第20話 共同寮でのドキドキ生活♪⑤
「ほんっとーにごめん」
「別に気にしていないよ」
雅は服を着替え、いつもの白衣ルックでサジタリウスに座っていた。
俺はその雅の前でまだ土下座を続けている。
雅の声からは攻めるような雰囲気は感じられない。
だから、そこまで怒ってはいないのだろう。
顔を上げると、少し困った顔の雅がいた。
よかった。
怒ってなさそうだ。
だが、全く気にしていないわけではなさそうだ。
頬がほんのりと赤くなっているのは風呂上がりだからではないと思う。
「僕がサグルくんの話を聞き流してしまったのも原因の一つだし。それに、湯船に湯が張られている時点で気づくべきだった」
どうやら、雅は汚れてしまったので体を洗いにきたらしい。
さっき暖炉の中に頭を突っ込んだりしてたからな。
風呂に入りたくなる気持ちはわかる。
先に風呂を沸かしたのだって、後で雅が入れるようにしようとしたというのもあるし。
だが、雅はいつ手があくかわからなかったから、俺たちが先に入るという話はしたはずだ。
どうやら、雅はその話を聞き流していたらしい。
いや、聞き流していそうだなとは思ったのだ。
だが、当分は手があかなさそうだったので大丈夫だろうと思っていた。
だが、雅は俺たちと別れた後、残りのアイテムが心許なくなってきたので、必須ではないけど使用頻度の高い場所を優先的に見てきたらしい。
そして、玄関や、食堂の次にこの脱衣所にきたそうだ。
「脱衣所で色々と修繕すると流石にドロップアイテムが尽きてしまってね」
どうやら、雅はこの脱衣所の修繕でほとんどのドロップアイテムを使い切ってしまったそうだ。
大槌島の人たちがご厚意でかなりの数のドロップアイテムをくれたはずなのだが、あれを全部使い切ったのか。
俺たちは控えめにしたけど、雅はダンジョンGo!に入るギリギリくらいまでドロップアイテムを詰めてたはずだ。
生産職系のジョブの場合、生産スキルを使うことでもレベルが上がる。
それは、生産職と戦闘職の両方の性質を兼ね備えている雅の魔導装備技師でも同じだ。
そのため、レベリングにも使えるからと大槌島の人たちにギリギリまでアイテムを持たされたのだ。
溢れた分を俺たちのアプリ内にも入れたくらいだ。
当分使いきれないと思っていたが、どうやら、一週間と経たずに使い切ってしまったみたいだ。
「ちょうどいいかと思ってお風呂を使わせてもらったんだ」
ドロップアイテムを使い切ってしまった雅は手持ちぶたさになってしまった。
そこでお風呂も沸いていることだし、入ってしまったというのがことの顛末みたいだ。
「ほんとにごめん。今度からはもっと気をつけるよ」
「こちらこそすまない。実家では男女が分かれていたし、一人暮らしでは他の人が浴室に入ってくるなんてことはなかったから気を抜いていた。僕も今後気をつけるよ」
どうやら、雅の実家は大槌家関係の人がたまに泊まりに来ることもあり、浴室が男女で分かれていたらしい。
何回か転勤はしたそうだが、住む家は大体大槌家から支給された場所で工房も備え付けられた家であり、設備は充実した場所だったそうだ。
そういう理由もあり、俺が後から入ってくるとは全く考えなかったみたいだ。
京子と朱莉とは大槌島でも一緒に入っていたので、くるなら一緒に入ろうかと思っていたらしい。
マジで勘弁してくれ。
「いつまでもそうしていないでたってくれ。サグルくんが床に正座してるとこっちも話しにくいからね」
「……それもそうか」
俺はそう言って立ち上がる。
さっきまで正座していたから若干足が痺れている。
レベルアップで能力は全体的に上がっているのにこういうところは変わらないんだな。
「それにしても、しっかり強化しておいてよかった。悲鳴が京子くんたちに聞かれたら大変なことになっていたかもしれない」
「そうだな」
あれだけ大きな悲鳴をあげたのに、朱莉と京子が駆けつけてくることはなかった。
どうやら、浴室と脱衣所は声が漏れ出ないように結構頑丈にしたみたいだ。
もともと防水の観点などから密閉性は高かったみたいだが、ドロップアイテムで強化したことでほとんど音も漏れ出なくなったらしい。
俺たちの個室は風呂や食堂がある共用エリアから少し離れているというのも理由の一つかもしれない。
なんにせよ、二人が来なくてよかった。
二人も来ていたら。もっと大変なことになっていたと思う。
「だから、二人にはこのことは秘密だよ。僕とサグルくん。二人だけの秘密というやつだ」
「お、おう。わかった」
雅は唇に人差し指を当てて雅はイタズラっぽく笑う。
少し上気した頬も相まってすごく色っぽかった。
何はともあれ、こうして俺たちの共同寮での生活が始まった。




