第3話 巳島二郎はほくそ笑む③
「色々と世話になったな」
「こちらこそ、お土産もたくさんもらってしまってありがとうございます」
「アイテムについては気にする必要はねぇよ。しきたりみたいなもんだし、島民はみんなサグルたちに感謝してるってだけだ」
準Cランクダンジョンを攻略した翌日。
俺たちは大槌島の港で船を待っていた。
俺たちはほぼ手ぶら状態だが、ダンジョンGoのアプリ内にはかなりの量のアイテムが入っている。
今回のダンジョン攻略で手に入ったものだけじゃなく、ダンジョン内で使えるテントみたいなアイテムから、まだ未加工のAランクダンジョンのアイテムまで色々だ。
そのほとんどは島民の人から貰ったものだった。
ダンジョンの攻略に成功したと聞くと本邸にまだ島から避難していなかった島民が押し寄せてきたのだ。
あまりに人が多かったため、俺たちとは直接会わず、本邸の人たちが対処してくれたらしい。
本当に助かった。
流石にダンジョン攻略の疲労が抜けきっていない状況で知らない人たちと話をするのはかなりしんどい。
そこで、直接感謝を言えないならということで、いろいろなプレゼントをくれたのだ。
刀夜さんは特にもらう必要もないとのことだったので、全て俺たちがもらうことになった。
旧家の多くでは村の近くにダンジョンができた場合、攻略を果たしたパーティに貢物をする風習があるらしい。
無理をしているというわけではなく、復旧にかかったであろう費用の一部をお返しとして攻略パーティに贈るというものだ。
風習でもあるため、断るのも失礼に当たるのだとか。
そういうわけで、ありがたく頂戴することにしたのだ。
「この様子なら数日中には島民も全員戻ってこられそうだ。準Cランクダンジョンの影響もほとんどなかったしな」
ダンジョンの影響は想定していたより少なかったらしく、すでに復興が始まっている。
生産職の探索者が多いだけあってその復興はとても早い。
何よりも良かった点は準Cランクダンジョンの影響があまり広がらなかったことだ。
準Cランクダンジョンの影響はダンジョンが発生した広場の一部にのみ出ていた。
ダンジョンの影響がもっと広範囲に出ていればここまで迅速に復興作業はできなかっただろうとのことだ。
ダンジョンの影響がでた場所ではスキルによる復旧作業がうまくできなくなるらしい。
Cランクダンジョンの影響を受けた場所は上級探索者クラスでないと復旧作業は満足にできない。
ダンジョンが消滅してもその場に影響を与えた魔力はすぐには抜けないからだろうと予想されている。
復旧ができないだけではなく、下級探索者以下の探索者が近づいてしまえばダンジョンの魔力の影響で大怪我を負ってしまったりするそうだ。
そのため、ある程度の復旧が終わるまではリクちゃんを始め、非探索者の島民は島に帰ってこない予定らしい。
そうはいっても避難生活は長くて数日だそうだが。
「わるいはなしだけじゃねぇ。今回は魔力によるダンジョン外への影響の研究も進みそうだしな」
刀夜さんはチラリとダンジョンがあった方を見る。
おそらく、砦を消したことで砦を境にまるで線を引いたかのようにダンジョンの影響が抑えられていた光景を思い出しているのだろう。
今回、ダンジョンの裂け目が生まれたことで、Cランクダンジョンにも拘わらずダンジョンからモンスターがでてきてしまうかもしれないということになった。
そのため、雅を筆頭に多くの探索者が裂け目を囲うように砦を築いた。
結局、ダンジョンからモンスターが出てくることはなかったが、砦を撤去してみると砦を境に明らかにダンジョンによる魔力の影響がなくなっていた。
そうして、調べてみると、ダンジョン外への影響はかなり小さかったことがわかった。
今回はただダンジョンができていただけじゃなく、ダンジョンの裂け目ができて外部とダンジョンが繋がってしまっていたというイレギュラーな事態だったにも拘わらずだ。
こういう時は外部への影響はめちゃくちゃ大きくなるらしい。
前回同じような事件が起きた時は、ダンジョンの影響範囲は通常の十倍以上になっていたとの記録が残っていたそうだ。
今回の件は異例だと言っていい。
その原因は間違いなく雅の作った砦だろう。
「それに、今回砦を作ったのはダンジョンよりランクの低い探索者だった。ランクの低い探索者でもダンジョンが外へ与える影響が抑えられるなら、これはかなりの発見だ」
今回砦を築いたのは雅をはじめ、全員が下級探索者だった。
つまり、下級探索者でもCランクダンジョンに対して有効な対処ができるということになる。
Cランク以上のダンジョンの一番厄介な点はダンジョン外に影響を与えてしまうということだからな。
それを抑えられるというのはかなりの朗報だ。
今までは後任の育成に向いていそうな比較的安全なCランクダンジョンが発生しても周りへの影響も考えて泣く泣く潰さないといけなくなったりしていたそうだ。
Cランクダンジョンを保持し続けるのはよっぽど特殊な状況が揃った時だけだった。
それをある程度引っ張れるというのであれば、上級探索者への閾が少し下がるかもしれない。
「これはもしかしたらSランクダンジョンの対処にも使えるかもしれねぇ。慎重に進めねぇといけねぇとは思うけどな」
刀夜さんは少し興奮気味にそういう。
ダンジョンよりランクの低い探索者でも砦などによって影響を抑えられるのであれば、今は野放しになっているSランクのダンジョンに対しての対処にも使えるかもしれない。
Sランクダンジョンの踏破は大槌家の目的で、その対処は大槌家の存在意義といってもいい。
その手法の一つが刀夜さんの代で見つかるというのはやはり名誉なことなんだろう。
だが、うまくいきそうだからと言って安易に試すわけにもいかない。
準Cランクダンジョン内では砦を築いたことで砦にボスモンスターまで攻めてきた。
Sランクダンジョンの場合、ダンジョンの外に砦を築くことでダンジョンの外にボスモンスターが遠征してきてしまうかもしれない。
藪を突いて蛇が出てきても困るのでその辺は慎重に進めるつもりだそうだ。
藪なら突いても出てくるのは蛇程度だが、Sランクダンジョンの場合、出てくるのがドラゴンとか不死鳥とかヤバい生物になりかねないからな。
「お? 船がきたみたいだな」
「はい」
刀夜さんと話をしているうちに遠くから船が近づいてくる。
多分俺たちがこの島にくる時にも使った船だ。
「じゃあ、元気でな」
「はい。刀夜さんも」
俺たちは刀夜さんに別れを告げて大槌島を後にした。




