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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第24章 アスコルト一家、学校に行く
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地下の秘密とは14

 鏡はラザーニャの満足の犠牲となったため、七不思議の本領を発揮することはなかった。

 だが、鏡にまつわる御伽噺といえば、起きることは決まっている。

 鏡の中の自分が独立して動いたり、あるいは鏡の外に出てきて自分と成り代わったりとか、その類のことだろう。

 俺にとっては鏡の中に住まう者(スペクリュグス)とのやり取りで散々体験してきたことだから、驚きはしなかった。

 むしろ、それら過去の経験から、鏡に姿が映る範囲から早く脱したかったくらいだ。


 だから、赤衣(せきえ)の魔女が鏡を破壊したことは、良かったと思っている。

 鏡のことを気にする必要がなくなった。

 晴れて教室の外へ出られる。


 廊下は1度目の廊下よりも更に薄暗く、遠くの視界が悪い。足元すら見え辛い。

 凄まじい量の雨水が窓を叩きつけていて、その音が校内に響き渡っている。

 この雨に一瞬でも曝されたらどれ程服は濡れるのだろうか、なんて想像よりも、命の危険を端々に考え始めるような不安感に煽られる方が強い。

 気を使わずに済む雨の量ではない。


「雨の飛沫が風で舞い上がり、霧になっている。中庭に出ればすぐさま前後は不覚になろう」

「生徒たちを探す範囲を絞れる」


 それからはとにかく叫んだ。

 雨音に掻き消されないように、全力で人を呼び続けた。

 広い学舎内に届くように叫び続ければ、そう長い時間もかからぬうちに、喉は枯れる。

 そして、赤衣の魔女は俺の喉が枯れそうになる度に、傷付いた喉を癒やしてくれた。


 叫びながら歩き続けて、階段まで辿り着いた時に、上に行くか下に行くかで迷うことになった。

 再び地下までの道のりがあるとするなら、2階から叫んでも声は届かない。


 地下にある宝箱から教室に落ちて来た訳だが、再び地下へ降りた場合、そこは宝箱があった地下と同じなのだろうか。

 ええい、ややこしいな。


「待て」


 下の階へ降りようとする俺を制止したラザーニャは、階段の手すりに身を乗り出して下の階を覗きながら言った。


「洪水でも起きたか、下は水浸しだ」


 言われてラザーニャと同じように手すりから階段下を覗くと、確かに下は濁った水で溢れかえっていた。

 雨が激しすぎて窓から外の様子を確認することが難しかったが、地上は海のようになっていた。

 観察すると白波を立てながら、階段が1段また1段と飲み込まれていくのが見える。そう時間がかからぬ内に、水は2階まで到達しそうだ。

 悠長に話し込んでいる暇はなかった。


「この水が学舎を埋めるほどかさを増すなら、我輩たちが落ちた宝箱から戻ることができるかもしれぬな」

「その前に皆がいるかどうか確認しなければならない」

「探す間に埋まるぞ」

「行き来どきる範囲が狭まれば狭まる程、生徒たちに会う機会は上がる」


 想像された世界へ行く方法が、この世界に対する興味であるなら、脱する方法は、この世界への興味を投棄することだ。というより、それ以外の方法が思い付かない。

 宝への興味と命を天秤に賭ければ、それはすぐさま実現できるだろう。


 だが、生徒たちが例の宝箱を開けたなら、中身を見たはずで、中身を見たならそれを手に取るはずだ。それぞれの想いが詰まったあらゆる種類の宝を目の前にして、取らないという選択肢はないはずだ。

 宝箱の中身は手が付けられていなかった。

 俺たちと同じように宝を手に取ろうとした瞬間に、引きずり込まれてしまったと考えて間違いない。


 だから、生徒たちはまだ学校にいる。

 宝があると確信できた者たちの欲望を満たすことができていないのだから、生徒たちは命を脅かすギリギリまで宝探しを続ける。

 雨が降って水かさが増し、学校が水に沈みかけても、学校全てが沈まないという可能性に賭けて残っている。

 いくら大雨だからと言って、まさか学校全体が沈むとは思わないだろう。絶妙な危機感を持ちつつ、そして手遅れになってしまう可能性は大いにある。


 故に水かさが増しゆくこの状況で、宝箱の穴から戻ることを踏まえて最も初めに確認しなければならない場所は、屋上だ。


「屋上へ行こう」

「何か思索ついたことでもあったか」


 階段を駆け上がった。

 階段に七不思議がなくて良かったと思う。


 階段を登り切って、生徒たちが出入りするためではない簡素な扉を開けると、探していた者が見つかった。


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