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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第4章 月が墜ちる日
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棘のドラゴンと白いドラゴン

 リリベルの怪我が治ったのかどうか分からないが、自分が谷底に落ちて怪我した時の治療にかかった時間と同じぐらいの時を治療に費やして、俺たちは地上へ向かうことになった。

 リリベルを見つけた部屋でしばらく治療に時間を使っていたが、部屋に入るには、巨大な結晶の上を通らなければならない。それが幸運だったとも言うべきか、結晶に何体かの人間もどきがやって来たが、白いドラゴンの魔力に灼かれて煙を出して再び谷底へ落ちていってくれた。


 異形の者に対して知識がありそうなリリベルに対して、1つ質問をしてみた。あの人間もどきは一体何なのか。


「私も初めて見たよ。でも、あちこちを縫い付けた跡があるから、魔物というよりは、誰かによって作り出された生き物なのではないかな」


 リリベルがガラスのない部屋の窓から外を覗き込んで、人間もどきの得体を推測する。


「他種族嫌いのオークがわざわざ嫌いな奴を改造してペットにしようとするかな。本来なら視界にすら入れたくないはずでしょう?」

「いえ、俺は人間が嫌いとかエルフが嫌いとか、そういうことは思ったことないです。でも、あんなの俺の故郷では見たことないです」


 リリベルがさも当然のことだという風に、ダナに質問したが、ダナは両手を見せて横に振って否定した。


「もしかして、この谷はオーク以外に誰か住んでいるのか?」


 シェンナが部屋の出入口前で、敵の襲来を警戒しながらそう答えた。

 しかし、オークは他種族嫌いなのだから、得体の知れない同居人の存在など絶対許さないはずだ。もしかしたら、人間もどきをペットにしていた先住民がいて、オークたちがその先住民を殲滅してしまったのではないか。だから、後に残った人間もどきが、飼い主不在のまま養殖場の管理をしていた。

 結局、リリベルもあの異常な存在の素性を知らないと言うのだから、これ以上の想像は無意味かもしれない。


 仮にオーク以外に誰か住んでいたとして、今この状況においてはきっとそれは重要なことではない。

 俺は話を変えて、リリベルにもう1つ質問をする。


「遺跡にいたドラゴンを起こしたのだが、俺たちを吹き飛ばした白いドラゴンと戦っているみたいなんだ。月は依然として近いままだし、この後どうすればいいのか相談したい」


 リリベルは俺の報告を喜んでいた。まるでお使いを初めてこなした子どもに対するみたいに、笑顔で褒めてくる。

 その後は、すぐに表情を消して窓から空の方を見上げて、唸って考え始めた。


「吟遊詩人の歌に出てくるような、お伽噺だと思っていたんだけれどね」


 リリベルが言うには、過去に読んだことのある書物に、あの白いドラゴンの見た目と一致するドラゴンが存在するらしい。それは、作者の夢物語で想像上の話だと認識していたようだ。

 リリベルが唸りながら、頭の片隅にあったその書物の記憶を捻り出して言うには、白いドラゴンは、遥か昔この大陸の空を統べていた。

 しかし、空には雲があるだけで、それをつまらなく思ったドラゴンは大地を欲した。大地は棘の生えたドラゴンが既に守護していて、白いドラゴンは邪魔者を排除すべく大地に降り立った。

 しかし、大地を味方に付ける棘のドラゴンに白いドラゴンは敗れ、腕を失い、顔は醜くなってしまった。

 それでも、大地への憧れを諦め切れない白いドラゴンは、力を溜めるべく、空よりも遥か上に飛び立って行った。力の源となるための結晶を作り始めて、長い年月をかけて巨大にさせ、何度も棘のドラゴンと対峙した。

 そして、戦い続けていくうちに、巨大な結晶は夜でも大地からでも目立つ程に光り輝く物へとなった。それが月だ。白いドラゴンは、月を使って棘のドラゴンを倒し、大地を統べるに至った。

 しかし、大地は白いドラゴンが想像していた程の価値は無く、最後には腐って死んでしまうというお話だ。


 なるほど、今起きていることと酷似していると思った。


「ということはそのお伽噺通りであれば、私たちは負けるということか」


 シェンナがぼそっと呟くが、その言葉を肯定することはできなかった。

 果てしない長い年月をかけて作り上げた月と、月の魔力によって強大な力を得た白いドラゴン。お伽噺に出てくるような、破茶滅茶な存在が実在すると分かったら、ただ笑うしかないだろう。

 だが、このお伽噺を書き記した者は、あくまで想像して未来を書いたに過ぎない。この大陸が滅ぶ結末が決定した訳ではないのだ。結末を変える機会はまだあるはずだ。


 根拠はないが、それでも前向きに考えようとする理由は単純だ。死にたくない。死にたくなんかないのだ。


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