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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第23章 絶対振動
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感情の振動4

 リリベルは、食事を用意する時間だと言ってなぜか俺の手を引っ張り、家の中に連れ込んだ。

 多少なりともかいた汗を拭いたかったが、彼女は炊事場に通すなり俺を椅子に座らせて、自分は料理の支度を始めた。


「パパ、ママ、お腹減った!」


 リリベルが手に取った食材の匂いでも嗅ぎ付けたのか、忙しない足音を鳴らし涎を垂らすネリネがやって来た。

 娘は俺の膝に座り、足をぶらつかせて来たるべき食事を待ち構えていた。


「今、リリベルが用意してくれるから、大人しく待っていなさい」

「良いだろう、待ってやる、ぜ」


 最近の彼女がハマっていることは、ヴォルミルの真似をして喋ることだ。

 リリベルが、舌切り騒ぎの話をする時にふざけて真似していたのを、娘がたまたま見てしまい真似をし始めた。

 親の真似をして気を引こうとする子どもは可愛らしくあるが、真似をするならせめて別の者の真似をして欲しい。


 それでも、暗く沈んだ気分がいくらか紛れてくれるから、真似遊びをするネリネを止めさせる気には全くならなかった。


「ヒューゴ君、ラルルカのことだけれど、聞いても良いかな?」


 軽快な包丁の音を響かせながら、リリベルが質問した。オルラヤたちの前であえて話さなかったことには、理由があるのだろうか。


「彼女は、一体どちらの世界の彼女なのだと思うかな?」


 どちらの世界、とは黒衣(こくえ)の魔女との戦いによって俺たちがしでかした、世界を作り変えた時の話をしているのだろう。


 2つ分の世界の魔力が眠るこの世界、半分は黒衣の魔女が持ち、もう半分はこの世界に分散されているはずだ。

 2つ分の世界の魂を持ったリリベルは、2人分の俺を知っているという奇妙な記憶の持ち主となってしまっている。


 ただ、それ以外は全ての魂という名の魔力は、掻き混ぜられて再分配されいているため、ラルルカの記憶がどのようになっているかは、今となっては分からない。


 ただ、俺が思い出せるのは、世界を作り変える前のラルルカは、最後は悲観的ではなかったということだ。

 リリベルや俺への恨みは大分和らいでいたはずだった。

 何せ俺の言うことを聞いて、彼女の魂を明け渡してくれたのだから。


「後のラルルカだと思っている。そもそもアイツは復讐するために、俺たちの知らない別の誰かを利用する性格ではなかった。増してや踏み鳴らす者(ストンプマン)と戦った時に、数多くの命を救うような魔女だった」

「なるほど、性格が捻じ曲げられてしまった可能性があるという訳だね」

「怖い、ぜ」


 リリベルの話に集中する余り、真似するネリネの撫で方が雑になっていた。気付けば娘の髪は、あちこちに跳ね回っていた。(もっと)もネリネはそれを何かの遊びと思ったのか、ネリネの方から頭を押し付けて激しく振り乱していた。


「もしかして、世界を作り直した時に失敗してしまったのだろうか?」

「私たちは完璧だったよ」


 つまり、俺たち以外の誰かが完璧ではなくなるようにしたということになる。

 あの世界でなら、考えられる犯人は2人しかいない。


「彼女が今まで通り、影から私たちを見守ってくれているなら、どこも安全ではないだろうね」


 彼女の言う通りだ。

 貧民街でラルルカの息のかかった者に出会ったということは、この辺りにある影は、彼女の領域ということになる。

 影同士が繋がってさえいれば、彼女はどこでも移動でき、どこからでも襲うことができる。

 故に夜になれば、世界の半分は彼女のものとなる。


 この家も、もしかしたら既に彼女の影が入り込んでいるのかもしれない。


 だが、仮にそうだとしても、絶対に彼女は俺とリリベルに直接被害を与えたりはしない。

 それは世界が変わる前から、変わらない。


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