第3話 俺の女に手を出すな②
「あのーすみません」
「ひっ! な、なんだ? 何か用か?」
俺がボス戦の待機部屋に入って声をかけると、一人の探索者が返事をしてくれる。
なんか、俺の顔を見た瞬間めちゃくちゃ怯えられたような気もするが、まあいいだろう。
こういう反応には慣れてる。
だから、周りの人たちも武器を構えようとしないでくれ。
俺はモンスターじゃないから。
こうなることは予想できていたので、京子か朱莉が声をかけるという案も出た。
だが、大人の俺がいるのに女子高生に交渉を任せるわけにはいかないだろう。
大丈夫、ビジネスライクな関係ならなんとかなる。
俺はできるだけ笑顔を作って返事を返してくれた探索者に話しかけた。
あとで、めちゃくちゃ悪そうな顔をしてたよと朱莉に指摘されて崩れ落ちることになるのだが、この時の俺はそのことを知らない。
「いえ、皆さんはここで何をされているのかなと思いまして、戦闘をされている雰囲気でもありませんし」
「あ、あぁ。ここの先にボスがいてな、俺たちはボスが攻略されないように見張ってるんだ」
「ボスが攻略されないように見張る? どういう意味ですか?」
本題の前のジャブのつもりだった。
だが、ボス戦の準備をしていると返ってくると思っていたのに、予想外の返答が返ってきて、普通に質問してしまった。
「ボスが攻略されればダンジョンがなくなってしまうだろ? ボスを攻略すればボスの報酬が攻略したパーティには入るから、そのパーティにとってはプラスだが、同じダンジョンに潜っている別のパーティにとっては大きなマイナスだ。一度ダンジョンから追い出されてしまうと、ダンジョンに入り直すために結構な時間のロスがあるからな。だから、ボスはギリギリまで攻略しない方がいい。そういうわけで、俺たちは他の探索者のためにも、勝手にボスを攻略する奴が出ないようにここで見張ってるってわけだ」
「なるほど」
確かに、ダンジョン内では時間の進みが遅いので、同じダンジョンに潜り続けた方が作業効率はいい。
ボスモンスターを倒せば雑魚モンスター百体分の報酬が出るから、ボス攻略をする方が金銭的にも旨みは大きいが、それはボスが攻略できたパーティにとってだけだ。
ボスが攻略できなかったパーティはただダンジョンから追い出されるだけで損しかない。
俺たちも、ドロップアイテムを集めている途中で誰かにダンジョンが攻略されてイラッとしたことがある。
だから、ボスをギリギリまで攻略させないように見張ってるっていうのは理にかなっているように思う。
しかし、この戦法にも結構問題がある気がする。
「でも、そんなことしていたら、皆さんが稼げないんじゃないですか? この場所ってモンスターが湧かないですよね?」
確かに、ボス部屋を見張っていれば、攻略されなくて長い間ダンジョンを維持できる。
だが、見張っている間は見張っている探索者達は狩りができない。
長くダンジョンを維持できても、その間戦闘できないのではなんの意味もない気がする。
この場所に一人だけ置いて他のメンバーが探索に行くみたいなことはできるかもしれないが、一人だけ置いて行かれたメンバーがめちゃくちゃ危険だ。
それ以前に彼らも今は五人揃っているし。
「あぁ。心配してくれてありがとう。でも、俺たちは金竜会っていう探索者企業に所属していて、交代で見張っているから大丈夫だ。交代の人が来れば、俺たちもこの辺でモンスター狩りを始める」
「なるほど」
探索者企業なんてものがあるんだな。
確かに、組織を作れば色々とできる。
こんな風に効率的な狩りをしたりとかな。
ここでこの人たちに出会えたことは俺たちにとってはラッキーだ。
企業ということは生産職の探索者を抱えている可能性は高いはずだ。
そうでなくても、外部の生産職の知り合いがいる可能性は高いだろう。
この人たちなら、生産職の探索者を紹介してくれるかもしれない。
そうでなくても、誰か掲示板の情報くらいは持っていると思う。
「あの、実はですね。……」
「ねぇねぇ。君たち。すっごく可愛いね」
「あんな冴えない奴じゃなくて俺たちと一緒にパーティ組まない?」
「ちょ、何すんの」
「離してください」
後ろから京子と朱莉の声が聞こえたので、俺はそっちの方を振り返る。
すると、金竜会の探索者が京子達にちょっかいをかけていた。
京子も朱莉も相当な美少女だ。
そんな二人が俺みたいな冴えないやつとパーティを組んでいれば驚くだろうし、ワンチャン狙って声をかけたくなる気持ちもわからなくはない。
だが、明らかに二人は嫌がっている。
それだけでレッドカードだ。
「ちょ、お前ら――」
「おい」
「「「「「!!」」」」」
俺は腹の底からいつもより低い声を出す。
そして、京子と朱莉に話しかけた探索者を睨みつけた。
「俺のパーティメンバーに何か用か」
「え? あ、いや」
「えーっと」
俺が話しかけると、二人の探索者はしどろもどろになる。
こいつらより俺の方が強いからな。
威圧のスキルは発動していないが、睨みつけるだけでもかなりのプレッシャーだろう。
「二人とも、今日はもう帰ろうか」
「うん」
「わかった」
二人はトコトコと俺の近くに寄ってくる。
そして、きゅっと俺の服を掴んできた。
どうやら相当怖かったらしい。
俺は空気の悪くなってしまったこの場所をさっさと脱出するために、脱出の準備を進めていく。
あいにく、この状況からフレンドリーに話すほどのコミュ力は俺にはない。
それに、どうやら、俺は二人にちょっかいをかけられたことに思いの外憤っているらしい。
さっきまで話をしていた探索者さん相手でも普通に話せる気がしない。
「色々と申し訳ありませんでした。それではまた、どこかで」
「あ、あぁ。こっちこそ。うちのパーティメンバーがすまなかった! あとで強く言って聞かせておくから」
「いえいえ。それではこれで失礼します」
俺は深々と頭を下げる探索者達に背を向けてダンジョンから脱出した。




