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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
プロローグ
8/731

緋衣の魔女

 緋衣の魔女を口にする彼女は、昼頃に会った時と同じように笑顔だ。

 だが、彼女の纏う雰囲気は全く別物で、人との会話を寄せつけたがらない空気を漂わせている。


 緋衣の魔女が着ている血の色のように真っ赤なフード付きマントは、月の光に照らされて周囲も赤く鈍く光っている。


「昼に会ったばかりだというのに、また私に用があるのか?」

「君と話がしたい人がいるのだよ」

「そいつか」


 眼光が再び俺に突き刺さり、冷や汗をかく。


 黄衣の魔女はとことこ俺のすぐ目の前まで歩いて背を向けて、祭りの時と同様にまた俺の胸に寄りかかる。

 こいつはなぜ俺に寄りかかりたがるのか。

 それよりも今1番気になっていることを聞きたい。


「首を斬られたのになぜ生きているのですか」

「首? ああ。この女のことか」


 緋衣の魔女は自分自身を指差す。

 まるで中身は別人かのような言い振りだ。


「首を繋げて縫い付けた。この通りな」


 指差されたその首は血塗れで、よく見ると糸が雑に縫い合わせてあった。

 いやいや。縫い合わせて首を繋いだぐらいで人が生きていける訳がないだろ。


「後は、血だよ。我々の意思はこの町に流れる血全てに宿る」


 全く意味が分からん。

 黄衣の魔女は見上げて俺の顔を見つめてきた。


「彼女の魔力だよ。魔力を血に宿らせて人を動かして生きているような状態になっているだけだ」


「君が昼に会ったと言う女は、しっかりと死んでいるよ」


 解説ご苦労。

 黄衣の魔女は俺に寄りかかったまま、なぜかご機嫌に話しかけていた。


「用はそれだけか?」


 既に目の前まで来た緋衣の魔女は問いかける。

 無意識に俺の顔をしかめさせるほどの鉄の香りが漂ってくる。


「いえ、用は他にあります。『魔女の呪い』について聞きたいのです」


 俺は懇切丁寧に、緋衣の魔女の呪いと黄衣の魔女の見解について説明し、呪いが本当なら話し合いで解決したいという意思を伝えた。


 緋衣の魔女は、口元に微笑みを浮かべたまま、目だけは路傍の小石でも見るような冷たい眼差しでただこちらを見つめ、黙って聞いていた。


 黄衣の魔女の方は相変わらず俺に寄りかかっていたので、そろそろ自分で立てと、両肩を軽く掴んで押すと、口を尖らせてぶつぶつと小さく文句を言い始めた。

 どうやら俺に寄りかかっていたことが、魔女のご機嫌取りになっていたらしい。




「そうか。呪いを解きたいのか」


 緋衣の魔女は一瞬だけ、黄衣の魔女と同じように柔らかい顔つきになった。

 そして、指を1本立てる。


「1つ。『魔女の呪い』はお前の言うとおり、この町全ての血にかかっている」


「2つ。解呪方法は呪いをかけた魔女を殺すこと。つまり私を殺すこと」


「3つ。血は、我々は争いを求めている」


 3本の指が立つと同時に緋衣の魔女の首から血が滴り落ち始めた。

 だが、その血はそのまま下へ向かわず、1つの形になったと思ったら生き物のように蠢き始めた。


「2つ目までは分かったのだが、3つ目はどういう意味なんだ?」


 俺は耳打ちして疑問を投げかける。


「戦いたい、という意味じゃないかね」


 黄衣の魔女はあっけらかんと言い放つ。

 正直俺は戦々恐々としている。


「待て待て。お前とあいつは知り合いなんだろう? 戦う気はないと言ってくれよ」

「知り合いだけれど、今の彼女は魔女の本分に従っているだけ。私に止める権利はないよ」


 非常にまずい。

 俺があいつと戦ったとしても勝つ見込みがこれっぽっちも湧かない。

 魔女と戦ったことなんて一度もないし、そもそも肉弾戦でだって弱いのにどうしろっていうんだ。


「あなたと戦う気はないんだ! それに戦う理由がない! 何か気に入らないことがあったのなら、すぐにこの町から出ていくから許してくれないか」


俺は向き直って、緋衣の魔女にそう問いかけた。


「違う。全く違う」




「この町全体に呪いがかかっていると言っただろう」




 その言葉に黄衣の魔女はあっと声に出して何かに気付いた様子を見せた。


「君自身も呪いにかかっているのか」


 緋衣の魔女は沈黙している。


「君自身も町人たちが健やかに生きることを『望み』、君自身の魔法で望みは『叶い』、呪いが成立したということかな」

「魔女本人にも呪いはかけられるのか?」

「かけられるよ。だから自分自身の願いを叶えるために魔女になる人はたくさんいるんだ」


 今までの言葉を振り返って、察してみる。

 すると、緋衣の魔女も自身の無意識の望みによって呪いにかかったということが想像できた。


 こう話を聞くと『魔女の呪い』は使い勝手が非常に悪い。呪いとして成立させるために、魔女側で魔法をかけるものだとばかり思っていたが、これではふとした時に呪いが勝手に発動してしまうじゃないか。


 そして、先程の戦いたいと言う言葉は、本当に戦いたい訳ではなく、殺してほしいという意味だととれる。

 それなら自分で自分を殺せばいいのに。


 何もわざわざ戦う形式をとる必要もないだろう。

 だが、殺すことについて一つの疑問が生まれる。

 今は緋衣の魔女である彼女を殺したとして、魔女としての彼女はどうなるのか。


 その質問を投げかけようとした時であった。




流血(ノクタ・タ)


 緋衣の魔女に纏わりついていた血の塊が、突如波の形となってこちらへ襲いかかってきた。

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