第2話 Dランクダンジョンはトラップだらけ①
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怨嗟の大醜猫(E)を倒しました。
経験値を獲得しました。
怨嗟のダンジョン(E)が攻略されました。
報酬:5953円獲得しました。
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「ふぅ。終わったな」
「お疲れ様です」
ダンジョンのボスを倒すと、ダンジョン攻略のメッセージが現れる。
俺が肩の力を抜くと、京子が俺に飲み物を渡してくれる。
なんか、運動部のマネージャーみたいだな。
「お疲れ様。京子こそ、疲れてない?」
「私はまだまだ大丈夫です! 最近、体力もついてきたので」
京子は両手で可愛くガッツポーズをする。
まだまだ大丈夫なようだ。
ふんすふんすと元気アピールをしている様子が小動物みたいでとても可愛らしい。
「そうか。じゃあ、今日はもう一個行っとくか。次は渋谷のほうかな」
「ぁ」
俺は思わず京子の頭を撫でる。
最近はこうして撫でても怒られるとは思わなくなった。
京子も気持ちよさそうにしているし、多分大丈夫なのだろう。
俺たちは今日もいつも通りEランクダンジョン攻略をしていた。
毎日結構なペースで攻略を進められている。
「本当はDランクダンジョンに潜れれば楽なんだけど」
「Dランクダンジョンにはトラップがありますもんね」
DランクダンジョンはEランクダンジョンと同じような洞窟型のダンジョンだった。
だが、今までなかったトラップがダンジョン内にいくつも存在していた。
まあ、トラップがあるのはいい。
ダンジョンなのだ。トラップがあってもおかしくはない。
問題は俺の忍者もNINJAもトラップの発見にはあまり役立たなかったことだ。
ジョブの能力はどこかの能力が上がればどこかの能力が下がるようになっているみたいだ。
京子の聖女が回復能力や支援能力が上がった代わりにフィジカルが下がってしまったのがいい例だ。
忍者の場合、攻撃力とスピードが盗賊職よりかなり高くなり、隠密能力も獲得しているみたいだが、代わりに罠の察知や罠解除という能力が落ちてしまっているのだろう。
当然、京子の聖女も罠の感知能力は持っていない。
つまり、俺たちパーティはトラップに対しては無力ということだ。
「すみません。私が弱いせいで」
「いや、京子のせいじゃないよ。そんなこと言ったら、俺は多分斥候系のジョブなのに、トラップの対処とかできなくてごめんって言わないといけなくなるし」
Dランクダンジョン程度のトラップであれば、俺は受けても大したダメージにならなかった。
だが、京子はそうもいかない。
聖女はHPがかなり低いので、トラップを受ければひとたまりもない。
一個目のトラップを見つけた時は本当に危なかった。
壁から飛び出した矢がまっすぐに京子の方に飛んでいったからな。
俺が壁になってその矢は防ぐことができたが、そこから先も俺たちはいくつものトラップに引っかかった。
結局、結界系スキルの『聖域』スキルを常時発動して使ってダメージを受けないようにしていたが、当然、最奥部まで京子のMPが持たなかった。
そのため、ダンジョン攻略を諦めて脱出することになった。
俺も一発一発は大したダメージではなかったが、何十回も積み重なればある程度のダメージにはなっていたし、京子の回復なしにはたいして進めなかったと思う。
たとえソロでもあのまま最奥まで行くのは無理だっただろう。
というか、流石にDランクのダンジョンでは京子のバフ無しでの戦闘は厳しい。
聖域に支援に回復にとMPを使っていれば足りなくなって当然だ。
「やっぱり盗賊系のジョブの人を仲間に加えた方がいいんですかね?」
「……まあ、そうなんだろうな」
正直、俺は少し迷っていた。
盗賊など、ちゃんとした斥候系のジョブの探索者をメンバーに加えるのが正規の方法なのだろう。
だが、俺にはセカンドジョブがある。
セカンドジョブに見習い盗賊をセットし、盗賊にまで育てれば解決はする。
しかし、その方法にも問題はある。
セカンドジョブに見習い盗賊をセットするためにNINJAのジョブを外さないといけないのだ。
NINJAのスキルは結構有用だ。
それに、京子にはNINJAのスキルをすでに見せている。
突然使えなくなったら、どうして使えなくなったのか聞かれるだろう。
その時、セカンドジョブの話をしないといけない。
別に、京子にセカンドジョブの話をすることはいいのだ。
京子が俺の敵に回ることはないだろうし。
問題は隠し事をしていたことで、京子が傷つくかもしれないということだ。
最近、京子は俺に対する依存度をドンドン高めてきているように思う。
学校からは真っ直ぐに俺の家に帰ってくるし、朱莉が迎えに来なければ学校にもいかないんじゃないかと思うくらいだ。
母親との訣別もその原因の一つだろう。
京子はまだ高校生。
まだ、保護者が必要な時期だ。
一番近くにいた俺を保護者と考えることで、精神の均衡を保っているのかもしれない。
そんな京子に隠し事をしていたとバレれば、相当ショックを受けるんじゃないだろうか?
こんなことなら、最初からセカンドジョブについて話しておけばよかったか?
いや、最初の頃はこの先どうなるかわからなかったので、手の内を隠しておいたのは正解だったはずだ。
それなら、今が話しどきか?
「サグルさん? どうかしたんですか?」
「ん? いや、どうやったら他の探索者に出会えるかなと思ってさ」
「そうですね。掲示板とかも探してみましたが、見つけられませんでしたし」
京子がケンタからネット上に掲示板があるという情報を手に入れていたので、ネットで検索してみたのだが、それっぽいものは見つけられなかった。
俺の探し方がヘボなのか、ダンジョンの謎パワーは検索エンジン大先生のSEOすらもすり抜けてしまうのか。
どちらにせよ、見つからないのであればそれを使うことはできない。
まあ、俺も京子もネット掲示板は使い慣れていないので、見つかったからと言ってうまく仲間を探せるかはわからないが。
「どっかその辺にいい人いないかな?」
「そう簡単には見つからないですよ」
俺たちは頭を捻って今後の対処を考えた。
だが、いい案は思いつかなかった。
「時間的にも次のダンジョンで最後になりそうだな。せっかく渋谷に出るし、晩飯は何か食って帰るか?」
「うーん。実は晩御飯の準備はほとんど終わってるので、サグルさんが嫌じゃなければ家で食べませんか?」
そういえば、今朝、結構時間をかけて料理をしていたな。
あの中に今夜の晩御飯もあったのだろう。
すでに準備が終わってるなら、京子の料理の方が断然いい。
京子の料理は美味しいし。
もう京子なしの生活には戻れないな。
「京子の料理を嫌だと思ったことはないよ。晩御飯楽しみだな。早く帰ろう!」
「はい! あ、お米とお味噌が切れそうなので、帰りにスーパーに寄っていってもいいですか?」
「もちろん。喜んで荷物持ちさせてもらうよ」
「ありがとうございます!」
俺たちはこうしてダンジョンを後にした。




