第23話 『大穴探を排除しろ』③
「美優ちゃん。大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ。莉子ちゃん。僕はあんな奴らには負けない」
部屋から退室すると、莉子は心配そうに美優の背中をさする。
美優は優しい莉子に向かって笑みを返す。
あそこにいた探索者は全員、美優よりも弱い。
美優はユニークスキル持ちでセカンドジョブも持っておりもはや覚醒直前の状態である。
正直な話、美優にとっては、Cランクに上がれていない隠れ里にいる奴らはもちろんBランクに上がれていない上級探索者である純血主義者の連中くらいはなんとか対処できる。
純血主義者は無駄に数だけは多いが、実際に正面戦闘が始まれば美優の味方をしてくれる探索者もいるはずだ。
少なくとも、猪俣の本家は美優の方についてくれると思う。
だから、美優は純血主義者たちからあまりプレッシャーを感じていない。
自分より弱い相手に従わなければいけないという点で精神的にはしんどかったが、そこまで辛い状況ではなかった。
「早く、優子さんを助けないとね」
「……そうだね」
美優がそんな奴らに従っているのは姉の優子が人質になっているためだ。
優子は呪いをかけられており、純血主義者たちに命を握られていた。
もし美優が反抗をしたり、不要だと判断されれば奴らはあっさりと優子の命を奪うだろう。
あいつらはそういう奴らだ。
そして、それが美優が猪俣の本家に助けを求められていない理由でもあった。
美優の反抗が分かった時点で純血主義者たちは優子を殺してしまうだろう。
もしかしたら、美優が助けを求めようと動いただけで呪いを発動してくるかもしれない。
どんなに強い味方を手に入れたとしても、相手が呪いを発動する前に呪いをかけた相手を殺すことはできない。
つまり、優子を助けるためには最初に呪いを解かないといけないということだ。
(この隠れ里にいる間がチャンスなんだ)
隠れ里にいる間は上級探索者の純血主義者たちの目がない。
講師の中に純血主義者はほとんどいないからだ。
講師になれるほどの実力があれば純血主義者なんてやってない。
つまり、隠れ里にいる間は無駄に数だけは多い純血主義者たちの目がなくなるということだ。
幸い、猪俣の本家のご好意で呪いをかけられた姉も隠れ里にきている。
呪いを解くならこのタイミングしかない。
呪いさえ解いてしまえば、あとはどうとでもなる。
優子の命の安全さえ確保できれば猪俣の本家に泣きつくこともできるし。
猪俣の人たちは絡めては苦手だが、七曜会の一角だ。
敵が純血主義者と分かればちゃんと対処してくれるだろう。
ユニークスキルを得たことで分家から本家に引き上げられた美優を優しく迎え入れてくれたし、真剣に対処してくれると思う。
本家の人間含めて、脳筋の人が多いので、搦手には弱いという欠点はあるが、それでも七曜会の一角を張れるくらいの実力はある。
脳筋すぎるせいで、美優たちが置かれている状況には全然気づいてくれないが。
(……気づいてくれないのが悪いことばっかじゃないけどさ)
純血主義者の連中は猪俣の本家の人たちが気づかないだろうということも見越して優子に呪いをかける程度の縛りで生かしている。
他の弱みを握られている人の中には、人質が完全に監禁されている人だっているのだ。
だが、今後美優が力をつけていけば今の状況だって変わってしまうかもしれない。
実際、隠れ里に行くときに最後の姉妹団欒を楽しんでこいと外の純血主義者に言われている。
そういう意味でも、この隠れ里が最後にして最大のチャンスなのだ。
(でも、思っていたより難しそうなんだよね)
隠れ里で呪いを解くのは思っていたより難しそうだ。
なにより、呪いを解けるだけの実力を持った探索者がほとんどいない。
Cランクレベルの探索者とはいえ、優子に呪いをかけたのは上級探索者だ。
覚醒した回復職ならなんとかなるかと思ったが、優子に呪いをかけた『呪術師』というジョブはどうもかなり上位のジョブのようだ。
『僧侶』のような一般ジョブでは同じランク帯でも解呪が難しいようだ。
上級探索者候補生でしかない者たちでは解呪することはできない。
うちのパーティの回復職である莉子もほとんど覚醒に至っているが、優子の呪いは解ける気がしないそうだ。
ジョブの能力に関して「気がする」というものはバカにできない。
ジョブもダンジョンも元はといえば強い気持ちに由来するものだ。
気持ちが負けていれば勝てるものも勝てなくなるし、スキルだって本来の効果を発揮しなくなる。
それ以前に、同じランク帯でも実力に幅がある。
Cランクになった直後の探索者では落ちこぼれとはいえ、何年も上級探索者をやっている呪術師の呪いを解くのは難しいそうだ。
(でも、講師の人には頼れないんだよね)
講師の中には回復職の人もいるにはいるが、人数は少ない。
流石にそこは純血主義者たちの目が行き届いており、接触することさえできていなかった。
うちのパーティの回復職である莉子も回復職の講師とうまく接触できていないくらいなのだ。
私たちの狙っていることはお見通しということなのだろう。
「早く高ランクの回復職にならないと!」
「莉子ちゃん。無理しないでね」
そのため、莉子は隠れ里にきてから高ランクのジョブにつく方法をいろいろ調べてくれている。
だが、結果は芳しくない。
莉子以外のパーティメンバーも一緒になって探しているが、高ランクの回復職になる方法はなかなか見つからない。
ここでも回復系の講師に頼れないデメリットが出ていた。
高ランクのジョブの情報は組織で口伝されていたり親しい人から教えてもらったりする方法でしか知ることができない。
回復職を中心としている組織としては出回ってもらっては困るので、公に出てきた情報は潰されてしまうためだ。
そのため美優たちレベルで手に入れられる高ランク回復職の情報は『聖女』のように誰でも知っているデメリットが大きく、なりにくいものだけだ。
その『聖女』だって、今はついている人がいるらしく、莉子がつくことはできない。
「……誰か、高ランクの回復職の人いないかなぁ」
「……いたらいいね」
高ランク回復職の知り合いができれば莉子が高ランク回復職になるヒントくらいはもらえるかもしれない。
いや、高ランク回復職につける人なんて、きっと優しいくて聡明な人だから美優たちの状況にすぐに気づいてなんとかしてくれるだろう。
いつものようにそんな夢のような話をしながら美優たちは帰路を急いだ。
共同寮のそばを通ったとき誰かがくしゃみをする音が聞こえてきたような気がするが、まぁ、気のせいだろう。




