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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第4章 月が墜ちる日
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オークの屑とエルフの屑3

 ◆◆◆


「オレは血を見るのが嫌なんです。他人がひどい目に遭っているのを見るのも嫌なんです。だから、他種族を襲いに行くってなったら、いつも襲うふりをして別の場所へ逃がしてあげたりしていました」


 周りはオークだらけで、俺とシェンナは縄で縛られたまま意識を失っているふりをして、黙ってダナの話を聞いていた。


「それでシェンナさんの家族と後いくつかの家族を、こっそり村の外に連れ出して逃がしたんです。全員縄で縛って、他のオークには、今からオレが楽しむから横取りするなとか言っておけばどうにかなりました」


 オーク全員が他種族を憎んでいるのかと思っていたが、どうやらそうではないようだ。

 だが、よくよく考えてみれば当たり前の話であった。オーク全員が同じ思想を持っているかと言われたら、きっとそれは違う。やっぱり個人差がある。オークごとに色々な性格だってあるんだ。


「なぜダナさんは他種族に恨みを持たなかったのですか? 子供の頃からそう教え込まれたりはしなかったのですか」

「最初は他の種族は皆危険だって教えられた。でも、仲間が襲った相手は皆、泣いてた。痛そうにしてた」


 ダナは他人の痛みを特に感じ取れるオークなのだろう。いや、人間だとかエルフだとかオークだとかは関係ない。きっと()()優しいのだ。


「その後、助けたエルフに殺されそうになりました」


 それはそうだろうな。

 相手が優しいオークだろうが何だろうが関係ない。当事者からしたら襲って来た奴らは全員敵になるだろうし、憎くもなる。恨みが恨みを呼んで新たな復讐と憎悪の塊が、その種族にぶつけられていくだけだと思う。


「でも、シェンナさんが助けてくれました。『全てを憎むべきではない』って他のエルフさんたちを諭そうとしたんです。そしたら、裏切り者って言われて彼女も殺されそうになりました」


 生き残った者たちからしたら、憎しみをぶつける先が無くなったらきっと困るだろう。だから、オークを庇うシェンナは、他のエルフたちは簡単に敵として見ることができたと思う。俺がエルフだとしてその場にいたら、きっと俺だって怒りでシェンナを殺そうとしたかもしれない。


「それでシェンナさんの家族と一緒に森から逃げました。オレは、自分の住処に戻れば良かったですけど、シェンナさんが心配だったので、彼女にとって安全な場所を見つけられればと思ってついて行きました」


 ダナはシェンナとその家族を連れて、新たな棲家を探すために放浪した。それで、しばらくしてから全く別のエルフの里を見つけてそこで暮らすことになった。


「なぜ、自分の住んでいた場所に戻らなかったのですか?」


 俺は他のオークに聞かれないように、小さな声でダナに質問する。


「えっと……」


 ダナが言い淀んだようだったので、言いたくないことがあるのかと思って、「言いたくなければ言わなくて大丈夫です」と返事すると否定された。


「一緒に旅している間に、いつの間にか好きになっちゃっていたんです」


 なるほど。


「シェンナさんがオレのことをです」


 なるほど?

 ダナがそう口にした瞬間、再び「痛っ!」と声を漏らした。またシェンナに蹴られたのだろうか。


「コイツ、オークだから他の種族からも恐れられているんだ。だからしょっちゅう殺されかけるのを見てきた。それこそ人間に矢を射られたりとかさ」


 シェンナがダナの肩に揺られながら、声だけ小さく返してきた。


「でもコイツ一切反撃とかしないんだ。そういうの見てたら……なんかいつの間にか放って置けなくなっちゃって」


 どんどん声が小さくなっていくシェンナに、俺は驚いてしまった。遺跡で会話した時の彼女と似ても似つかない。なんとしおらしいことか。

 今度はダナが話を続けた。


「オレと一緒にいるとシェンナさんだって危ないのに、新しい住処を見つけた後もオレのことを気にかけてくれて。それで、シェンナさんの家族は新しい住処に残して、一緒に旅をしながらお金を稼ぐことになりました」


 お金を稼いで、たまにシェンナの家族のもとに帰って少しだけ留まって、また2人で旅をすることを繰り返しているのだそうだ。

 ダナに故郷が寂しくないのかと聞いたら、「オレもシェンナさんのことが好きなので、故郷に戻るよりシェンナさんと旅をしている方がいいです」とストレートに言い放った。

 お熱いようで何よりである。


「もし言い辛かったら無視してほしいですが、シェンナさんは、仲間をオークに殺された時は、その後もダナさんと行動したいと思わなかったのではないですか?」

「いや、最初は嫌だったよ。放っておいてくれってね。でもコイツ全然言うことを聞かないんだ」


 シェンナは諦め混じりにそう言った。


 他種族を超がつく程嫌うオーク族でありながら、他種族が傷付くことを嫌うオーク。

 オークにたくさんの仲間を殺されたのに、オークに仕返しをせず、あろうことかオークを好きになってしまったエルフ。


 オークとしての本懐から逸脱したオークのダナと、なぜか他種族な上に(かたき)のオークを好きになったエルフのシェンナ。

 2人はその種族の生き方としてはきっと失格だと思う。

 今聞いた話の通りであれば、エルフとしては屑だし、オークとしては屑なのだ。


 でも、それを嫌とは思わなかった。

 それどころか、話を聞いていくごとに心が和らいでいく気がした。


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