第12話 い、いや、ちがくて、いやらしい意味とかではなく!①
「君だって渋谷に遊びにきてるんだろ?」
「お金なら俺たちが出すからさ! 遊ぼうぜ!」
「もう帰るところなんです。だから離して」
「またまた。ちょっと前から見てたけど、駅は反対方向だよ?」
「それは……」
声のする方を見ると、京子が二人組の男に絡まれていた。
京子は明らかに嫌がっている。
にしても、コテコテのナンパだな。
あんなやつ今でもいるんだ。
京子と俺は知らない仲でもないのだ、やることは決まっている。
「ちょっとお兄さん達」
「なんだよ……うぉ!」
「ゲェ」
二人組は俺の顔を見て顔が青ざめる。
こういう時は父親譲りのこの強面顔に感謝したくなる。
まあ、しないけど。
それに、今ならこんな奴ら、簡単にどうにでもできる。
『ダンジョンGo!』のジョブの効果はダンジョン外でも有効なのだ。
(あれ、京子も自分でなんとかできるんじゃ……って。あぁ、京子のジョブの『見習い僧侶』は肉体的には何も変わらないんだっけ?)
京子の『見習い僧侶』はフィジカル面では一般人と変わらないと京子は言っていた。
ケンタに囮に使われたのも、女子高生でそこまで足の速くない京子が邪魔になったからだろうと。
自分にバフスキルをかけたりはできるが、まさか、街中で魔法を使うわけにもいかない。
「彼女、俺の連れなんだけど、何か用?」
「いえ! なんでもありません!」
「迷惑をおかけして申し訳ありませんでした! それでは!」
二人組はピシッと背筋を伸ばしてそう宣言した後、逃げるようにその場を去っていった。
その逃げっぷりはなかなかどうに入っており、思わず感心してしまった。
スタコラサッサっていう効果音が聞こえてきそうなくらい見事な逃げっぷりだったぞ。
「あの、サグルさん。ですか?」
「よう。京子。さっきぶり」
声をかけられて振り返る。
そこに立っていたのは不安そうな面持ちの京子だった。
京子は俺の顔を見てほっと胸を撫で下ろす。
どうやら、助けたのは正解だったらしい。
「困ってるみたいだったから。声かけない方が良かった?」
「いえ、助かりました。ありがとうございます」
京子はにこりと微笑む。
完全に信頼し切った相手にだけ見せるその笑顔に、俺は思わずくらりときてしまった。
それにしても、こんなところで再会するのは予想外だった。
てっきりあのまま帰ったと思っていたから。
京子もどこかで食事でもしていたのかもしれない。
それなら、一緒に食事に誘えば良かったかな?
今の感じなら、誘っても断られなかった気がする。
いや、そこで女の子を誘う勇気があるなら、長年ぼっちやってないか。
「あんなコテコテのナンパ、まだいるんだな」
「そうですね。制服で渋谷を歩いていると、ああいう人にはたまに声をかけられます」
「そうなのか」
確かに、制服姿の女子高生が一人でこんな時間に歩いていれば、声はかけやすいのかもしれない。
学校終わりに渋谷に来るのなんてほとんどが遊びにきてるやつだろうからな。
「またあんなめんどくさいナンパに絡まれないか心配だから、送っていくよ」
「いえ、えーっと」
「あ、最寄り駅まででも大丈夫。それも嫌なら、渋谷の駅までにしておく?」
流石に、地元にまで帰れば変な奴には声をかけられないだろう。
最悪、渋谷駅まで連れて行けば大丈夫だと思う。
まだ八時前で、電車の中では他の人の目もあるだろうし、駅まで送ればあとは安全なはずだ。
「えーっと」
そう思ったのだが、京子は困ったように目を泳がせる。
いや、どこかを見ているのか?
少し不審に思いつつ、京子の視線の先を見てみると、京子の視線の先には『インターネットカフェ アストレンジェント・バレー』という寂れた看板があった。
チェーン店じゃない個人経営っぽいところだ。
「……もしかして、京子、家に帰ってないの?」
「……はい」
どうやら、彼女は家に帰らずにネットカフェで寝泊まりしているらしい。
今日はホテル代くらいは稼いだが、ホテルは高校生だと泊まれない。
ラブホテルとかでも、明らかに高校生だと見て取ると拒否される場合が多い。
だから、ネットカフェに泊まっているのだろう。
ネットカフェでも、夜は高校生お断りの場所も多いが、みるからに寂れたこの店なら身分証も確認されなさそうだ。
こんな時間までウロウロしていたのは、ネットカフェの深夜割りが始まるのを待っていたからなのだろう。
「……」
こんな場所に女子高生が泊まるのははっきり言って心配だ。
「なぁ、京子?」
「はい?」
「俺ん家、来るか?」
「え?」
俺が家に誘うと、京子の笑顔が凍りつく。
あ、やっちまった。




