オークの屑とエルフの屑
俺の目の前で2人は奇妙なことをやり始めた。
ダナは突如シェンナの縄で縛り始めて身動きが取れないようにしていた。
「すぐ外せるようにはしてるから」
ダナはシェンナに痛くはないかと何度も聞いて、くどいと思ったのかシェンナは途中で彼を叱りつけた。
俺がダナになぜ彼女を縛っているのかと聞いたら、「シェンナが、キリがないから私を捕らえた体で行動した方が楽だろうと言うので縛っています」と言う。
それだとシェンナがダナを守るという話は一体何だったのかと思ったが、それはあえて言わないでおくことにした。
「で、アンタは無事かい? 下からドラゴンが出てきたのは確認できたけれど、中々上がってこないから下りてきたんだけれどさ」
「ああ、大丈夫だ。死にかけたが『ヒール』で大体の傷は治せた」
「それなら良いけどさ。じゃ、アンタのとこの魔女も助けてまずはここを出ようか」
「彼女は今どうなっているんだ? 無事か?」
2人はリリベルが今何をしているか知っているようだ。俺は自分でも気付かないぐらい焦っていたのか、早口でシェンナに質問をしていたようで、彼女に落ち着くように言われてしまった。
「彼女は上でオークたちの気を引きながら戦っている。橋と通路を落として、部屋に籠もってアンタが来るのをずっと待ってるよ」
無駄に痛みを伴うよりかは、無事な方がずっとマシだ。だから、俺はシェンナの言葉を聞いて少しだけ安堵した。
「次はあなたを縛ります」
ダナが俺の身体を覆える程の布を被せてから軽く縄で縛り付けた。俺とシェンナを担いで移動しようとしているようだ。
これ以上上の階層はオークの数が増えていくので、否が応でも彼らの目につくからダナに荷物として運ばれていく方が都合が良い。俺は黒鎧の魔法を一度解き、大人しく巻かれることになった。その間、ダナが何度も俺に痛くはないか聞いてきて、またシェンナが彼を叱った。
辛うじて布の切れ間から外の景色が見える状態で、俺はダナの肩に担がれた。
ダナの右肩には俺が、左肩にはシェンナが乗っている。ダナの歩きに身を任せて俺は身体を揺らしていく。
「下の階層で色々な種族の養殖場や料理を見てきた。エルフもいた」
俺はダナとシェンナだけに聞こえるように、なるべく小さな声で話す。2人に聞きたいこともあった。
「エルフだってあれだけ酷い目に遭っているのに、なぜ2人は夫婦になったんだ?」
シェンナは小さく「今はそんな話をしている場合じゃないだろう」と諌めたので、俺は確かにそうだと続きは聞かないことにした。
ところが、少しの間を置いてダナが喋り始めた。
「彼女からプロポーズされました」
するとダナがすぐに「痛っ!」と声を上げた。多分、シェンナに背中を蹴られたのだろう。
「初めて出会ったのは私の故郷だ。私の故郷はオークの軍団に滅ぼされた。いや、正確には滅ぼされかけた」
仕方ないといった感じで溜め息をついたシェンナがダナの肩に揺られながら続きを話し始めた。




