第37話 その、何がとは言わないが、いろいろと溜まっているものもある②
「え? 学校?」
「そう! 学校!! 一緒にいこ!?」
朱莉は制服姿だった。
理由は聞いていないが学校に行く前にこの家に顔を出したのだろう。
もしかしたら、社長の奥さんに俺のことを見てくるように頼まれたのかもしれない。
奥さんにもいろいろと世話になったからな。
奥さんと社長は東京での俺の保護者を自認していたから、朱莉を家に送り込んできてもおかしくはない。
朱莉が来たってことは奥さんの方も引っ越しが落ち着いたってことかな?
今度挨拶にでもいこうか。
それで、俺の家にきたら、最近学校に来てなくて心配していた京子がいたから、俺のことは完全に忘れて、京子の方に意識がいっちゃった感じだろう。
自分が学校に行くから京子も一緒に学校に行こうという結論に至ったらしい。
なんとも朱莉らしい。
ギャルっぽい見た目をしているが、彼女は竹を割ったような性格で、誰にでもグイグイくる。
いや、ギャルってそういうものだっけ?
なんとなく乱れてるようなイメージがあったけど、陽キャのイケメンみたいな全方位に優しいギャルもいるのかもしれない。
俺の周りには陽キャのイケメンも陽キャのギャルも寄ってこなかったけど。
「えーっと、でもまだナンパ男が学校で張ってるかもしれないし」
「それって一週間前なんでしょ? ナンパなんて、一週間も張ってないよ。もしいたとしても私が倒してあげる。こう見えても私、通信空手をやってて強いんだよ?」
朱莉はしっしっと拳を繰り出す。
腰も入っていないし、そこまで強そうには見えない。
熱し易く冷め易い朱莉のことだから通信空手もちょっと齧っただけのような気がしなくもない。
むしろ、通信空手で強い人って見たことないんだけど。
「サグルさん……」
京子は助けを求めるように俺の方を見てくる。
俺は少し考えた後、京子に耳打ちをする。
「(いい機会だし、学校、行ってもいいんじゃないか? 元々様子を見るのは一週間の予定だっただろ?)」
「(えぇ?)」
「(所詮見習いジョブが二人なんだからさ、俺に空メールでも送ってくれたら助けに行くから)」
ケンタとケンゴは二人ともまだ見習いジョブのはずだ。
まさか、誰かにパワーレベリングされていたりはしないだろう。
見習いジョブなら一般人より少し強い程度だから、俺が助けに行くまでくらいならなんとか逃げられるはずだ。
京子も聖女に上がって、見習い僧侶のランクⅠくらいの強化率にはなってるんだし。
「(……でも、その間ダンジョンに潜れないとお金が)」
「(お金は昨日結構稼げたし、当分は大丈夫じゃないか?)」
昨日はそれぞれ五百万円以上稼げてしまった。
五百万といえば、会社員時代の俺の年収一年分以上になる。
つまり、今の生活を続けるなら、一年以上は働かなくても大丈夫だということだ。
京子と一緒に生活するようになって、100%自炊になったため、生活費は間違いなく下がってるし、そう考えると五年くらいは働かずに生活できるかもしれない。
いや、たまに散財してるから流石にそれは無理か?
「(それに、Dランクダンジョンに潜るようになると、放課後の時間だけでも十分稼げそうじゃないか?)」
Dランクダンジョンなら一体のモンスターを倒すだけで五百円くらい手に入る。
二体で千円、二十体で一万円だ。
ダンジョンの攻略ができなくても、ダンジョン内の時間は十倍になるので、一日で数万円稼ぐのは難しくないだろう。
「(それは、そうですけど。サグルさんは昼間はどうするつもりなんですか?)」
「(俺は部屋でゆったりしておくよ)」
「(一人でダンジョンに潜ったりしません?)」
「(しないしない)」
どうやら、俺がダンジョンに一人で潜り、実力差が開いてしまうことを気にしていたらしい。
俺はソロでダンジョンに潜ることもできるが、少なくとも今日はダンジョンに潜るつもりはない。
ここ一週間は京子とずっと一緒だった。
家も一部屋しかないので、大体二人一緒にいることになる。
一人になれるのは風呂場やトイレだけだ。
一人の時間が取れるのは正直ありがたい。
京子は無防備で、なぜかとても距離が近い。
そうなると、その、何がとは言わないが、いろいろと溜まっているものもあるのだ。
風呂場やトイレはそこまで防音が利かないし、トイレに至ってはそこまで長く入っているのも不審に思われる。
そういうわけで、今日は一人でリフレッシュするつもりだ。
「(京子も学校に行きたくないわけじゃないんだろ)」
「(それは、そうですけど)」
俺はチラリと部屋の片隅にかけられてある京子の制服の方を見る。
制服は綺麗に洗濯されたうえ、しっかりアイロンまでかけられている。
また着るつもりがあるということだろう。
そうでなければあそこまで丁寧に扱わないはずだ。
制服を着るつもりがあるということは、また学校に行くつもりがあるということだ。
まさか、コスプレできるつもりというわけではない筈だ。
京子の話に出てきた学校はいいところだったし、学校には何人か友達もいたという話をしていた。
そういえば、話にあった友達の中に朱莉みたいな女の子もいた気がするな。
名前もあかりちゃんって呼んでいた気がするし、もしかしたら朱莉のことだったのかも。
「(……それなら、学校。行ってこようと思います)」
「(楽しんできな。学校でしかできないことは結構いっぱいあるから)」
同世代の人間が集まる機会なんて、学校を卒業して仕舞えばもうない。
学校で友達を作ったりするのは貴重な体験だ。
だから、通えるなら通ったほうがいいだろう。
「話はまとまった?」
「うん。あかりちゃん。一緒に学校行こ」
「!! うん!」
京子は手早く制服に着替える。
「「行ってきます」」
「行ってらっしゃい」
俺が手を振ると、二人は俺に向かって手を振った後、二人で手を繋いで学校へと向かっていった。
「さて、俺は溜まっているラノベやアニメの消化にあたりますか」
京子がいると消化できないんだよな。
オタクじゃない女の子がいるよこで、アニメやラノベに集中するわけにもいかない。
思わずニヤニヤしちゃったりするとキモいと思われそうだし。
かと言って、トイレなんかに長時間入っているわけにもいかない。
結果的に結構な量溜まっていたのだ。
ここ半年は会社も忙しかったし、一番楽しみにしていた作品しかチェックできてなかったから、それも考えると気になる作品は結構多い。
確か、お気に入りのラノベも新刊が出てたはずだし、今日は忙しくなりそうだ!




