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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第24章 アスコルト一家、学校に行く
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星の魔女とは5

 赤衣(せきえ)の魔女と会話がしたかった。

 彼女は目に見えて足が竦み、生命を脅かす存在が目前に迫っていることを伝えている。


 それが普通だ。

 正常で、真っ当で、命あるものなら誰でも持っているはずであろう、死を回避し生きようとする欲求を、彼女はその身で表している。


 恐怖の元となっているスターチスが、目の前で理解しようのない光を放つ度に、死なずに済んでいる彼女は余計に恐怖を覚えてしまう。

 それでも彼女は恐怖と闘志2つで炎を放つ。

 恐れで放つ炎はいつもと変わらずという訳ではなく、動揺がそのまま表れたかのような揺らめきがあった。


「頼みがある」


 俺が尋ねれば、ラザーニャは何が何でも耳を傾けようとした。

 それは俺だからではなく、彼女が誰からの言葉でも聞き入れる態度を作り出そうとしていたからだ。

 そして、その理由も魔女協会の長だから、なのだろう。余裕を持って他者の言葉を聞き入れられる者を姿勢で表し、魔女協会の長としての品格を保とうとしている。


 星が再び貫こうとする。

 痛みを感じるよりも早く、俺は貫かれる。

 邪魔な瞬間だ。

 俺は今、赤衣の魔女と会話をしたいのだ。これではまともに会話はできない。


 少しだけで良い。

 いや、欲を言うならある程度の時間が欲しい。


 それを願った。


 そして願いと同時に俺は、星と衝突した。

 赤衣の魔女と会話をするための、俺自身の身を守るための盾が星とぶつかった。

 願いは盾の具現化に繋がった。


 盾に衝突した星は、青色の彩光を解き放つ。光の尾だけが盾の外側へ流れ弾いていく。

 全ての光を盾1つで受け流せた。


 星の衝撃を受けて盾を持ち続けられていること、星の力で俺の身体が押し出されないこと、俺が()()()()()()()()で身体が無に帰さないこと、音が消えないこと。

 叶うはずがない願いをネリネが叶えさせる世界で、盾を構えたまま赤衣の魔女に尋ねる。


「頼みがある、俺では煌衣(こうえ)の魔女を倒せない。力を貸してくれないか」


 赤衣の魔女は再び快く承諾した。

 実際は真逆のことを考えているだろうに。




 子どもたちは既に落ちた宝箱から逃れられた。そう、願っている。

 後は俺たちもこの世界から脱するだけだ。

 しかし、元の世界に戻る方法が未だはっきりとしない。

 せめて落ちた宝箱へ戻れられたら良いが、肝心の学舎が破壊されている。

 何も分からぬまま、ただ眼前にある星の光を身に受け続けるしかないこの状況を打破するには、やはりどう考えても赤衣の魔女の助けが必要だ。


 俺の願いを聞き届けようとするラザーニャが、俺より前に出ようとするのを手で制止する。


「いいや、違う。赤衣の魔女が前に立つ必要はない。俺が盾になる」

「それでは私が……魔女としての……」

「そんなことは考えなくて良い」


 盾に打ち放たれた光は、地上を破壊し尽くしている。

 町は消滅し、地が抉れ続け、抉れた全てが宙を舞い、雲となり夜よりも暗くなる。

 ラザーニャの炎とスターチスの光だけが渦中を照らし出す明かりの役割を果たす。


「大丈夫だ」


 そう彼女に語りかけている間に、盾で弾いた星の光とラザーニャの炎が俺を焼却する。

 それだけだ。たかが焼殺で彼女への説得を止めることはない。


「大丈夫」


 この言葉は俺自身への言い聞かせも含められている。何度死んだとしても、リリベルから受け取った呪縛が俺を守ってくれている。

 だから、恐れる必要はない。


「赤衣の魔女、俺はあんたがなぜそこまで魔女協会の長に執着しているのか分からない。教えてくれるのなら話は早いが、そう簡単に話すことはできないことは分かっている」


「今、この場だけは……いや……いいや! この盾がある限りは、赤衣の魔女に1つの傷も負わせたりはしない!」


 赤衣の魔女の顔色はまだ暗かった。

 彼女が口を開いてくれたら、何か言ってくれたら。

 だが、言わないのだろうな。


 と、そう思っていた。


「わ、私には……私は……」


 今彼女は、言いたくない言葉を必死に紡ごうとしている。

 俺は、今の彼女がこうなった根幹に関わろうとしている。それを聞くには覚悟が必要だ。責任が伴うだろう。


 だが、それで良い。


 彼女がどれだけ時間をかけようとも、盾は構えていられる。


「私は、強くない……」


「名売れの魔女を倒すことができる魔法なんか使えない」


「こんな炎、見かけだけで弱い者虐めしかできない!」


 感情の発露。

 それは赤衣の魔女として、魔女協会の長としてあるまじき、それらに相応しくない行為。

 彼女は自身の言動が、矜持をどれだけ傷付けているのか分かっていない。

 爆発した感情に飲み込まれている。


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