第13話 駆逐してやる!③
「被疑者三名! 確保ぉぉ!」
「終わったみたいだな」
「みたいですね」
俺は京子と一緒に朱莉のアパートのすぐ近くに来ていた。
警察官の声が聞こえてきたため、朱莉の家に押しかけてきていた借金取りたちが捕まったことがわかった。
「いやー。このタイミングでFランクダンジョンが生まれた時はどうしようかと思ったが、なんとかなったな」
「ですね。でも、サグルさんが速攻で攻略しちゃうんですもん。びっくりしましたよ」
警察が借金取りたちを追いかけ出した直後、近くにFダンジョンが発生した。
俺と京子は急いでそのダンジョンに潜り、攻略したのだ。
ダメかと思ったが、犯人たちが逮捕されたということはあいつらはダンジョンに入れなかったんだろう。
少し遠かったからな。
「京子がナビをしてくれたおかげだよ。ありがとう」
ダンジョンに入った直後に俺は京子をお姫様抱っこの体勢で抱えてダンジョン内を駆け抜けた。
当然、途中で出てくるモンスターは全スルーだ。
モンスターが俺たちに気づくことは稀だったし、『壁走』を使えばモンスターの脇を駆け抜けるのなんて全然問題なかった。
一度抜けて仕舞えば後ろから追いつかれることはまずない。
スピードで俺に勝てるモンスターなんていないからな。
道順は京子がナビゲートしてくれた。
京子のダンジョンGo!にはボスは出ないが俺の方は出ている。
そのため、俺のスマホを京子に預けナビをしてもらった。
おかげで迷わずボスの下まで辿り着けた。
攻略まで内部時間で1分くらいだったんじゃないだろうか?
突入までの時間を考えても、発生から消滅まで外部時間で三十秒もかからなかった筈だ。
一瞬でもダンジョンに入ってしまえば保護が効いてしまい、逮捕できないので本気で急いだ。
まあ、今日捕まえられなくても、明日もやるつもりだったんだけどな。
というか、ダンジョンを潰す作業は当分続けるつもりでいる。
どうせ今日捕まったのは下っ端だ。
替えはいくらでもいるだろうから、一人捕まったところで、この嫌がらせが終わるかはわからない。
だが、うまくいかないと分かれば流石に向こうもやめるだろう。
「これくらいならお安い御用ですよ(役得もありましたし)」
「え? 今なんて?」
「いえ。なんでもないです」
「? そうか」
なんでもないと言ってるのだから、なんでもないのだろう。
何かあるような気がするが、それを聞き出すほどのコミュ力は俺にはない。
京子が俺の不利になるようなことをするとは思えないし。
「ん? 電話?」
俺のスマホが震える。
この振動の仕方は着信かな?
取り出してみると、画面には有村朱莉の文字が表示されていた。
「朱莉からだ」
「あかりちゃんから?」
俺は電話に出る。
すると、京子が俺のスマホに耳をくっつけてきた。
京子さん。近いです。
俺はドキドキする心臓を落ち着かせるように深呼吸してから電話の向こうの相手に話しかける。
「もしもし?」
「犯人! 捕まったよ! 二人ともありがとう!」
電話の向こうの朱莉はいつも以上に明るい声を出している。
本気で喜んでるみたいだ。
やってよかった。
京子の方を見ると、京子と目があう。
京子は笑顔でガッツポーズをしてくる。
俺も満面の笑みでサムズアップを返した。
「いや、捕まえてくれたのは警察の人だよ。俺たちは大したことしてない」
「そうですよ。私たちは近くのダンジョンを攻略しただけです。それに、ダンジョン攻略にはあかりちゃんも参加してたじゃないですか」
俺と京子と朱莉の三人は今日の午後、この辺にあるEランクダンジョンとFランクダンジョンを片っ端から攻略していた。
犯人たちがダンジョンを使って警察から逃げている。
それなら入れるダンジョンを全て無くして仕舞えば犯人たちは逃げきれないと思ったのだ。
隣駅にあるDランクダンジョンは流石に手を出さなかったが、念の為と思って、駅の近くにあるEランクダンジョンまで攻略した。
昨日の会話だとDランクダンジョンは危険だから使ってないみたいだったし、俺たちもぶっつけ本番でDランクダンジョンの攻略に乗り出すわけにもいかなかった。
それに、犯人の中に見習い盗賊がいたとしても、同じ見習い盗賊の朱莉がこの近くから、隣町のDランクダンジョンに潜ることはできなかった。
だから、犯人も潜ることはできないだろう。
ダンジョンのランクが上がれば突入できるようになる距離も広くなっていくが、さすがに隣駅の近くのダンジョンに駅から離れたこのアパートから潜ることはできなかったようだ。
「あ、警察の人に呼ばれちゃった。じゃあ、キョウちゃんはまた明日学校で! サグルっちはまた明日の放課後! バイバイ! 今日は本当にありがとう」
「おう。また明日」
「あかりちゃん! また明日ね」
通話が切れたので俺はスマホをズボンのポケットにしまう。
警察が大声を出したためか、野次馬がどんどん集まってきている。
警察の応援も駆けつけてきたらしく、普通のパトカーも何台か来ていた。
よく見ると、野次馬の中に報道陣っぽい人も何人か見受けられる。
……まだ十分も経ってないのにどっから出てきたんだ?
どんどん騒がしくなってきたな。
関係者だと思われて足止めを喰らうのも嫌だし、さっさと帰るのが正解だろう。
腹も減ってきたし。
昼に弁当を食べてから何も食べてないんだよな。
ーーぐぅぅぅぅぅぅ
そんなことを考えていると、俺のお腹が悲鳴をあげる。
結構大きな音だったので、京子にも聞こえてしまったらしい。
京子は微笑ましいものを見るような顔をしている。
「笑わないでくれよ。腹減ったんだよ」
「そうですね。私もお腹空きました。帰りましょう。今日はサグルさんの好きなオムライスですよ。調理の準備はほとんど終わってるので、帰ったらすぐにできます」
「まじ! やったぁ! 京子のオムライス美味しいんだよな!」
俺たちは上機嫌で家路についた。




