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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第24章 アスコルト一家、学校に行く
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七不思議とは6

 胡散臭すぎて、誰に向けて話した訳でもなく、勝手に独り言が出てしまった。


「いいや、あながち誤ってはおらぬぞ」

「ぎゃあ! 出たあ!!」


 七不思議の1つ、図書室に出る亡霊だ!

 白髭が特徴の女は薄気味悪いマントを羽織り、恐ろしい眼つきで俺を睨んでいた。一体どのような恨みをこの世に残して死んだのか。


 幽霊を見たことは過去にもあるが、別にリリベル程は恐れを感じない。

 だが、いざいきなり目の前に現れると驚きもする。尻餅が図書室に響き渡ってしまう。


 幽霊でも本を投げれば効くだろうか?


「失敬な男だ。(けい)は確か……」

「卿……?」


 聞き覚えのある言葉に声色だった。俺の知らない者ではない、つまり幽霊ではない可能性がある。

 そこで初めて目の前の亡霊の姿を、まじまじと眺めるに至った。


 彼女はつばの短い硬そうな帽子を被っている。帽子の真ん中にはどこかの国か家かの紋章飾りが取り付けられている。

 長い髪を後ろで結んで折りたたみ帽子の中に収めている。基本的に髪色は黒いのだが、毛先の方は赤色がかっている。


 マントは灰がかった深い緑色で、首元にある金色の飾り紐で留めている。

 マントの下の衣服は色気の1つも感じさせない男物の衣服だ。長袖と長いズボンに硬そうなブーツ。

 衣服も深緑色で、質素ではありながらも豪華な装飾が施されている。右胸辺りには、金糸で編み込んだ紐が吊るされており、左胸にはいくつかの小さな勲章が綺麗に整列するように取り付けられている。

 帽子と同じで服も生地が厚く硬そうな質感だ。


 顔立ちは整いすぎていて、男に見間違える。

 だが、髪と胸と身体の骨格を見れば、女性であることはすぐに分かる。

 目はリリベル程ではないが、輝く黄金の色を持つ。

 武人のように鋭い目つきを持っており、その見た目通り、言葉遣いは武人のように堅苦しい。故にふざけているように見えてしまう。


 更にふざけていると思えてしまうのは、立派な口髭のせいだ。

 綺麗に手入れされた口髭は糊のりで固められているようで、両端が上向きに跳ねている。


 ただ、俺が覚えている彼女の口髭は、髪色と同じく黒だったはずだ。

 それが、今は真っ白な口髭を付けている。

 髪色と合わせるつもりのない口髭のせいで、彼女は余計にふざけた見た目になっている。


 ふざけた見た目でありながら、『歪んだ円卓の魔女』の1人であり、魔女協会の長でもある彼女は、赤衣(せきえ)の魔女ラザーニャ・ラゲーニアだった。


「む、思い出した。卿は奇天烈小娘の夫の……そう、ヒューゴであったな」

「は、ははは」


 七不思議の1つの正体が早くも明かされてしまった。

 というか、何で今まで誰も気付かなかったのだろうか。


「こんな所で赤衣の魔女と会うとは思わなかった」

「うむ、我もであるぞ」


 ついた尻餅を直して、誰かが此方に向かっていないか確認してみる。

 もし、生徒の誰かが白髭の変質者を見て、騒ぎを起こせば具合が悪いと思ったからだ。


 皆、読書に集中しているようで、1人も顔を覗かせる者はいなかった。

 安心した。


「なんで魔女協会の長がこんな所にいるのだ?」

「我はこの学校を創設した学長であるぞ。我がここにいることは何の不思議にもならぬ」

「が、学長だと……?」

「何だ知らぬのか、ここは『ラザーニャ学院』であるぞ」


 知らなかった。

 誰も彼も、ただここを学校とだけしか呼ばなかった。

 学校には名前すらない。

 だから、学校とはそういうものだとしか思わなかった。


「当たり前であろう。魔女が真名を知られてはならぬことぐらい、魔女の夫である卿なら熟知のことであろう」

「いやいやいや、それなら『ラザーニャ学院』なんて名前――」

「故にここは、学校と呼称する他ない」

「……頭がおかしくなりそうだ」


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