七不思議とは2
学校を知らない俺にとっては、そういうものなのかと思えるものなのだが、学校の子どもたちの間で流行っていることの1つとして、七不思議というものがある。
それは、学校にいたずらをしないための戒めとして、大人たちが生み出した嘘話なのではないかと噂されている。
この学校だけでなく、他の学校でも同じように七不思議というものが存在するようで、珍しい話ではないらしい。
ラルフ先生とホプズコット先生は、その手のオカルト話に興味を持つタイプで詳しかった。
教職室で、宝の地図を眺めていると、2人は既に熟知しているようで、色々と教えてくれた。
「夜中に2階1番奥の講堂にある大鏡の前に立つと、鏡に映った自分が勝手に動き始めるという噂もありますよ」
「他には、魚人専用の礼拝堂に出てくる、非業の死を遂げた魚人の幽霊話とか――」
「ああああああ!!」
「うわっ!? 何ですか?」
「気にしないでくれ。彼女は幽霊がこわ――」
幽霊話を聞きそうになったリリベルが、声を上げて耳を叩いて聞かないようにしていた。
彼女がどういう理由で叫び始めたのかを先生たちに伝えようとしたら、何もかも聞こえてしまっていたリリベルに手で口を塞がれる。
鼻も押さえられていたから、危うく呼吸が止まるところだったが、何とか彼女の手を振り払って事なきを得た。
「ゔゔー」
可愛らしい獣の唸り声による威嚇に牽制されて、それ以上言葉を続けることはできなかったが、周りの先生からは最早言い訳はできないだろう。
怯えるリリベルのために、休憩がてらにラルフ先生とホプズコット先生を外に連れ出した。
大きな学舎の裏手には大きな庭がある。手入れは俺もやっている。
その広さ故にどの季節でも、落ち葉落ち花の掃除に手を焼くことになる。
冬暮れの今となっては落葉も少ないが、代わりに仄かに雪化粧で彩られている。
大きな池に沿って作られた散歩道には、魚人の生徒も休憩がてらに泳いでいる。
彼等が手を振ってきたら、手を振り返しながら話を戻した。
「それで、七不思議についてもう少し詳しく聞かせてもらえませんか?」
「ええ、勿論ですよ。他には、あそこに石像があるでしょう? アレが動くらしいのですよ」
「後、図書室に夜な夜な現れるマントを羽織った白ヒゲの――」
「ああ、俺が聞きたいのはこの宝の地図のことで……」
懐から地図を取り出そうとする前に、彼等の方から宝の地図を見せてきた。
「そうですね。今、最も熱い話題は、この宝の地図かもしれませんね! 何と言ってもこれは、つい最近新たに我が校に加わった七不思議なんですよ」
新たに加わった七不思議ということは、今までは六不思議だったのでは、という質問は野暮なのだろうか。
「少し気になったというだけの話なのですが、この学校に地下がないたいうことは本当なのですか?」
「ええ、ヒューゴさんのおっしゃる通りです。この学校に地下はありません」
「ただ、この地図に描かれている学舎の図はとても正確です。これだけ正確に描いておきながら、ない地下をこうも細かく描いている。地図すべてを眉唾として飲み込むには無理があると思います」
なるほど。
誰が描いたのかは分からないが、誰かが冗談で描いたとしても、凝りすぎている。
これが本当に宝の地図だと皆に信じさせるのに、正確無比な校内の図は一種の信用性の担保になっている訳だ。
「地図には、1階東講堂の教壇に地下に続く道があるかのように描かれていますが、何か仕掛けがあるかのようには見えないんですよね」
「黄衣の魔女に調べさせてみるか。地下に続く道が魔法による仕掛けを施されているのなら、彼女は簡単に見つけると思う」
もう懐かしさを感じるが、賢者の石を求めて遺跡を探険した際のことを思い出した。
魔法による罠を見破るリリベルであれば、もしかしたら地下へ続く道を見つけ出せるかもしれない。
ただ、今すぐ彼女に頼み込むつもりはない。
気まぐれで宝の地図のことが気になっただけで、宝が欲しいとも思っていないし、七不思議の謎を解き明かしたい訳でもない。
ましてや、地下への道を見つけ出してしまい、子どもたちが宝探しに奔走し始めて、怪我でもさせたら大変だ。
傷を治すことはできても、怪我をさせたこと自体が知られてしまったら問題になるだろう。
学校にもリリベルにも迷惑をかけたくはない。それぐらいの気遣いは俺にだってできる。




