だ。
京子だってなんだかんだとこれまで大変だったからいい息抜きになっているだろう。
俺は断腸の思いでショップに背を向けた。
(あそこは近くに他のアニメショップもあったから、陰の気が強そうなのでめっちゃ居心地良さそうだったなぁ……)
朱莉たちが行く場所は基本キラキラしているのだ。
今いるカフェも相当数のキラキラした女子たちが並んでおり、入るだけでもかなり大変だった。
並ぶのはいいのだが、周りの人たちが発する陽のオーラで焼き尽くされそうだった。
「「わー! 美味しそう!」」
朱莉と京子は運ばれてきたパンケーキを見て、目をキラキラさせている。
パンケーキにはアイスが載っており、彩りとしてベリーが添えられている。
食べるのがもったいなくなるくらいオシャレなパンケーキだ。
ホットケーキとは違うらしい。
周りの客もオシャレな格好で、美味しそうにパンケーキを食べている。
なんというか、全体的にキラキラしている。
(めちゃくちゃ居心地悪い)
アニオタで基本ぼっちのサグルとしてはこういうカフェはめちゃくちゃ居心地が悪かった。
今にも陽のオーラに焼き殺されてしまいそうだ。
世のリア充男子たちはこんなところに平気で来るのか。
心の底から尊敬する。
(あ。このパンケーキ美味しい)
ただ一つ言えることは、このパンケーキが美味しいということだ。
さすが、SNSで話題になるだけのことはある。
映えも確かに大切だが、美味しくなければそこまで話題にはならない。
まあ、比重としては8:2というところだろうか。
当然、ビジュアルの方が8だ。
やっぱり映えは必要だ。
SNSにアップロードする奇跡の一枚を撮るために全力を出す。
そのために何十枚も写真を撮るからな。
俺は食べ始めているが、朱莉と京子はまだ熱心に写真を撮り続けているし。
おそらく、SNSにアップロードする用の写真を撮っているのだろう。
二人とも楽しそうだ。
(……二人が楽しんでるみたいだし、いいか)
俺はコーヒーに口をつける。
ほろ苦いコーヒーの味が口の中に広がり、甘さの余韻を洗い流していく。
このお店、コーヒーも美味しいな。
このお店はコーヒーもこだわっているらしく、豆の販売もやっていた。
お店のオリジナルブレンドらしいが、苦すぎず、酸味もほどほどですごく飲みやすい。
パンケーキのお供として、主張しすぎていないのもまたいい。
この豆を買って帰ってもいいかもしれないな。
コーヒーミルは埃かぶってたけど、まだ使えたよな?
俺は美味しいパンケーキとコーヒーに集中することで、その場をやり過ごした。




