第43話 手足は四本もあるんや、一本くらいえぇやろ
「くそが!」
竜也は倉庫から少し離れた暗がりで一人悪態をついていた。
竜也のいるところから見える倉庫にはたくさんの警察官や消防士たちが集まっている。
もうあそこに戻ることはできないだろう。
充たちを倉庫に置いてきてしまったが、充ならなんとかするだろうし、他の奴らは代わりがいくらでもいる。
「絶対に仕返ししてやる。あいつ、確かサグルとか言ったな」
あの探索者は予想以上に強く、不覚を取ってしまった。
あのまま続けていれば竜也は間違い無く負けていただろう。
大技で倒せたと錯覚していたので、やられたふりをして反撃の機会を窺っていたが、あのサグルとかいう探索者は隙を全く見せなかった。
不幸中の幸いで、そのまま気絶したふりをして竜也は逃げおおせることができた。
竜也のスマホまで破壊されたのは少し予想外だったが、あそこで動いていても結果は一緒だっただろう。
奴らがダンジョンに潜ったので、いなくなったことが確認できなかった。
ギリギリまで気絶したふりをしていたため、何一つ持ち出せなかったのは痛い。
予備のスマホとかも倉庫内に隠していたのだが、それすら持ち出す暇がなかった。
「まあいい。このご時世、スマホくらいすぐ手に入る」
トバシのスマホなんていくらでも手に入る。
スマホを手に入れれば部下の一人から招待コードをもらってダンジョンGo!をインストールし、またやり直すことはいくらでもできる。
スマホが壊されたが、すぐにアプリをインストールすればジョブのランクも下がらない。
今度はもっと入念に準備して当たればいいだけのことだ。
いや、あいつの弱みを見つけて、あいつから頭を垂れさせるのがいいかもしれない。
「そうだ。それがいい……ん?」
竜也の隣に黒塗りのバンが停まる。
もしかしたら、竜也の部下の誰かが迎えにきたのかもしれない。
気がきくやつがいたものだ。
そいつは昇格してやってもいいかもしれないな。
竜也のパーティメンバにしてやってもいいかもしれない。
竜也はそんなことを考えていると、バンから明らかにカタギではない男が降りてきた。
「お前は!!」
「久しぶりやな。竜也。元気しとったか? いや、聞くまでもないか」
バンから降りてきたのはここら一体を島にもつ暴力団の亀甲組に所属するヤスという男だった。
「ちっ。お前かよ。なんのようだ」
この男には竜也も何度か会ったことがある。
亀甲組は大きな組織だが、島の一角を占拠されているのに、報復には来ないヘタレ集団だ。
こんな時に会うのは運がないが、こいつらであればどうとでも対処できる。
睨みつけるだけで帰っていくのだから。
「俺はお前と遊んでいる暇はないんだよ」
「そっちに用がなくてもこっちには用があんねん」
竜也が睨みつけると、ヤスはニヤニヤとした笑いをむけてくる。
いつもであればここで悪態をついて帰るのに。
いつもと違う反応に竜也は嫌な予感を覚えるが、竜也はそれを無視した。
それが最後の逃げるチャンスだとも気付かずに。
「『だんじょん・ごー』言うたか? お前それを失ったってほんまか?」
「な、お前! なんでそれを!」
「ほんまやったんか。情報通りやな」
「ちっ!」
どうやら、向こうは確信を持っていなかったようだ。
まんまと引っかかってしまった。
竜也は逃げようとしたが、周りには屈強な男たちが立っており、すでに逃げ場はなかった。
全員で来られれば対処は不可能だが、一人くらいなら対処できそうだ。
だが、それも、相手が探索者ではないという前提があってこそだ。
相手が探索者なら見た目で相手を判断できない。
竜也は逃げる隙を見つけるために会話を続けることにした。
「お前らも探索者なのか?」
「たんさくしゃ? あぁ。今の時代は祓い屋をそう呼んどるんやったか」
「祓い屋?」
「そうや。幽霊を払ったり、土地を浄化したりする人らをうちらは祓い屋って呼んどんねん」
竜也は隙を探すが、周りの奴らはなかなか隙を見せない。
話が少し気になったこともあり、竜也は続きを聞くことにした。
「うちも長い組織やからな。そういう人らとの繋がりもあってな。オタクらがやってたこともちゃんと把握しとったんやで」
「知ってたならいくらでも対処できたんじゃないのか?」
探索者のことを知っていたなら、対処法はいくつも思いつく。
知り合いの探索者がいるならなおのことだ。
あのサグルっていうやつがやったように、この倉庫の周りのダンジョンを全て潰されれば竜也はダンジョンエスケープができなくて、簡単に捕まってしまっていたかもしれない。
「祓い屋になれる資格のある奴は少なくてな。うちらは祓い屋さんと祓い屋の資格を持ってる奴とは敵対せんっていう約束を交わしてるんや。今は『あぷり』っていうもんをばら撒いてるみたいで、ぎょうさん祓い屋さんが産まれるようになったさかい、もう無くしてもうてもいいルールな気もするが、ルールっちゅうもんは一度作るとなくすんも難しいからなぁ」
「!!」
竜也はそこでやっと今が最悪の状況であることに気づいた。
竜也は今はダンジョンGo!のアプリを失っており、探索者ではない。
つまり、こいつらが手を出してはいけない対象から外れてしまったということだ。
「く!」
竜也はなりふり構わず一番守りが薄そうな方に向かって駆け出す。
ヤスの話を聞いた感じだと、こいつらは探索者ではなさそうだ。
つまり、Dランク探索者の竜也にとっては対処できない相手ではないということだ。
だが、その歩みはパシュっという軽い音によって遮られることになる。
「がぁぁぁぁぁぁ!」
竜也は右足の痛みに転げ回る。
足には小さな穴が空いており、そこからは血が流れていた。
竜也は先ほどのサグルとの戦闘でHPがゼロになってしまっていた。
普段であればHPが受けてくれる銃も今は普通の人と同様に効いてしまう。
「おっと。逃げることないやろ。おかげで怪我することになってもうたやんか」
竜也がヤスの方を見ると、ヤスは銃を構えていた。
サイレンサー付きの拳銃だ。
あれで竜也の足を撃ち抜いたらしい。
「ヤスさん。ほどほどにお願いします」
「あぁ。祓い屋さんの中身は頑丈やからな。たこー売れるのは知ってる。せやから足を狙ったんやろ? うちかて結構な損失出しとるんや、ちゃんと回収せなあかん」
竜也は何を言っているのか一瞬わからなかった。
だが、すぐにそれが竜也の臓器を売り払うことについて話していると気づいた。
「そっちのお客さんもいらっしゃるので」
「あぁ。せやったな。手足をもいで拷問する予約も入っとるんやった。竜也。お前相当恨みかってたみたいやな」
それを聞いて、竜也の顔から血の気が失せる。
内臓を抜かれた上に、手足をもがれて拷問されるなんて、冗談じゃない!
竜也は這って逃げようとする。
そんなことで逃げられるはずがないのに。
「グアぁぁぁぁぁぁ!」
「まあ、手足は四本もあるんや、一本くらいえぇやろ」
右足に激痛が走る。
見てみると、右足の傷口の上に、ヤスの右足が乗っていた。
「ヤスさん。ヤスさんが一本持っていってしまうと、残り三本になってしまいます。予約は四件あるので」
「そうか。そうやな。予約が入ってるんやったらしゃあない。運べ」
「「はい」」
「やめ……」
竜也は猿轡をされて、黒塗りのバンに荷物のように積み込まれる。
続いてヤスが乗り込むと、バンは扉を閉めて夜の闇の中に走り去ってしまう。
それ以後、竜也のことを見た者はいなかった。




