第44話 自爆を選ぶか感電を選ぶか。そこが問題だ⑤
「……」
「ん?」
ボスモンスターが急に俺から距離をとる。
今までは近づいてきていたのに。
スピード特化の忍者スタイルである俺はどちらかというと中距離からゼロ距離に飛び込んでのヒットアンドアウェイ戦法が得意だ。
一方でボスモンスターは妖刀での攻撃がメインのため、短距離での戦闘が得意みたいだ。
結果、距離を取ろうとする俺と、距離を詰めようとするボスモンスターで、間合いの取り合いが行われていた。
スピードは俺の方が高いこともあり、間合いの取り合いでは俺の方が勝つことが多い。
その上、ここはこっちのホームである建物の中だ。
この部屋には使えるトラップはないが、ボスモンスターはトラップを警戒しないわけにはいかない。
自爆攻撃のようにものによってはボスモンスターに大ダメージを与えるものもあるからな。
地の利はこちら側にある。
その結果俺の攻撃は当たりやすく、ボスモンスターの攻撃は当たりにくくなっていた。
だが、そんなボスモンスターが急に距離を取り出した。
(なにをしてくるつもりだ?)
少し距離をとったところでボスモンスターは魔力を貯め始めた。
間違いなく何かしてくるつもりだろう。
俺はいつでも対応できるように臨戦体制を取る。
チラリと京子の方を見ると、京子も聖域に回す魔力を少しだけ増やしたみたいだ。
あっちはたぶん大丈夫だろう。
むしろ、まだ覚醒できていない俺よりも覚醒済みの京子の方が安全まである。
俺は京子の聖域に一度逃げ込むことも考えたが、頭を振ってその誘惑を断ち切る。
向こうが何かしてくるということは、もしかしたら何かしらのチャンスがあるかもしれないということだ。
『ピンチはチャンス』という言葉があるようにピンチとチャンスは常に表裏一体だ。
ジリ貧の状態が続いていたので、こちらとしても変化は願ったりだ。
(長期戦になると不利になるのはこっちだしな)
MPなどの消費スピードはこちらの方が若干早いように思う。
ボスモンスターもそこまで今の体にはなれていないらしく、向こうも結構無駄にMPを消費しているように思うが、それでもランクが違うというのは大きい。
それに、増援という問題もある。
外部ではまだそこまで時間が経っていない。
Cランクの探索者がきてくれるのは当分先のことになるだろう。
だが、ボスモンスター側はもしかしたら新しいモンスターがポップすることで増援が来るかもしれない。
ランクアップ現象中は基本的にモンスターが新たにポップすることはないらしい。
その原因はダンジョンのランクアップにリソースがとられているからではないかと言われている。
だが、ダンジョンは摩訶不思議な場所だ。
俺たちの知らない条件があり、新たにモンスターがポップするようになってしまうかもしれない。
ここでボスモンスターのしてくることに対処するのには意味がある。
そんなことを考えていると、ボスモンスターの魔力はピークに達してその魔力は妖刀へと収束していく。
どうやら、攻撃の準備は整ったみたいだ。
「……!!」
ボスモンスターが刀を振り下ろす。
そして、妖刀の切先は地面に触れるか触れないかのあたりでぴたりと止まる。
「!!」
すると、妖刀の切先の触れている場所から地面を貫くように真っ黒な棘が飛び出した。
その棘は前に前にと何本も突き出してきて、俺の方へと向かってくる。
この攻撃は雅から聞いた。
確か、ダンジョンの外で雅たちを傷つけた攻撃もこんな奴だったはずだ。
黒い棘はすごいスピードで俺に向かって迫ってきて、次の瞬間には俺の目の前にまで迫っていた。
「っ!」
大きく飛び退いて、俺は黒い棘を避ける。
ダンジョンGo!のシステム上、掠っただけでもHPが削られてしまうからな。
予想よりも攻撃のスピードは速かったが、回避できないほどじゃなかった。
だが、避けてしまえばこちらのものだ。
ボスモンスターは攻撃を放った体勢のまま動いていない。
おそらく、スキル発動後の硬直によって動けなくなっているのだろう。
これだけの大技を放ったということは、術後の硬直時間も長い気がする。
つまり、今が攻撃のチャンスということだ。
俺はスキル発動の準備に入る。
「!!」
俺は攻撃の準備を中断して、その場を飛び退く。
すると、ついさっきまで俺が立っていたところに黒々とした棘が聳え立っていた。
どうやら、この攻撃はホーミングするらしい。
しかも、地面から飛び出した棘は消えずにまだ残っている。
つまり、逃げれば逃げるほど俺の逃げられる場所は無くなっていくということだ。
(だけど、ボスモンスターのMPだってかぎりがあるはず)
これだけの大技だ。
消費MPもバカにならないはずだ。
つまり、長い間逃げ続ければそれだけボスモンスターのMPが削れるから、逃げれば逃げるだけこちらが有利になる。
(やってやろうじゃないか)
俺とボスモンスターの鬼ごっこが始まった。




