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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第4章 月が墜ちる日
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エルフとオーク

 この場の誰1人として今の姿のままオークの国に入って、彼らに疑問を抱かれずに済む者はいない。

 だから見た目を完全にオークと同じように変装できる手段が見つからない限り、侵入しないようリリベルに進言する。


「そのためにエリスロースをここまで呼んだのさ、ヒューゴ君。オークを1人でも彼女の『魔女の呪い』にかければ、後は好き放題できるさ」

「そう上手くいくか?ああ上手くいくだろうか?」

「君がどれだけのオークを味方につけられるかにかかっているんだよ、エリスロース君」


 ふふんと鼻を鳴らして自慢気に顔を上向くリリベルに、岩陰から出ないように注意する。この荒れた大地では金髪は目立つ。


 実は俺たちの目的地はオークの国ではなく、谷より更に深く下にある遺跡に用がある。

 元々ここには遺跡があるだけだったのだが、いつの間にかオークが町を作り、国と化してしまった。それを知らずに遺跡に入り込んだ調査隊の調査結果は、言わずもがなである。

 どこだかの国が遺跡調査をしたいがために、ここに戦争をけしかけたこともあるが、谷という攻めにくい地形のせいで攻め落とすことまではできなかったそうだ。

 それどころか、仲間を殺された恨みを晴らすべく、戦争をけしかけた国を襲いその国は滅びかけたとも聞く。


 オークたちにとっては、たまたま移り住んだ地がこの谷だったというだけであって、遺跡に興味の無い彼らにとってはただ理由も無く襲われただけと捉えているのかもしれない。




 話を戻して、遺跡に何の用があるのか簡単に話すと、そこに封印されているドラゴンを起こして、近付いてくる月を押し戻してもらおうという目的がある。

 依頼をしたのは先程話したオークたちに滅びかけさせられた国、ノストーラからだ。

 滅びかけさせられたせいで、ドラゴンと交渉できる者がいなくなってしまい、近隣の国にも協力を仰いだが、漏れなくオークたちの反撃に遭ったそうだ。

 冠付きの魔女も協力のために何人かこの地にやってきたそうだが、今も月が近付き続けていることを考えると誰も無事では無いのだろう。


 リリベルの話によるとどうやら定期的に月がこの地に落ちようとするらしい。

 定期的と言っても、人間の生ではおおよそ巡り合うことは稀とされているぐらいの時間で起こるようだ。

 リリベルがさも知っているかのように話してくれたが、他人に聞いた話を披露しているだけであって、彼女もこの現象を見るのは初めてである。想像だが、俺の前で格好をつけたくて知ったような口で俺に説明するのだと思う。


 魔女業界では、こういった天変地異系の出来事を良く経験するのか分からないが、2人はまるで焦った様子を見せない。

 俺は話がぶっ飛びすぎて全くついていけていないが、空に広がる月の異様な姿を見ると、遺跡にドラゴンがいて月を戻してくれるというおとぎ話も信じざるを得ない。


「雷を降らせられるなら、雨も降らせられないのか?」


 エリスロースが口から血を垂らすと、血は自立して動き始めてオークの谷へ向かって行った。

 彼女は水分と相性が良く、雨が降ったなら流れる水に乗って移動することが可能だと言う。


 緑色のリリベルは「今から魔法を作ればできるけれど、それまで待てるかい?」と返すが、エリスロースは待つのは性に合わないようで、にべもなく断った。




 陽の光は、今身を隠している岩以外に遮ってくれるものがなく、それ以外は容赦ない光が大地に突き刺さる。ともなれば、この辺りは暑く汗も自然と吹き出してくる。


 リリベルは額から垂らす汗を時折拭う仕草を見せて、俺に匂いがするかどうか聞いてくる。

 ここに来るまでにろくに湯浴みもしていないのだから、皆多少の匂いはする。良い匂いではない。

 だから、彼女が聞いてくる度に正直に臭いと伝えると、彼女はショックを受けて俺から距離をとろうとするので、その度に岩から出ないように彼女を引き寄せる。

 そのやり取りが少しだけ楽しい。


 ちなみにエリスロースは色々な意味でげんなりとしている。




「しかし、地上に見張りも置かずにどうやって敵の襲来を確認しているのだろうか」


 どうやらエリスロースの血が、谷の入口まで近付いたらしい。

 隠れている岩場からは遠くて血は見えないが、彼女はそのまま谷の下へ血を潜り込ませたと言う。


「もしかしたら谷以外に穴があって、そこから見張っているのかもしれないね」


 リリベルが呑気に思いついたことを言う。

 そうだとしたら俺たちのいる場所は危ういのではないかと思って、周囲を警戒しようとしたその時だった。

 俺の視界の端に剣先が現れ、「動くな、声を出すな」という女の声が後ろから聞こえた。


 まさかここまで早く見つかるとは思わなかった。

 既に嫌な予感がしている。この後のことは想像したくない。

 もしリリベルが捕まったなら、死なない彼女は誰も助けが来ないオークの国で永遠を過ごす羽目になるのだろう。他種族を忌み嫌うオークにとって、死なない嫌な彼女は、格好の憂さ晴らしの的になる。


 一か八かで黒鎧に身を纏って、オークたちと戦うしかない。

 そう思って詠唱をしようとしたら、今度は男の声が後ろから聞こえた。


「お久し振りです。魔女様、ヒューゴさん」


 ひそひそと周囲を気遣うような声で話しかけてきた男は、俺たちを知っているような口振りだったので、敵ではないと判断してゆっくりと振り返った。


「なんだ、見覚えがあると思ったらお前たちか」


 声をかけてきた女も男も見たことのある者だった。

 女の方はエルフの魔法剣士シェンナで、男の方は荷物持ちオークのダナだった。






 エリスロースが血を操っている間に、なぜダナとシェンナがここにいるのか話すことになった。

 2人は以前、賢者の石を探すため遺跡を探索した時に共に行動した探索隊メンバーだ。


 ダナは浅黒い肌に大きな体をもち、頭に1本の角を生やしている。

 厳つい見た目の割には、物腰やわらかく内気な性格で戦闘は好まない。


 シェンナは真っ白な肌に金色の髪色を持つ。耳は少し尖っており、顔立ちは整っている。

 華奢な体つきをしているが、魔法と剣の腕は相当に立つ。


 2人はノストーラとは別の国から依頼を受けており、オークであるダナなら簡単に遺跡まで潜り込めるのではないかという見立てで選ばれたらしい。

 排他的と言われるオークだが、彼は噂に聞くオークとは真反対の存在だ。

 ダナと会ったからこそ、最初はオークと聞いて悪いイメージが浮かばなかったぐらいだ。


 リリベルはダナの肌を見て、オークが緑色でないことに焦って自分の肌についた緑色を恥ずかしそうに落としていた。

 ダナはオークも環境によって肌の色が変わると彼女に解説した。

 森が多くあるところなら肌が緑色で、雪山だったら青白くなり、荒野地帯なら浅黒い色になると彼は言う。


「ダナはともかく、シェンナはなぜここに? たまたまダナの護衛になったのか?」


 俺の問いにシェンナは、きょとんした表情をしてから返す。


「あれ、言わなかったかい? 私とこれは夫婦だよ」


 シェンナは座るダナの肩に寄りかかって、鞘に収めた剣でダナを指した。

 初耳である。


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