第2話 巳島二郎はほくそ笑む②
「それはいい」
「これは見物ですな」
「よそ者はよそ者同士。潰し合えばいいのだ」
多くのものが口々に賛同の声を上げる。
今年は巳島たちの手駒にユニークスキル保持者がいた。
ユニークスキル保持者はえてして強力だ。
その力を使えば、頭角を表してきた程度の探索者であれば対処するのは容易。
彼らはそんなふうに考えていた。
「じゃあ、ユニークスキル保持者を新入りにぶつけるということで決定でいいだろうか?」
「そうだな。それがいい」
「新入りが我らに頭をたれるというのであれば使ってやろうじゃないか」
「しぶしぶだがな」
巳島らの顔には愉悦の色が浮かんでいた。
巳島らは『ユニークスキル保持者』を使いたくて仕方がなかったのだ。
サグルたちのことだって、『ユニークスキル保持者』を使う機会を探していて偶然見つけたのだ。
ユニークスキル保持者は強い。
隠れ里に来ている探索者は皆Dランクの上位レベルだから、頭一つ飛び抜けて強いことになる。
それこそここにいる巳島たちよりも。
自分よりも強い存在を顎でつかえることに巳島たちは愉悦を覚えていた。
普段は巳島たちもより上位の人たちにいいように使われている存在だというのもあるのだろう。
「……本当にそれでいいのだろうか?」
「どうした?」
だが、一人の参加者が不安そうな声を出す。
「あのユニークスキル保持者が我らの配下にいることはそこまで有名ではないが知っているものは知っている。そいつがもしも大槌家の探索者にまで被害を加えてしまったら大変なことにならないか?」
「それは……」
ユニークスキル保持者というのはどうしても目立つ存在だ。
本人が隠していてもどこかから情報は流れてしまう。
巳島たちの配下のユニークスキル保持者だって、情報を手に入れたから巳島の上司たちが他の組織に先んじて抑えたのだ。
その過程で少し問題のあることだってしている。
そんな理由もあり、ユニークスキル保持者が純血主義者の配下にいることは調べればわかってしまうのだ。
そのユニークスキル保持者が日本で最大級の生産職組織である大槌家の人間を傷つければ大槌家は彼らの組織と敵対することを選ぶかもしれない。
大槌家と敵対してしまえば彼らはかなりまずい立ち位置に立たされてしまう。
最悪、大槌家から旧家や企業系探索者に何かしらのアプローチがあることだって考えられる。
彼らは各組織に所属しながら純血主義者の組織に所属している。
旧家や企業系探索者の組織の方から目をつけられてしまえば動きは取りにくくなる。
最悪、組織自体が瓦解しかねない。
「……しかし、外部の探索者が大槌家の探索者をいいように扱うのを見逃すというのも」
「……それは」
しかし、彼らの理念から言って、大槌家という歴史ある名家の探索者が外部の探索者の下にいるのは面白くない。
外部の探索者を排除できないにしても、何とか外部の探索者と大槌家の探索者を切り離したい。
そんなふうに考えていた。
「……入里試験に細工をするのはどうだろう?」
「なに?」
「隠れ里にくるということは入里試験を受けることになるだろ? 里に入る前なら俺たちの情報も知らない。最低でも顔は割れていないはずだ。誰がやったか確証が持てなければ組織も動くことはできない」
「それだ!」
里に入るためにはふつう、入里試験を受ける必要がある。
試験といっても通過儀礼的なもので企業などの推薦があれば結構簡単なものになる。
Dランク探索者でも合格できるくらいの簡単なものだ。
巳島たちはその試験の開始前に偽の入里試験を用意して、そこで不合格にして追い返そうと考えていた。
実際、純血主義者は過去に何度かその方法で外部の探索者を追い返している。
入里試験で不合格になったのであれば仕方ないとされる場合が多い。
たまに頭の硬い講師がいる場合など、入里試験が異様に難しくなってしまう年があるので、企業の送った探索者が不合格になる場合もあるからだ。
里内と里外では簡単には連絡が取れないので隠れ里の期間が終わるまでは不正が明るみに出ることもない。
里の終了一週間前に細工を止めれば不正の証拠も残らないはずだ。
直系の人間など、重要な人間なら組織側が人を送ったりする場合もあるが、外部の探索者がリーダーのパーティならそこまでの手間も取らないだろう。
そして、何度も追い返す途中で、大槌家の探索者にはこちらから特別に入れてもいいと持ち掛ければいい。
大槌家の探索者も外部リーダーなんて気に食わないだろうから、すぐに誘いに乗ってくるに違いない。
外部の探索者は大槌家とのつながりも絶たれてもう帰るしかなくなるという寸法だ。
偽の入里試験ならユニークスキル保持者も使うことができるのでまさに一石二鳥だ。
だが、入里試験はパーティの実績によってはスキップされる場合が多い。
サグルたちも準Cランクダンジョン攻略の実績でスキップということになっている。
巳島はそこまで詳しいことは知らなかった。
「では、試験で余所者を追い返し、そのあと大槌家の探索者は各自勧誘するということで」
「なぁ!」
「恨みっこなしですよ」
「意義なし」
そこで慌てたのは巳島だ。
巳島は大槌家の探索者は自分たちで確保するつもりだった。
所属パーティがなくなった生産職の探索者を引き込むことは容易だろう。
そんなふうに考えていた。
だが、こんな美味しい情報を他のパーティが見逃すはずはない。
いまさら「最初に見つけたのは自分なのだからここは譲れ」と言っても聞いてもらえなさそうだ。
巳島は渋々うなづくことしかできなかった。




