第4話 巳島二郎はほくそ笑む④
「隠れ里ってどんなところなんでしょうね?」
出航してしばらくは大槌島のことを見守っていた俺たちだったが島が見えなくなれば気になるのは次の行き先である「隠れ里」のことだ。
京子が話を始めたことをきっかけに大槌島の話題で盛り上がり始めた。
「どんなところなんだろうな。雅は知ってるか?」
「僕も詳しくは知らないけど、学校みたいなところだと聞いたことはあるよ」
「へー」
隠れ里というくらいだから、外部からは切り離されたところにあるのだろうと思っていた。
だが、雅の話を聞いて見た感じだと、全寮制の学校みたいな感じみたいだ。
まぁ、高校生や大学生ばかりだからそうなるのも当然か。
それに、あまり詳しい情報は雅も知らないらしい。
低ランクの探索者には隠れ里のことをあまり詳しく話さないようにしているそうだ。
隠れ里の情報を知れば個人で同じようなことをするものも出てきてしまうからなのだとか。
普通は隠れ里行きが決まった後に隠れ里の詳しい情報を先輩や上級探索者に聞くのだが、俺たちの場合それどころじゃなかった。
いや、それ以前に俺はあんまり知らない人と話すのが得意じゃないから情報収集はうまくできなかったか。
実際、雅は結構な情報をすでに手に入れてるみたいだし。
「学生ばっかりのところで生活するのは結構きついけど、まぁ、一ヶ月だけだし、なんとかなるか」
「いや、一ヶ月じゃなくて十ヶ月だよ」
「え?」
俺は雅の方を見る。
何かの冗談を言っているのかと思ったがそういう様子はない。
夏休みはどこの学校もだいたい一ヶ月しかないのに、隠れ里の中で過ごすのが十ヶ月というのはどういうことだ?
「隠れ里の本校はダンジョンのなかにあるからね。時間は十倍になって体感では十ヶ月になる」
「……まじかー」
十ヶ月になるということはその期間、学生ばかりのところに放り込まれるということだ。
一ヶ月程度であれば修行もあってそこまで親しくする必要もないだろうがそれが十ヶ月となれば話は変わってくる。
ある程度の関係性を築かないといけない。
何やらイベントのようなものもあるようだし。
確かに、一ヶ月だけにしてはやることが多いなとは思っていたが、ダンジョンなんてものがあることを忘れていた。
ダンジョン内で過ごせば一ヶ月を十ヶ月にすることができる。
Cランクダンジョンの中は環境を整えてもある程度危険はあるそうだが、そこに集うのはそのCランクダンジョンを攻略しようとする探索者だ。
その程度のリスクは背負って当然ということだろう。
「本来はダンジョン外で一週間ほど研修や試験をするみたいだけど、僕たちの場合、すでに準Cランクダンジョンを攻略しているからね。試験とかはスキップにしてもらえるらしい」
どうやら、本来は途中参加組でもダンジョン外での研修があるらしい。
ある程度環境の整備してあるとは言ってもCランクダンジョンの中であることは変わらない。
安全性を担保するために研修のようなものがあるそうだ。
命懸けの仕事をしている探索者とはいえ、隠れ里の参加者はまだ学生のため、その辺はしっかりしている。
だが、刀夜さんがいたとはいえ、準Cランクダンジョンの攻略を果たした俺たちには流石に不要だ。
というわけで、俺たちは隠れ里につけば速攻で本校の方に行くことになる。
「まぁ、派閥ごとの集まりみたいなのもあるみたいだし、そこまで大変なことにはならないでしょ」
「……そうか」
学生ばかりのところに放り込まれると聞いて落ち込んんでる俺を慰めるように朱莉がそういう。
どうやら、参加者はどこかの家の関係者になる関係で隠れ里内では所属する家ごとにグループが存在するらしい。
その家ごとに基本的に行動することになるそうだ。
というか、自分の家で行動しないと結構大変みたいだ。
一番問題になってくるのが住む場所だ。
共用の宿泊施設もあるにはあるのだが、独房のような感じのところで、施設だって寮に比べてその施設はどうしてもランクが下がる。
その上、そこにいるのは家にいられなくなった問題児ばかりだ。
お世辞にもいい環境とはいえないだろう。
「人が多い方が有利になるみたいだから、そこまで悪い扱いはうけないでしょ」
某アニメのクラスのように組織ごとに点数がついてその点数で競い合ったりもするそうだ。
そうでなくても、人が多い方ができることは増える。
後から組織に参加したとしてもそこまで悪い扱いは受けないだろう。
すでにある組織に参加するのであれば何もないところにいきなり放り込まれるよりずっとマシだ。
先輩や組織を取りまとめる人に従っておけばいい。
部外者を入れるのは入れる組織側も大変だが、部外者側も組織にどの程度従うか決めないといけないから大変なんだよな。
どうしても部外者より組織内部の人間を優遇することになるから、ひたすら組織に従っていれば部外者は不利益を被る場合が多いし。
かと言って反発しすぎると組織から追い出されたりする。
俺の場合、見た目でデバフがつくから余計に大変なのだ。
というか、朱莉もその辺の情報はゲットしていたんだな。
大槌島の復興作業の時に誰かから聞いたのだろうか?
あの島には引退したCランク探索者とかもいたし。
「……申し訳ないんだが、大槌家は中立の立ち位置だから、どこの組織に参加するかは自分で選ぶ必要があるんだ」
どうやら、大槌家は家自体が生産職中心で中立的な立ち位置にいるため、隠れ里内でも中立的な立ち位置らしい。
組織とかもなく、それぞれがどこかの組織を選んで所属するそうだ。
大槌家の探索者もブラックスミスのような準生産職の探索者が多いからな。
一つの組織として動くのは難しいところがあり、かと言って組織ごとどこか特定の組織の傘下に入るとそこが強くなりすぎる。
結果、大槌家は組織を持たず、個人でどこか外の組織に参加することになっているらしい。
当然、それは大槌家から推薦を受けている俺たちにも適用される。
つまり、俺たちもどこかの組織に参加させてもらわないといけないということだ。
「……」
俺はこれから起こるであろうめんどくさい色々を考えながら黙って天を仰いだ。




