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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第4章 月が墜ちる日
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オークの屑とエルフの屑2

 ◆◆◆


 夜になって見張り以外は寝静まる頃だった。森の奥深くに位置するエルフの村だし、外の生き物なんかこれまで1度たりとも来たことがない。だからその日だっていつも通り静かな夜だと思っていた。


 だけれど、その日は悲鳴で叩き起こされた。

 木の上に建てた家の戸を開けて外の様子を見ると、森が真っ赤に燃え上がっていた。炎の中をオークたちが掻き分けて進んでいくのが見えて、さすがに恐怖したよ。

 100とか200とかそんな話じゃない。流れ出した水が止まらないかのように、オークたちが木々をすり抜けて行く。


 村に彼らが入ってくるのに時間はかからなかった。

 戦うとか逃げるとか判断する前に、村の半分は既に火の手が上がっていてオークの突進が始まっていた。

 大半は足を止めないオークに轢かれて、原形を保てない程に肉片にされる。それでも轢かれて死んだだけならまだマシな方だ。

 燃えていない家に侵入して2階や3階へ向かっていき、まだ生きていたエルフを抹殺するべくオークたちが雪崩れ込む。

 私がいる家は木の上にあるため、高さがあって周囲を見渡しやすかった。だから他の家の開いた窓から、何が起きているか全て見えていた。反撃してオークを返り討ちにした者もいたが、数には勝てない。手練れの剣士だろうが弓使いだろうが魔法使いだろうが、最終的には皆死んでいった。


 オークが村に大方侵入して走る必要がなくなったら、まだ生きているエルフを入念に殺していく作業が始まった。

 何人かのエルフを鉄檻に入れてそれらはどこかへ連れ去られて行ったが、それ以外は基本的にその場で殺されていったよ。

 男のエルフなら手足だけを執拗に殴ったりもいだりしてから、動きが鈍ったら殺していたし、女のエルフなら犯されてから殺された。身体の大きさが全然違うから、大半は犯されている間に死んでいた気がする。子供たちはその場で生きたまま食べられたし、とにかく酷くて途中からは外の様子を直視することはできなかった。


 私は家の中に戻ってすぐに剣を持って、地上に通じる扉を前に構えて待っていたよ。

 本当は下に下りて、仲間たちを救いたかったけれど、この数じゃ私1人だとゴミの役にも立たない。

 正直自決することも考えたけれど、この家には私のお婆さんと弟妹たちがいた。だからオークが来る前に家族を全員殺すしかないと思った。簡単に殺された方が1番幸せだからさ。

 未だ外の様子を見ていない弟妹たちは、音だけでしか外の異常を感じ取ることはできなかったから、ただ家の真ん中で怯えるだけだった。


 そうしたらすぐにドタバタと木の階段を破壊しながら進む音が聞こえてきたんだ。明らかにこっちに近付いているってすぐに分かった。

 その音は仲間のエルフじゃないってすぐに分かった。自慢じゃないがエルフは耳も目も良く効く。その音の重さで敵だろうって判別できた。


 だからすぐに弟たちのもとへ行き、目を手で隠してから首を切って殺そうと思った。

 けれど、私の想像するオークよりも素早さがあったソイツは、一気に距離を詰めて家に辿り着き、扉を乱暴に蹴破って来た。やって来たオークはたった1人だったから、すぐに反撃して倒すことも考えたけれど、反撃に失敗した後の家族のことを考えて、構わずそのまま弟を斬り殺そうとした。

 そのオークと目が合うと、すごい速さでオークは素手で私の剣を掴んだ。私はしまったと思ったよ。オークなんて目が悪くて頭の悪い生き物かと思ってたけれど、部屋に入ってから瞬時に私がやろうとしたことを察して止めてきやがったんだ。

 その後は諦めたよ。まったく全然どうしようもなさそうだったから諦めた。だって私がどれだけ掴まれた剣を引き離そうと思っても岩のようにびくともしないんだ。この時私は魔法もろくに使えなくて、ただ剣を振り回すことだけしか知らなかったから、その事実だけで簡単に抵抗することを諦めることができたよ。


 けれど、ただそれでも、弟たちは何としてでも楽に死なせたいと思った。弟の目を塞いでいた手をすぐに首に回して、全力で首の骨を折ってあげようとしたんだ。

 だけれど、オークは私がその行動に移そうとした瞬間に、まるで最初から私がそうすると知っていたかのように私のもう片方の腕を掴み上げたんだ。


 その後オークは剣の刀身を握っていたもう一方の手を私のもう片方の腕に回して掴んで、そのまま空中に持ち上げられた。

 オークにこのまま犯されるんだろうなって思ったさ。そういう景色はさっき見えたしな。


 けれどオークは私の耳元でボソボソ囁くんだ。気持ち悪かったよ。何て言っているかはまるで理解できなかったし。

 弟たちのことも考えて諦め気味だったけれど、やるならさっさとやれって、通じてるかも分からない私たちの言葉をソイツに言ってやったさ。

 そうしたら、いきなりオークが私の理解できる言葉で話し始めたんだ。


「アナタたちをここから逃したいのです。大人しく捕まったふりをしてもらえませんか?」


 何言ってるんだこいつってその時は思ったさ。

 で、その意味不明なオークをよくよく見たら、私の両腕を掴んでる手が震えてるのが分かったんだよ。

 私たちを襲ってきたくせにソイツはひどく怯えていたのさ。


 ま、ソイツが私の夫になるダナってオークなんだけれどさ。


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