第7話 張り込み捜査は無茶苦茶大変①
「アカリちゃん! 今日はお疲れ様」
「お疲れ様! また明日ね!」
「一人でダンジョンに潜るんじゃないぞ!」
「わかってるー!」
今日は三つのEランクダンジョンを踏破して、稼ぎは一人あたま十五万円くらいになった。
つまり、千体以上のモンスターを倒したということになる。
普段の十倍近くだ。
(いつもはまっすぐダンジョンの最奥部に向かうからなー)
ダンジョンのボスモンスターがいちばん実入りが大きい。
雑魚モンスター百体分の報酬が出るのだから。
だが、今日は一番の目的が朱莉のレベリングだったこともあって雑魚を倒しまくった。
どうやら、ダンジョンからダンジョンへの移動時間も考えると、雑魚を倒しまくったほうが最終的な報酬は多いらしい。
いつもより潜ったダンジョンは少ないのに、最終的な報酬は今日の方が多かった。
今度からはある程度雑魚を倒してからボスを倒したほうがいいかもしれないな。
わざわざマップを見なくても朱莉がモンスターのいる方に案内してくれるから、モンスターと会敵しやすいし。
(レベリングも上手くいったしな)
朱莉の見習い盗賊のジョブランクはⅦにまで上がった。
この調子なら明日には盗賊にクラスチェンジできそうだ。
俺としては金田がすぐに強い探索者を連れてこられると思っていないので、そこまで焦っていないのだが、早くDランクダンジョンに潜れるようになるに越したことはないだろう。
「……」
俺は去っていく朱莉の後ろ姿を見送る。
「サグルさん? どうかしましたか?」
「京子。今日、朱莉の様子がおかしくなかったか?」
「……サグルさんもそう思いましたか?」
今日一日一緒にダンジョンに潜ってみて、いくつかおかしな点があった。
独り言がやけに多かったし、すごく報酬にこだわってた。
おかげで、ダンジョンの深くの方が報酬が多いらしいとわかった。
奥に行っても報酬の安いモンスターもたまにいるから、報酬はランダムだと思っていたが、ダンジョンの一階や二階よりダンジョンの五階の方が報酬の多いモンスターの割合が多い。
まあ、普通に考えればそうか。
だが、そこまで大きく差はなかったので、なかなか気付けない。
それに気づくということは、朱莉はそれだけ報酬にこだわっていたということだ。
朱莉はお金に細かいタイプじゃなかったと思うんだけど。
「実は、今週の初めくらいからすこし変だったんですよね。急に朱莉ちゃんに謝られて」
先週学校に無理やり連れ出したことを今週になって急に謝られたらしい。
男に追われるのはかなり怖かったはずなのに、無理やり誘ってごめんと言われたそうだ。
誘拐事件があった次の日というわけでもなかったので、何かあったのかもしれないとずっと気にしていたようだ。
「……ちょっと朱莉の後をつけてみようと思うんだ。悪いんだけど、先に帰っておいてくれないか?」
「私も一緒に行きたいんですけど、サグルさん一人の方が見つかりにくいですもんね」
「あぁ」
忍者のジョブには気配を消す『隠密』や周りの非生物になりきる『擬態』、周りの生物になりきる『変身』みたいな隠れるのに適したスキルが多い。
これらのスキルは一人用で、一緒にいるメンバーは対象にならないのだ。
レベルを上げていけば『隠密』あたりはパーティメンバーを対象にできそうな感覚があるのだが、今は無理だ。
追跡対象が斥候系のジョブの朱莉である以上、京子がいない方が見つかりにくいだろう。
「わかりました。晩御飯作って待ってますね。その代わり、何があったかはちゃんと報告してください」
「わかった」
俺は京子にそう告げると、『隠密』のスキルを発動して、朱莉の後をおう。
「あんまり遅くなっちゃ嫌ですよ」
「わかってる」
京子は俺の背中に向かってそう声をかけてくる。
俺が振り返ると、京子は満面の笑みで手を振ってくれた。
え?
俺のこと見えてる?
『隠密』スキルはちゃんと発動してるのに。
「……」
今、確認していると朱莉を見失ってしまう。
後でどうだったのか聞いてみよう。
***
「ただいまー」
「……お帰りなさい」
朱莉は元気に挨拶をして家に入っていく。
中から奥さんの声が聞こえてきたから、奥さんは家の中にいるのだろう。
ちょっと元気がないようだったけど、病気か何かかな?
奥さんにもいろいろお世話になったし、少し心配だ。
(途中、スーパーに寄っただけだったな)
朱莉の家は駅から四十分ほど歩いた場所にある。
築年数はすでに五十年くらいになるボロアパートだ。
(それにしてもボロいな)
引っ越しの手伝いで一度だけきたが、ギリギリ鉄筋コンクリート製の四階建てで、見るからにボロい。
会社が潰れる前は庭付き一戸建ての結構いい家に住んでいた。
あの家は、借金の返済で差し押さえられてしまったそうだ。
家を差し押さえたのは銀行だ。
正直、闇金よりも銀行の方が無慈悲だと思う。
銀行は晴れの日に傘を貸して、雨の日に傘を取り上げるとはよくいうが、借金のカタに追い剥ぎかよというくらいの勢いで物を奪っていった。
合法なため、警察も動いてくれないのが何よりたちが悪い。
おかげで社長は奥さんと離婚するハメになった。
いや、闇金は犯罪行為までしてくるから、犯罪行為をしてこない銀行は闇金よりはマシか。
動いてくれても警察は闇金を捕まえられてないから、あんまり意味ないし。
「娘さん。帰ってきましたね」
「そうだな」
「ん?」
俺のすぐそばに止まっていた車の中から声が聞こえてきた。
気になってその車を覗いてみると、車の中には一組の男女が乗っている。
その男女の視線は真っ直ぐに朱莉の家に向かっていた。




