第10話 そんなはずない! 不正だ! 不正に決まってる!⑥
「なにをした! まだCランクに到達していない探索者がこんな大量にモンスターを狩れるわけがない! 不正したんだろ! さぁ! いえ!!」
「えっと……」
俺は目の前に迫ってきたヨレヨレスーツの男の対処に悩んでいた。
血走った目で急に近づいてきたのでかなり怖い。
京子たちも怖かったのだろう。
俺の後ろに隠れてしまった。
普段は冷静な雅まで俺を盾にするようにしている。
……いや、雅は割と怖いものが苦手だっけ?
気持ちはわかる。
俺だって怖いもん。
でも、俺は男だ。
女の子の影に隠れるわけにもいかない。
最近はジェンダーレスとかが流行っているし、そういうことを言うのは時代遅れなのかもしれない。
だが、俺の中の少年の心がここは前に出るべき場所だと囁いてくるのだ。
何より、そっちの方がかっこいい。
「あの」
「だまれ! 余計なことを喋るんじゃない!」
「「「「(え〜)」」」」
反論しようとすると発言を遮られた。
雰囲気的にこの男は俺よりも弱いと思う。
グランドにも近づこうとしていなかったし、一人ではDランクもないんじゃないだろうか?
でも、こんなふうに怒り狂っていると恐怖を感じる。
相手が何をしてくるかわからない恐怖というやつだ。
今は一旦引き返した方がいいかもな。
ダンジョンの外に出れば刀夜さんに連絡を取ることだってできる。
対策を考えて出直した方がいいだろう。
そう思ってチラリと雅の方を見ると雅はコクリとうなづいてくれる。
多分、雅も同じことを考えたのだろう。
これで外れてたら恥ずかしいが。
「わかーー」
「ふぉっふぉっふぉ。これはなんの騒ぎじゃ?」
「さ、里長!」
俺が引き返すと言おうとすると、背後から声が聞こえてきた。
驚いてそちらの方を見ると、その場所には一人の老人が立っていた。
嘘だろ?
全然気配を感じなかったぞ!?
「剣崎。これはなんの騒ぎだと聞いておるんじゃが?」
「こ、これは」
里長と言われた男性は俺の隣をスッと通り過ぎてヨレヨレスーツの男へと近づいていく。
俺はその間、背中から滝のように流れる汗を止めることができなかった。
武器に手をやらないだけでやっとだ。
下手に武器に手を伸ばしていたら敵対したと判断されて攻撃されるかもしれない。
そうなれば一巻の終わりだ。
抵抗することすらできずに命を散らすことになるだろう。
京子たちを逃す隙を作れるかどうか。
俺と里長との間にはそれくらいの実力の開きがあった。
「早く答えてくれんか?」
「あ!? え〜。その……」
ヨレヨレスーツの男は意味のない言葉を繰り返すばかりで話が一向に進まない。
「これではらちがあかんのぉ」
里長はヨレヨレスーツの男に背を向けて俺たちの方を見てくる。
その顔には友好的な笑顔が浮かんでいる。
さっきまで発されていた威圧感も完全に霧散していた。
「初めまして。ワシはこの隠れ里で長をしているものだ。皆からは里長と呼ばれておる。お主らが大槌刀夜が推薦してきた探索者かな?」
「……はい。そうです」
パッと見はどこにでもいる好々爺という感じだ。
だが、さっきまで発されていた威圧は全方位に対してのものだった。
この人レベルなら、ヨレヨレスーツをピンポイントで威圧することだってできただろう。
まだ、こちらに友好的とは限らない。
「ふぉっふぉっふぉっ。すまんのぉ。この歳になると力のコントロールもままならん。歳はとりたくないもんじゃ。お主もそう思わんか?」
「ははは。そうですね」
絶対に嘘だ。
目の前の老人からはおよそ衰えというものが感じだれない。
実際、こちらへの威圧感は無くなったのに、ヨレヨレスーツはどんどん顔色が悪くなっている。
今の顔色は青を通り越して白になってしまった。
おそらくあっちへの威圧は解かれていないのだろう。
だが、せっかく相手が友好的な態度に出てきてくれているのに、こちらが警戒を続けていてばダメだ。
警戒していようがしていまいが、戦えば俺たちの敗北という結果は大して変わらない。
俺は可能な限り力を抜いて、友好的な態度をとると、里長が話しかけてくる。
「聞いておるよ? 四人で準Cランクダンジョンを踏破したんじゃって?」
「なっ!?」
「……」
「ひぃ!」
ヨレヨレスーツが何かお言おうとしたが、里長のひと睨みで震え上がってしまう。
「刀夜の坊主の支援があったとはいえ、大したもんじゃ」
「……刀夜さんとはお知り合いなんですか?」
「もちろんじゃとも。一緒にレイドを組んでダンジョンを攻略したこともある。じゃがまぁ、この国で大槌刀夜の名前を知らん探索者はおらんよ」
それもそうか。
刀夜さんは大槌家の当主だ。
大槌家は他の探索者の武器の生産なんかをする家だから、知ってる探索者も多いのだろう。
「剣崎。沙汰は後で下す。寮で謹慎していなさい」
「そっ! ……はい」
ヨレヨレスーツは肩を落として去っていく。
どうやら、何かしらの罰が与えられるみたいだ。
理由はよくわからんが、ざまぁみろとしか思わない。
相当高圧的な態度だったからな。
「君たちは戻っていていいよ。あとはこちらでやっておこう」
「「「「「はい」」」」」
里長が声をかけると美優ちゃんたちはぺこりと頭を下げた後、去っていく。
どうやら、里長が用事があるのは俺たちらしい。
「では、四人とも、ワシについてきなさい」
「「「「はい」」」」
俺たちは里長の案内に従い、隠れ里へと入って行った。




