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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第4章 月が墜ちる日
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魔女捜しと邪魔者2

 シェンナの剣捌きはすごかった。

 俺の目では捉え切れない速さで、彼女の身体が一瞬で視界から消えたと思ったら、その先にいる人間もどきへ辿り着いていて腕が何本も切り落とされていた。一閃と言うのに相応しい速さである。

 その華奢な腕や足で、どうやって一太刀で切り落としているのか不思議ではあるが、とりあえず敵じゃなくて良かったと思った。


 俺は炎の魔法を必死に詠唱して、人間もどきを退けることしかできなかったが、シェンナにはそれが好評だった。

 炎で身体が完全に燃え上がった何体かの人間もどきは、嫌がるように腕を振り回して通路から谷底へ落ちていった。


「アンタ意外とやるじゃないか。それだけ魔法を詠唱して息切れしないなんて、すごいじゃないか」


 シェンナは喋りながら、人間もどきの腕捌きをいとも簡単そうに避けて腕を切り落とし続ける。

 人間もどきが立ち上がれなくなると、シェンナはすかさず首を切り落とす。俺が持つ剣よりも剣身の厚みが心細いが、魔力を通して剣の耐久度を上げているらしい。剣が少しだけ光っている。


 ダナは落ちていた机を横に倒して盾代わりに構えて、部屋の中から俺たちを応援している。冗談ではなく本当に応援している。

 ダナの応援に一瞬気を取られて、人間もどきが俺の足を掴んで自分の方へ引きずりこもうとしてきた。炎の魔法で身体を燃やしたが、掴んだ腕を離さないまま暴れ回り始めてしまった。このままでは谷底へ仲良く落ちてしまう羽目になる。

 転ばされながらも、黒剣を人間もどきの腕に何度も精一杯叩きつけるが、上手く切り落とせない。

 炎に身を包んだ人間もどきが通路からずるりと落ち始めて、俺も一緒に落ちると思ったその瞬間、俺の足を掴んでいた人間もどきの腕が急に宙を舞った。シェンナが目の前に現れたと思ったら、既に人間もどきがバラバラに切り刻まれていた。

 助かった……。


「大丈夫か?」

「ああ、ありがとう」

「転ぶと剣では物を切り辛くなる。幸いあいつらの武器は腕だけだから、掴まれたと思ったら、すぐに足を踏ん張って切り落とせ。身体のバランスを保つんだ」


 シェンナが俺にアドバイスをしてくれたのは心強い。回復魔法を教えてくれた時もそうだったが、彼女は口調はきついが根は優しい。


「シェンナさん、ヒューゴさん頑張ってください!」


 ダナの応援でシェンナは気が散ったりしないのかと思ったが、シェンナは更に速さを上げて縦横無尽に人間もどきたちに切り掛かっていた。シェンナの動きに人間もどきの傷口から吹き上がる血飛沫が追いつかない。シェンナには全く返り血が付いていない。このエルフもエルフで化け物だ。

 もしかしてダナの応援で強くなっている訳ではないよな。




 そうして、俺が炎の魔法で人間もどきを谷底へ蹴散らして、シェンナが通路を人間もどきの死体の山を築き上げたところで、周囲に人間もどきがいなくなったことを確認してひと息つくことにした。

 何度か人間もどきの腕が、俺目がけて掴みかかってきたが、シェンナの助言通りに剣を振ってみたら、一太刀で切り落とすことができるようになった。


 奥からオークたちの叫び声が再び聞こえてくるので、何事かと思って部屋の中から声がする方へ目を凝らすとオークと人間もどきが戦っている。

 彼らはあまり人間もどきを飼い慣らしている様子ではない。斧やハンマーを思い切り振り抜き、人間もどきたちを瞬殺している。それだとしたら人間もどきたちは一体何のための存在なのだろうか。

 様々な種族の養殖場は、そもそもオークたちのためのものではないのか?


「あまり強くはなくて安心した。正直、フィズレの遺跡で戦った燃える死者(ケイオネクロ)の方が厄介だな」


 シェンナが人間もどきの戦闘力について冷静に解説していた。

 燃える死者(ケイオネクロ)は、俺も相対したことがある。常に身体が燃え上がっていて、強烈な熱波で相手を燃やし殺す。

 あの魔法トラップがある狭い空間の中だったから、余計苦戦を強いられたのかもしれないが、あの時は俺だって何度も死の恐怖を味わった。そう考えると、オークたちや燃える死者(ケイオネクロ)たちとの戦闘よりかは、まだ人間もどきと戦う方がマシだと思った。願わくば、戦いの場に遭わないことが1番なのだが。


 オークたちと人間もどきたちの戦いをしばらく様子見していたら、ダナがあっと声を上げた。どうしたのかと聞くと、彼は谷の少し上側を指差した。

 指差す方向を見てみると、わずかに壁にかかっていた篝火の明かりから、谷の壁に大きく抉れた跡と焦げ付いたような黒色が、その辺りにだけいくつもあるのが分かった。


「もしかして、魔女様はあの辺りにいるのではないでしょうか」

「可能性はありそうだね。行ってみようか」


 人間もどきと戦っているとは言え、オークたちがすぐ近くまでやって来ている。人間もどきもまだ下からちらほらと壁を登ってきているのも見える。彼らに俺たちの存在を気取られないように、ダナが指差した方向を目指して静かに移動することにした。

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