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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第24章 アスコルト一家、学校に行く
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七不思議とは5

 図書室は広かった。

 この部屋はまだ1度しか掃除したことがないが、はっきり言って人間1人で掃除するには余りにも力を要する。


 書架が高く、1つ1つの棚の埃を掃除するのに、脚立に登り、掃除し、脚立を降り、移動するという工程があるからだ。

 書架が1つ2つなら良いが、奥行き満遍(まんべん)の数え切れない書架がここにはある。1日で掃除し切ることは到底無理だ。実際無理だったし、まだ1回目の掃除は終わっていない。


 最奥の書架たちは埃被っている箇所は多い。


 故に、ただでさえ薄暗く不気味な図書室が、より一層不気味に見える。

 紙を捲る音、本をしまったり取り出したりする音、移動する足音、時折本棚が自重に悲鳴を上げる音が聞こえる。

 逆に、数えるくらいしか音が聞こえない。


 ぽつりぽつりと書物に目を通す学生たちが見えた。

 彼等の邪魔にならないように、抜き足差し足で奥へ進んで行く。

 最奥の書架は、蔵書の内容的に学生たちの目を引くものはないようで、寂しく静かだ。


 そんな最奥の書架の分類は、古代魔法に関する内容の本たちで集められている。

 フィズレの者たちは、様々な理由で魔法に興味があるとは言ったが、さすがに古代魔法には興味がないようだ。


 その理由は本を開けば大体察することはできる。

 それもそうだ。現代魔法と異なって古代魔法を詠唱する敷居は高い。

 詠唱呪文は本の1頁をみっちり埋める程長い。

 魔法陣の枠は歪な多角形だったり、台形だったりする。枠内の模様は、動物の絵や見たこともないオリジナルの文字でびっしりと描き込まれている。今のものと比べてもひと目で複雑怪奇だと分かる。

 それらを描き切るのにはどう考えても、労力が必要だ。

 しかもその労に見合った結果が得られるとは限らない。ひと文字でも詠唱を間違ったり、魔法陣を描き間違えたり、魔力の調節を誤れば、その瞬間に魔法は失敗する。

 ただ失敗して不発に終わればまだ良い。それが別の効果を伴って魔法を出力し、挙句それが自身に呪いの如き効果を生み出した場合は最悪だ。


 それらを簡単にやってのけて、戦いに利用していた右衣(うえ)の魔女アルカレミアや極彩衣(ごくだみえ)の魔女マイグレインは、始祖の魔女と呼ばれ(あが)められるだけのことはある。


煌衣(こうえ)の魔女スターチスが遺したとされる禁忌の魔法』


 たまたま手に取った本と、その近辺にあった本も彼女が手掛けた魔法に関する内容だった。

 書架の上部まで確認しなかったが、少なくとも書架の半分は、スターチスという名が付く。

 遥か昔々、魔法という概念が生まれたばかりの時代に生きていた魔女の始祖の1人。煌衣の魔女スターチス。


 これだけの蔵書が残されているスターチスが、一体どんな魔法をこの世に遺したのか。

 しばしの空き時間を埋めるのに丁度良いと思う程度には、興味のある内容だったので、本を読み続けた。


 伝記を混じえて彼女が作り出した魔法とその効果を添えて書き記している。

 ただ、肝心の魔法は大きく注釈で『著者は記述した魔法の再現はしておりません。あくまで言い伝えられた情報を基に内容を記述しております』と添えられている。

 ほとんどがそうだ。いや、試しに読み進めてみたが、恐らく全部がそうだ。


 どうやら著者は、1つも魔法を再現できなかったようだ。

 だから、この本の信憑性が疑わしくなってくる。疑わしいまま読み進めていくと、更に疑わしさが増してくる。


『煌衣の魔女は誰よりも速く、誰の目にも留まらない。その速さ故に魔女は時間すら遡上する』

『煌衣の魔女は誰よりも速く、誰の耳にも留まらない。その速さ故に言葉は空のみを切る』

『煌衣の魔女はその速さ故に、地上に立つことを許されず、自ら望んで空に生きる』


「何だこれ、馬鹿馬鹿しい」

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