第11話 隠れ里①
「あの〜」
「ん? どうかしたか?」
「入里試験が終わってないんですが、大丈夫なんでしょうか?」
「あぁ。お主らに試験は必要ない。準Cランクダンジョンを攻略できる時点で試験はスキップじゃ」
「へ?」
どうやら、俺たちは試験なしで隠れ里に入ることができるみたいだ。
準Cランクのダンジョンをすでに攻略していたかららしい。
確かに、さっきの試験は準Cランクダンジョンの攻略よりもずっと簡単だった。
出てくるモンスターはDランク級だったし、トラップなんかもDランクレベルのものしかなく、俺でも察知できるレベルのものばかりだった。
「じゃあ、さっきのあれは?」
「あれは、隠れ里に通っとるモンらが勝手にやったことじゃな」
「……」
どうやら、今隠れ里に通ってる組織から嫌がらせをされたらしい。
その割にルールとかがしっかりしているように感じたのはこれがよくあることだからなのだろう。
もしかしたら、俺たちだからやったというより、よそ者がきたら毎回やってるのかもしれない。
「組織間の抗争はどこにでもある。大槌家は立ち位置上、あまり巻き込まれることはないが、お主も気をつけるんじゃぞ? 特にお主らは大槌家の人間というより、フリーの探索者と考えるものも多いからな」
「はい」
しかも、雰囲気的に隠れ里側はそれを積極的に止めるつもりがないみたいだ。
俺が不思議そうに里長の方を見ると、里長はニヤリと笑って理由を説明してくれる。
「この隠れ里は上級探索者として生きていく練習の場所のような場所じゃ。里の外では当たり前のように行われていることを里の中で規制する理由もないじゃろ」
「なるほど」
競争や派閥間での足の引っ張り合いは里の外では当然のようにある。
隠れ里は里の外で上級探索者として生きていくための練習場のような場所だ。
だから、里の外でやってることを里の中でわざわざ規制しないという方針みたいだ。
確かに、里の外で生活していく準備なのに、里の外の汚い部分を全部排除してしまえばなんのための練習場かわからなくなってしまう。
「そうは言っても、今回の件はやりすぎじゃ。用務員とはいえ、里に勤めている大人を使うのは反則じゃろ」
「あの人、用務員だったんですね」
「そうじゃ。Cランクになれなかったんで、隠れ里内で雑務をやっておる。本人はまだ上級探索者になるのを諦めておらんみたいじゃがな」
そうか。
講師の人かと思ったが、どうやら用務員さんだったらしい。
そう言われてみると、ヨレヨレのスーツはあまり着なれていない感じだった。
普段はもっと動きやすい格好をしているのだろう。
そこまで強そうには見えなかったし。
しかし、用務員ということはまた会うことがあるのかもしれないな。
今日の件で嫌われてしまったみたいだし、次会うのが気が重い。
いや、会った瞬間からなぜか嫌われてたか。
「……心配せんでもえぇ。今回の件で剣崎は解任することになるじゃろう。もうお主らと会うことはないはずじゃ」
「……そうですか」
里長のそのセリフを聞いて、少しホッとした。
だが、それ以上に気になったことがあった。
「あの。相手のパーティの子達にはーー」
俺が相手のパーティの子達の話をしようとすると、里長は立ち止まり、俺たちの方に振り向く。
その顔には混じり気のない笑みが浮かんでいた。
「心配せんでもえぇ。猪俣くんたちにはなんのペナルティも負わせるつもりはない」
「そうですか」
俺はホッと胸を撫で下ろす。
彼女たちは悪い子たちではなさそうだったし、巻き込まれただけのようだった。
あの子達が酷い目に合わなくてよかった。
だから雅。
そんな『こいつ。ロリコンか?』みたいな目で見てこないでくれ。
別に相手が女の子だったことが理由じゃないから。
「あの子たちも色々と大変なんじゃ。ワシらはルールで手出しできんことになっておる。じゃから、もしよかったら気にかけてやってくれ」
「? はい。わかりました」
里長は一瞬悲しそうな顔をしたように見えたが、気のせいだろうか?
彼女たちがそこまで大変そうな状況にいるようには見えなかったが。
それに、俺たちだってまだ修行の身だ。
他の人に気を遣っていられる余裕があるかはわからない。
そのため、曖昧な返事しかできなかった。
だが、里長にとってはそれで十分だったみたいだ。
嬉しそうにうなづくと、再び俺たちを先導するようにふたたび歩き出した。
その足取りは心なしか軽いように見える。
***
「ついたぞ。ここが、隠れ里じゃ」
「え?」
しばらく歩くと、大きな門にたどり着いた。
和風の大きな門だ。
だが、その門にはなんの変哲もない門のように見える。
門の向こう側にも、今まで歩いてきたのと同じ道が続いているように見える。
「あの〜。ここですか?」
「そうじゃ。不思議そうな顔をしておるな。ついてくればわかる」
そう言って里長は門をくぐっていく。
俺たちは疑問に思いながらも里長の後について門をくぐる。
門を抜けると、そこは異世界だった。




