第38話 まぁ、ロマンがあるのはわかるんだが②
「できた!」
「お疲れ様」
雅は七本目の短刀を打ち終えた。
今回も納得のいく出来のものができたようだ。
四本目を打ち始めたあたりから、雅の雰囲気が変わった。
雅の目の色が変わったというべきか。
何かを吹っ切れたのか、鍛治をするてから迷いが消えたのだ。
そうして出来上がったものはかなりの良作になっていたらしい。
刀夜さんも四本目ができた時は深く唸っていた。
どうやら、刀夜さんを唸らせるレベルのものは作れたみたいだ。
三本目までは「もう少し魔力量を増やせ」みたいなつかみどころのない指示だったが、四本目からは「折り返しの前の冷やしが足りないから、もう少し長く水につけろ」とか、「もう少し使うドロップアイテムの量を増やしても大丈夫だ」とか具体的なものになっていた。
指示が具体的になったということは具体的な指示ができるくらいに刀夜さんの理想のものに近づいてきたということだろう。
あまりに目標と遠すぎると指示をまともに出せないからな。
「……悪くねぇな」
「!! ありがとうございます!」
そして、七本目にしてやっと刀夜さんからOKをもらうことができたみたいだ。
俺はほっと胸を撫で下ろす。
少なくとも、これでボスモンスターに対して勝ち目が出てきたということだ。
最悪、俺が囮役を務めている間に刀夜さんを連れて逃げてもらうっていうのも考えてたからな。
囮役を務めるにしても武器は強いに越したことはない。
「これでも問題ねぇと思う。だけど、せっかくだ。あと三本も作っちまおう」
「はい!」
『神刀の種』は残り三つだ。
とっておくこともできるが、刀夜さんにアドバイスをもらいながら作るなんて機会はもうやってこないと思う。
だから、この場で残りの三本も作ってしまった方がお得だろう。
「その前に少し休憩したほうがいいな。一時間ほど休憩するから、その間にどんなものを作るか考えておいてくれ」
「わかりました」
ボスモンスターの襲撃は相変わらず続いているが、砦のHPはまだまだ残っている。
よりいいものを作るために少し休憩して体調を万全にした方がいいと判断したのだろう。
雅は手早く道具を片付けていく。
俺も手伝おうとしたのだが、一緒に道具の整備もやるつもりらしく、追い出されてしまった。
確かに、道具だって不滅ではない。
少しずつダメージが蓄積されていっていずれは壊れてしまう。
普通の鍛治師だと、壊れたら新しいものに取り替えるのだが、大槌家では壊れる前から歪みなどをチェックするのだそうだ。
使い慣れた道具の方が使いやすいと良くいうが、ダンジョン関係のものだとその傾向は顕著だ。
ダンジョン関係のものは魔力でできているから、使っているうちに自分の魔力と混ざり合って、最適化してくるんだよな。
武器でも壊れる直前が一番使いやすいような気がするし。
これは自分でやらないといけないらしい。
他の人にやってもらうと、そこで他の人の魔力が混ざってしまうからな。
大槌家では鍛治道具の整備ができて初めて一人前とみなされ、鍛治仕事で『大槌』の名前を名乗ってよくなるらしい。
今回はほぼ新品の道具を使ったし、まだ修繕できるほどのダメージは蓄積していないと思う。
それでも、もう癖になっているらしく、このチェックをやらないと落ち着かないそうだ。
俺はチェック作業では足手纏いになってしまうので、工房から追い出されてしまった。
「サグルもお疲れ様だな」
「あ、ありがとうございます」
工房から少し離れたところで休憩をしていると、刀夜さんが水の入ったコップを渡してくれる。
俺はその水を一気に飲み切った。
刀夜さんから渡された水はすごくおいしく感じた。
どうやら、俺はかなり喉が渇いていたみたいだ。
俺は大した作業はしてなかったが、合槌を打つためにずっと火の近くにいたしな。
知らず知らずのうちに脱水状態になっていたのだろう。
「……付き合わせて悪いな」
「僕がやりたかっただけですよ」
「……やっぱり気づいてたか」
刀夜さんは俺たちが協力するように結構積極的に動いていた。
そうでなければ俺が休憩しているところにリクちゃんがきたりはしなかっただろう。
リクちゃんは知らされていなさそうだったが、女将さんはかなり申し訳なさそうな顔してたし。
「この村は俺の故郷なんだ。人生のほとんどをこの場所で過ごしてる。なんとしても守りたかった」
「……」
このダンジョンが発生したのは村の外れだ。
このままダンジョンが成長すればその影響は村全体へと広がっていく。
まだ準Cランクの段階ですでに外部に影響を与えていた。
あの位置でCランクダンジョンができれば、村に住めなくなってしまう可能性もある。
そこまでいかなくても、見知った風景が大きく変わってしまうだろう。
そうならないように刀夜さんは可能な限り早くダンジョンを潰してしまいたかったのだとおもう。
だが、高ランクのダンジョンに潜るのに、刀夜さん一人では危険が大きすぎる。
かと言って、未覚醒の探索者を連れていくのは危険が増すだけだ。
そこで、覚醒を果たした京子を連れていくことにしたんじゃないだろうか。
なんにしても、刀夜さんが謝ることではないと思う。
こうやって雅は成長のチャンスを手にすることができたし。
「サグルくん。ちょっといいかい?」
「おー。今行く。呼ばれたんで、いってきますね」
「おう」
俺は雅に呼ばれたので、雅の作業しているところへと向かった。




