第22話『大穴探を排除しろ』②
「お前ほどの実力があれば新人探索者程度どうとでもできたはずだ」
「……」「(ビクッ!)」
純血主義者たちは美優のことを鋭い目で睨む。
美優は純血主義者の手駒の一つで、今回の作戦で実行役を任されていた。
その隣には美優のパーティメンバーの莉子が不安そうに立っている。
純血主義者は美優のことを便利な手駒だとは思っているが、信用はしていない。
だから、この会合にも美優はパーティメンバーの中から一人しか連れてきてはいけないことになっていた。
そんな状況のため、美優は作戦が失敗してもそこまで悔しくはなかった。
「まさか! 僕は本気でやったよ! 相手が強かったんだ!!」
だが、そんな気持ちがバレないように血統主義者たちの前で必死な姿で弁明をする。
この場所に莉子を連れてきたのだって、莉子が一番怖がりだからだ。
莉子は演技じゃなくて、本当に純血主義者たちのことを怖がっている。
本当に怖がっている莉子が隣にいれば、美優の演技もバレにくい。
そのため莉子には悪いと思うが、美優は会合に莉子を連れてくるようにしていた。
本人も納得してくれているとはいえ、ここまで怯えられると心は痛む。
「ちっ。お前も所詮は下賎のものということか……。まぁいい。次は絶対に成功させろ。そうじゃないとお前の姉がどうなるかわかっているんだろうな」
「……はい」
「次の作戦が決まれば連絡する。さがれ」
美優は最後に深々と頭を下げた後、会合の場から退室した。
「……次の作戦はどうする?」
誰かがそういうと、参加者は全員押し黙った。
全員、偽の入里試験が成功すると思っていたため、次の手など考えていなかった。
実際、偽の入里試験を突破した探索者はほとんどいない。
その失敗例だって、かつての無能な純血主義者が、手駒を出し惜しんだせいで発生したものだ。
もう一度同じ作戦を共同寮への入寮試験と称して最強の手駒で行うことで成功している。
だが、今回は過去の失敗も踏まえて自分たちの中で最強の手駒であるユニークスキル保持者で当たった。
にもかかわらず失敗してしまった。
その上、里長の介入が入ったのだ。おそらく、すでに共同寮には案内されているはずだし、共同寮の入寮試験と嘘をつくことはできない。
手駒に加えるにしても、一度純血主義者が上で外部のものが下だと解らせておきたい。
それに、純血主義者たちは勘違いしているが、今までの途中参加者たちとサグルたちは少し違う。
パーティメンバーに大槌家の人間がいるためだ。
普通の途中参加パーティはどこにも伝手がなくて、隠れ里の開始に間に合わなかった場合が多い。
ほぼCランクなのに、隠れ里のはじまる時期になっても普通にダンジョンに潜っているパーティに誰かが声をかける感じだ。
そのため、隠れ里内に人脈が全くない。
だが、サグルたちには大槌家出身の雅がいる。
雅は大槌家経由で人脈があり、純血主義者たちのつく稚拙な嘘程度であればすぐに気づける。
彼らの作戦は最初から破綻しているのだ。
だが、歴史くらいしか取り柄のない純血主義者ではそのことに気づけない。
「……実力行使に出るしかないんじゃないか?」
「なに?」
「……事故に見せかけて完全に排除してしまうんだよ」
完全に排除する。
つまり、殺してしまうということだ。
隠れ里で探索者が命を落とすことは珍しくない。
いくら安全に気を使っているといってもダンジョンなのだから、死者が出ることを完全に防ぐことはできない。
今年もフィールドと外部の境目に近づきすぎたせいで死にそうになったという探索者はかなりの数出ている。
一歩間違えれば死んでいたという大怪我を負った探索者だってすでに十人以上いる。
だから、パーティが全滅することだっておかしくない。
「……そこまでする必要はあるか?」
「……」
巳島はそういうと発言した探索者は押し黙る。
そこまでしてしまえば、大槌家の探索者も一緒に排除しなくてはいけなくなる。
巳島たちのメリットもなくなってしまうのだ。
「……だが、舐められたままでいいのか?」
「……」
誰かの発言に今度は巳島が押し黙った。
巳島たち純血主義者にとって、メンツというものはとても重要だ。
剣崎が首謀者だということはすでにバレている。
剣崎は末端の末端とはいえ、今は純血主義者の人間だ。
つまり、形の上とはいえ、外部の探索者に純血主義者が負けたということになるのだ。
正確にいうと「強力な外部の探索者が純血主義者の末端の末端に勝った」ということなのだが、下賤なものは「外部の探索者が純血主義者に勝った」と曲解するはずだ。
このまま引き下がればそれを真実だと勘違いされてしまうかもしれない。
自尊心が凝り固まった巳島たちにはそれが我慢できなかった。
「すでに猪俣美優が関わっていることはバレているんだ。あいつを実行犯にすればいいだろう。失敗しても剣崎の暴走ということで片付けられるはずだ」
そんなはずはないのに巳島たちにはその発言はとても魅力的に聞こえてしまった。
話はどんどん進んでいき、その日のうちに猪俣美優の姉、猪俣優子の呪いが強められた。




