第1話 巳島二郎はほくそ笑む①
「……どうやら、大槌家から参加のパーティが増えるみたいだよ」
「こんな時期にか?」
隠れ里の本校内にある一室。
そこには数十名の探索者が集まっていた。
その日、巳島二郎もその集まりに参加していた。
一パーティ以上の探索者が集まることはこの隠れ里ではそこまで珍しいことではない。
Cランクダンジョンではパーティ間で連携を取る必要が出てくる。
そこで、隠れ里では他パーティと連携を取る練習のため、出身の家の寮で生活したり、寮ごとに得点で競ったりと他パーティとの連携も必要なことがたくさん用意されていた。
だが、この集まりの珍しいところは参加者たちが別の家の人間だということだ。
パーティ間の連携を取るにしても全く知りもしない人間同士で連携を取るのは難しい。
そのため、隠れ里内では基本的に組織単位で集まるようになっている。
何か起きた際の対応もその方がしやすい。
その組織に所属している人間同士のトラブルであれば、組織の中で対処することができるからだ。
この部屋に色々な組織に所属する人間が集まっているのには理由があった。
「どうやら、夏休み前あたりから頭角を現してきたパーティみたいだ。大槌家のゴタゴタもあって少し遅れての参加になったみたいだ」
「そうなのか」
大槌家は夏に入ってから色々と問題が発生していた。
どうも、本拠地の近くにCランクダンジョンが発生してしまったらしい。
Cランク探索者はほとんどが出払っている時期だったため、対処には難儀したようだ。
他家にも救援要請を出していたようだが、結局は家内の人間で対処できたとの話を聞いている。
流石は歴史の長い名家といったところか。
「正しき流れを継ぐ人間が増えるのは喜ばしいことじゃないか」
「あぁ。これ以上よそ者にダンジョンを荒らされてはかなわないからな」
この場所に集まった者たちにとって、歴史ある名家の探索者が増えることは喜ばしいことだった。
彼らは純血主義者と呼ばれる思想を持った集まりだ。
巳島もその集まりの一員だった。
純血主義者たちはダンジョンは旧家や企業系探索者など、一部の選ばれしものにのみ独占されるべきだと考えている。
実際、無所属の探索者が増えたことでダンジョン内での事故は増えた。
最近も知識がないままダンジョンを独占しようとしてBランクダンジョンを発生させてしまうという事例も発生した。
その探索者がどこかの組織に所属していればそんな事件は発生しなかったはずだ。
組織はダンジョンを独占することの危険性も知っているし、もし独占していたとしてもBランクに上がる前にしっかりと対処できる。
ダンジョンのランクがBに上がってしまえば対処の難易度が上がってしまうことは目に見えているからだ。
旧家などにはBランクに上がる兆候などのデータも揃っているので、見逃してうっかりBランクに上がってしまうなんていうこともまずない。
純血主義者たちの意見には一定の理があるのだ。
屁理屈程度の理屈だが。
そんな純血主義者にとって、大槌家の探索者が増えることは喜ばしいことだった。
大槌家は長い歴史のある名家だし、その上、大槌家は生産職を生業とする家だ。
他の家の者にとって、大槌家の探索者が増えることはメリットが大きい。
もし仲良くなれば今後の探索者活動が楽になる。
しかも、隠れ里に来られるということはCランクダンジョンに潜ることができるということだ。
Cランクダンジョンについてきてくれる生産職と仲良くなるメリットは計り知れない。
Cランクダンジョンでは数日間連続で探索することもある。
だが、簡易なメンテナンスでは武器や防具が壊れてしまう。
だから武器のメンテナンスのために定期的にダンジョン外に脱出しないといけない。
ダンジョン外ではダンジョン内より時間の流れが速いので、ダンジョンから一度脱出することはデメリットが大きい。
その間に他のパーティによってダンジョンを攻略されてしまうかもしれない。
そういう懸念を払拭できるため、Cランクダンジョンに潜れる生産職とのコネはどのパーティも喉から手が出るほどに欲していた。
部屋に集まった数十人の者たちは思わぬ朗報に笑みを見せる。
話題を振った巳島を除いて。
「それがそうとも言い切れないんだ」
「どういうことだ? 巳島」
「大槌家のパーティではなく外部のパーティに大槌家の人間が参加している形らしい」
「なに!?」
大槌家のパーティが増えることは喜ばしいが、大槌家の人間が参加したパーティが増えることはあまり嬉しくない。
強力なライバルが増えるということだからだ。
しかも、パーティリーダーが大槌家の人間ではないのに大槌家から参加したということはそのパーティリーダーはどこの組織にも所属していないということだ。
隠れ里では大槌家などのサポートを得意とする家より普通に探索をメインとする家から参加した方が色々とやりやすい。
にもかかわらず、大槌家からの参加ということはほかのメンバーはどこの組織にも所属していないと見てまちがいない。
「くそ。よそ者め」
「よそ者はよそ者らしくFランクダンジョンの処理だけをしていればいいものを」
純血主義者の彼らにとって、大槌家の人間が部外者にいいように使われているのは我慢できなかった。
口々にサグルたちを罵る言葉が上がる。
そんな中、一人の探索者が落ち着いた声で巳島に声をかける。
「同士よ。この話をわざわざここでしたということは何か考えがあるんだろ?」
「あぁ。例のユニークスキル保持者を使おうと思う。せっかく彼女たちも隠れ里に来ているのだ。使ってやらないと失礼だろ?」
「「「「おぉ!」」」」
巳島のセリフに、他の探索者たちは歓喜の声を上げる。
巳島は予想通りの反応が得られたことにニヤリと口角を上げた。




