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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第24章 アスコルト一家、学校に行く
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七不思議とは

「ねえねえ、ヒューゴさんは奥さんとチューしたことあるの?」


 俺とリリベルが夫婦であることを知った生徒たちが、たまに質問してくる。

 主に女子たちから聞かれる。

 正直にしたことがあると答えると、謎に騒ぎ出して彼女たちの世界が始まってしまう。

 あらぬ妄想をする者もいれば、更に俺たちの仲を確かめようとする者もいる。


 最初はそんなことを聞いてどうするのかと思ったが、それが彼女たちにとっての遊びの1つだとアンタリアから教えてもらってからは、怪しむこともなくなった。


 アンタリア先生は、算学を担当している。

 数字は商人にとって、最も密接で切っても切れない学問だ。

 ただ、数の数え方を教えているだけでなく、その土地の経済状況に応じた物の値段のつけ方や、必要経費の考え方も教えてくれる。


 文字の読み書きや基本的な数の数え方くらいは、リリベルから教わっているが、個人的には学びたい学問であった。

 リリベルのお陰で、お金を気にして生きる生活ではなくなっているが、それが彼女に甘えて生きているように感じられて、後ろめたさがあった。


 だから、リリベルに内緒でこっそりとアンタリアの授業を聞いている。

 勿論、堂々と教室で授業を聞いてしまえば、『私以外の者から知識を得ているなんて』とリリベルの凄まじい怒りを買うことになるので、廊下や外の庭を掃除している(てい)で、こっそり彼の話を聞き学んでいる。

 今が正にそうである。


 そんな中、別の授業を待っている子どもたちが、遊びがてら聞いてきたという訳だ。


「えー、どうやってしてるの?」

「こんな感じ?」


 彼女たちは荒ぶる身振り手振りで、キスの様を演じる。どう考えてもキスをする動きではない。

 正直に訂正するべきなのか、受け流すように相槌を打てば良いのか分からない。

 迷った結果訂正すると、彼女たちの追撃が来る。


「じゃあどうやってしてるのー?」

「ねえねえ、やってみてよー」


 1人でリリベルとキスをする時の動きをしろと?

 何の拷問なのだこれは。


 だが、応えるのに手間取る間にも、アンタリア先生の授業は進んでしまう。


「見せてくれたら、お宝の地図を先生にあげるから」

「ねーお願い!」

「分かった分かった……えーと……こう、こんな感じだ」


 目の前にリリベルがいると想像して、空気に向かって抱いてキスをする。

 すると、女子はきゃあきゃあと声を上げて、頬に手を当て喜び始めた。こっちは死ぬ程顔が熱い。


 満足した彼女たちは、足早に向こうへ駆けて行った。


「危ないから走るんじゃないぞー」

「先生、はいこれ!」

「何だこれ?」

「お宝の地図! 男子にもらったんだけれど、意味が分かんないからヒューゴ先生にあげるー」


「こんなのもらったって、全然嬉しくないからあげるー」と彼女は言い残して、押し付けるように古びた紙を渡して、先に行った友だちの後を追いかけて行く。


 その男子がどんな思いで彼女に宝の地図を渡したのか、男心を加えて想像すると、少し悲しい気持ちになった。

 冷静に考えれば、確かに女の子には興味が湧き辛い代物だろう。


 とにかく、今は宝の地図のことは忘れて、アンタリア先生の授業の続きを聞こう。

 そう思いつつ、掃除する振りをしながら扉に近付こうとしたその時に、扉が無造作に開いた。


「おや、ヒューゴさん。お疲れ様です」

「え、ああ、お疲れ様、です」

「掃除の最中でしたか」

「はははっ、そんな所です」


 何と、アンタリアの授業が聞き途中で終わってしまった。

 良い所だったというのに、とても残念だ。


「おや、その紙は何でしょうか?」

「え? ああ、先程子どもたちから貰った物なんです。宝の地図とか何とかって」

「ハハハッ、ヒューゴさんも貰ったのですね。最近、子どもたちの間で流行っている遊びですよ」


 地図を広げて彼に見せると、彼は興味深そうに地図を見た。

 広げた紙は大した大きさではなく、両掌(りょうしょう)が収まる程度の大きさである。


「子どもたちも頑張りましたね。校内の地図が事細かに描かれていますから」


 彼の感嘆が気になって、俺も一緒に地図を覗いた。

 学舎の階ごとに分けて地図が描かれており、どこに扉の出入り口があるか、階段があるか等が描かれていた。

 地図の端々に、子どもらしい雑な文字列で繋がれた文章が記述されている。


 宝までの道のりに関する記述だったり、その途中途中に謎解きでもあるのか、謎を解くためのヒントとなりそうな記述がある。


「流行っているって言っていましたが、宝に辿り着いた子どもはまだいないんですか?」

「ハハッ、いる訳ないですよ」

「それはなぜ?」

「この学校に地下はありませんから」


 そう言って彼は、地図を俺に返して、休憩のために教職室に戻って行った。

 改めて見返した地図の半分は、地下を指し示す図であり、本当に存在する教室や廊下と同じように、事細かに記述されていた。


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