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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第4章 月が墜ちる日
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魔女捜しと邪魔者3

 人間もどきに何体か遭遇したがシェンナが簡単に切り伏せていったおかげで、楽に通路を抜けて上層へ行けた。

 そして、雷の魔法を放った痕跡と思わしき場所へ向かった。

 下から見上げた時は、壁にいくつも穴が空いているのが分かったが、通路も同じように穴が空いていて所々歩き辛い場所があった。

 穴の周囲にはやはり焦げ跡があって、リリベルの魔法によるものである可能性が高い。

 オークや人間もどきの叫び、爆発音や足音などが谷中を響き渡っているので、多分俺が大きな声で彼女を呼びかけても彼らの目につくことはないだろう。


「リリベル! いたら返事してくれ!」


 叫んでみたが、周囲の騒音に混じって後は虚しく谷の壁と壁を反響していくだけだった。

 ここにはいないのか?


「ダナ、この部屋は誰もいない! アンタはここに隠れてな!」


 すぐ近くにあった壁の横穴にシェンナはダナを誘導した。シェンナはその部屋の入口前を背にする形で、剣を構えて周囲を警戒した。もし危険が及んだら俺にもその部屋に入るようにシェンナが顔で促していたので、俺は手を挙げて彼女に了解の意を伝える。


 谷の向こう側へ行く石造りの橋は、途中で崩れ落ちている。橋の向こう側も同じように、たくさんの穴と焦げ跡が残っていた。

 そして、橋を渡った先のすぐ側に部屋があるが、入口は滅茶苦茶に破壊されていて、その周りにはオークが持っていたであろう武器が多く落ちている。焼け焦げた死体も同じように積み上がっている。

 あの部屋前辺りで何らかの戦闘があったのは確かだろう。確認してみる価値はある。

 崩れた橋の先にある部屋へ向かうには、一度下に下りるか、上に上がるかして向こう側へ行かねばならない。


 シェンナたちが待機している部屋に入り、俺は2人に相談することにした。

 2人は確かに向こう側の荒れようは怪しいと賛成してくれて、一旦下の階層に降りてから橋を渡って目的の場所に向かうことに決まった。


「あの化け物が出てくる分にはまだ良いが、オークたちがこちら側に来たら私でもきつい。さっさと行こう」


 俺たちはすぐに部屋を出て、来た道を戻ろうとしたその時だった。




 強烈な白光が空から降りそそいできた。

 眩しさに腕を上げて光を遮りながら空を見上げると、巨大な白い何かが落ちてきているのが分かった。


「部屋に戻れ!」


 シェンナの叫びに、ハッとして身体を突き動かされた。走って部屋の中に戻って、部屋の奥へ飛び込む。

 後ろ側からガラスが割れるような音が無数に響き渡ってきた。ガラス瓶が1つ割れただけという音ではなく、谷の通路や壁に擦り削り取られて、飛び散ったものが更にぶつかり合って割れている音だ。

 白いドラゴンが放った何かが落ちてきているのだ。谷の底で見た時はそれは水晶のような形をしていた。


 飛び込んでから、体勢を戻してすぐに振り返ると部屋の前に巨大な水晶の床が出来上がっていた。あちらこちらが刃物のように突き出ている。裸足で歩いたら足がすたずたになりそうな尖り方だ。

 ダナはシェンナを抱えて部屋の中にぎりぎりのところで逃げおおせていた。すぐそばまで水晶の破片が部屋の窓や壁を貫通してきている。少しでも判断が遅れていたら、水晶の塊に串刺しになっていただろう。


「あの白竜は一体何なのか。依頼を受けた時には、白竜の話なんかこれっぽっちも出てきやしなかったのに」


 シェンナが入口から顔を少しだけ出して、上空の様子を窺いながらぼやく。

 しかし、今上に見えるのは巨大な月だけだ。月の表面がはっきりくっきりと見える。白いドラゴンはここからでは見えない。


「あの、これを通って向こう側へ行きませんかね」


 ダナがそう言うので、大きな結晶の塊に目を向けると、確かに通れそうだ。塊が谷の間に丁度引っかかる形で道となっている。足場は非常に悪く見えるが、歩けない訳ではない。

 シェンナが結晶に手をかけて結晶の塊の足場を確認しようとしたが、すぐに手を離して部屋の中に戻ってしまった。結晶を触った掌を見つめているので、横から覗いてみると、彼女の手から煙が噴き出していた。

 痛みに耐えて顔をしかめていて、小さな呻き声が聞こえたので、彼女に大丈夫かと尋ねると問題ないと返ってくる。


「とんでもない魔力量だ……。手が灼けた」


 ダナが心配してシェンナの手を見るが、彼女は彼の胸を優しく叩いて彼を引き離す。そして回復魔法で自身の手を癒やし始めた。

 膨大な魔力に触れると手が灼けるなんて初めて知った。今までリリベルの近くで行動をしていたが、自分は全く問題なかった。これもそれも魔女と契約をしているおかげだからだろうか。


 黒鎧を身に纏った俺ならどうなのかと、足を恐る恐る結晶の上に乗せてみたら、驚く程何も起きなかった。

 リリベルの魔力でできた鎧は、白いドラゴンの魔力でできた結晶をものともしていないようだ。魔女の中でも1、2を争う程の魔力量を保つとされるリリベルだが、こうして白い結晶を踏みしめて何ともないことを考えると、彼女は魔女どころか、その他あらゆる生物の中でも特に魔力を持ち合わせた者なのではないか。


「俺はこのまま結晶を渡って、向こうの部屋を確認しに行く。2人はここで待っていてもらえるか」

「危険だから賛成できないな……。私たちはこの結晶に物を置いて道を作って、すぐに追いかける。危険だと感じたらすぐに戻ってこい」


 俺は彼女の言葉に素直に頷いてから、ゆっくりと結晶の上を進む。バランスを崩さないように尖った結晶に手をかけてみるが、籠手がなかったら腕なんかスッパリ切れてしまうかもしれない。

 踏みしめれば踏みしめる程、結晶が割れて軽快な音を鳴らしていく。これから向かう部屋にリリベルがいることを願いながら、俺は魔力でできた道を歩いて行く。


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