第4話 俺の女に手を出すな③
「本当にごめん。うまく行かなかった」
俺はダンジョンを脱出して、二人に向かって頭を深々と下げた。
俺が話を聞くはずだったのに、途中で中断してダンジョンから脱出してしまった。
大人として申し訳が立たない。
しかも半分は俺があいつらを気に食わなかったからっていう私的な理由だ。
謝っても許してもらえるか微妙なところだ。
「いえ! サグルさんのせいじゃないですよ。悪いのは相手です。非常識すぎます」
「そうそう。もしサグルっちが怒ってなかったら、私が怒ってたよ!」
俺が頭を上げると、二人はそこまで俺に怒ってはいないようだった。
俺はほっと胸を撫で下ろす。
よかった。
幻滅されていたらどうしようかと思った。
やっぱり俺に交渉ごとは向いていないようだ。
最近は京子や朱莉みたいなちゃんと相手をしてくれる人と一緒にいたから忘れかけていたが、俺は元来、コミュニケーションが苦手なんだった。
コミュニケーションが成立するかは自分と相手のコミュ力の合計値で決まるからな。
コミュ力が高い相手に囲まれていれば、コミュ力の低い人でも問題なくコミュニケーションが取れてしまう。
コミュ力の高い京子や朱莉に囲まれていて自分のコミュ力が上がったと勘違いしてしまったようだ。
これは結構恥ずかしい。
でも、あの相手をしてくれた探索者はコミュ力高そうだったから、またあの人と対話するならなんとかなるかもしれないな。
迷惑もかけたし、今度探して菓子折りを持って会いに行ってみようかな?
このダンジョンが消失するまでの間はこのダンジョンのボス部屋の前に行けば会える可能性は高いだろうし。
たとえ、行った時の見張り担当が違っても企業なら何日の何時にこの場所で見張り作業をしていた人という情報があれば特定はできるだろう。
いや、向こうはもう俺みたいな危なそうなやつとは関わりたくないか。
探索者企業なんていう、生産職との繋がりがありそうな人を見つけたのにもったいないことをしたな。
本当に自分のコミュ力の低さが恨まれる。
「それにしても、探索者の企業なんていうのがあるんですね」
「ねー。サグルっちは知ってた?」
「いや、俺も初めて知ったよ」
確かに、パーティがいくつか集まって組織になるってことはありそうだが、企業にまでなっているのは予想外だった。
いや、でもファンタジー小説とかでも、ギルドとかクランとか冒険者の集まりは出てくるな。
現代版だとそれが企業になるんだろう。
「明日はDランクダンジョンじゃなくてこのダンジョンに潜って、あの企業の人を探してみますか? 明日は私が対応してみます」
「……そうだな。ダンジョンが攻略されないのはありがたいし、明日こそ有益な情報が得られるかもしれないからな。悪いが任せていいか?」
俺では交渉できなくても、きっと京子ならちゃんと交渉してくれるはずだ。
少し情けなく思うが、京子にお願いするのがいいだろう。
俺は会社でのクレーマー対応の時みたいに後ろで相手が悪さしないか見張っている役で良いだろう。
お嬢の後ろについて回る黒服さんみたいな感じだな。
その立ち位置が俺にとって分相応だろう。
明日は黒のスーツでも着てくるかな。
俺、スーツって好きなんだよな。
ダサくはないし、洋服に迷わなくて済む。
あれを着ているだけで、周りからの対応が一段上がるし。
手入れが大変なのが玉に瑕って感じだけど。
……いや、ダンジョンにスーツ着てきたら明らかに浮いてるからヤバいやつ判定されそうだ。
あの企業の人たちも仕事してるのに普段着だったし。
オフィスワーカーじゃなければ仕事着がスーツじゃないのは普通かもしれないけど。
「じゃあ、とりあえず、今日は解散で明日またこの場所で集合でいいよね?」
「あぁ。それでいいと思うぞ?」
俺がくだらないことを考えているうちに、明日は同じダンジョンに潜ることに決定したらしい。
「じゃあ、あたしはこれで! 早く行かないと病院の面会時間が終わっちゃうから!」
「あぁ。美香さんにもよろしく伝えといて」
「わかったー! 伝えとくー!」
朱莉はドップラー効果を残しながらさっていった。
流石は盗賊だな。
めちゃくちゃ速い。
朱莉は美香さんと夕食を取ったりして、面会時間ギリギリまで病院で過ごし、家には寝に帰るだけになっているらしい。
美香さんも経過は順調だそうだ。
まあ、もともと記憶を取り戻してパニックになったりしないようにってことで入院しているんだし、何も起きないか。
朱莉も朱莉でちょっとした一人暮らし気分を満喫しているそうだ。
「じゃあ、俺たちも帰ろうか」
「はい!」
「あれ? そういえば、サグルさん。シェーバー買ったんですか?」
「……まだ壊れたわけじゃないし、明日買いに行くよ。今日は疲れた」
「そうですね」
今日はアニメを見たり更新されてたWeb小説を読んだりで集合時間ギリギリとなってしまったので、電気屋さんには帰りに寄るつもりだった。
だが、さっきの探索者企業との会話で精神的に結構疲れてしまった。
別に使えないわけでもないし、シェーバーは明日買いに行けばいいだろう。
アニメやWeb小説は昨日のうちに消化し切ってしまったので、明日は午前中から動けるし。
朱莉の背中を見送った後、俺と京子も帰路に就いた。




