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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第24章 アスコルト一家、学校に行く
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勉学とは2

 7日後、俺はリリベルとネリネと共に学校へ赴いた。

 初めて行く学校は、何もかもが新鮮に映った。


 フィズレという国は、ほとんどが人間だ。

 商売人という性質を好む種族は、人間だけではないのだが、やはり人間が多いと人間の意志が介在しやすくなる。


 ただ、この学校については、種族の枠にとらわれることはない。

 竜人(リザードマン)に、ゴブリン、魚人(サハギン)と様々な種族が1つの建物に向かっている。誰も、自分とは異なる姿の者に奇異な視線を浴びせることはしない。


 だが、そんな中でも俺たちは目立った。

 リリベルの黄色のマントだ。そもそも黄色の衣類を羽織る者など誰1人いない。


 商人の街なだけあって金はある。

 敷地は広く、整備は行き届いている。同じような衣装を着ている者がちらほらと見られるのは、学校支給の制服を着ているからであろう。

 着る着ないは自由だが、恐らく着ている方が金に余裕のある家庭の子だということが推測できる。


 建物は横に広い。

 光を取り込むために取り付けられた数え切れない程の窓が、チョコレート菓子のように見えてしまう。


 その建物を横目に俺たちは奥へ進んで行く。


黄衣(おうえ)の魔女ですな、ロベリア教授からお話は伺っております」


 明らかに色で判断されたことは分かる。待ち合わせに彼女のマントは便利で良い。


「君がネリネさんだね。ラルフ先生、彼女を案内してあげてください」

「はいはい。ではネリネさん、こちらに」


 ラルフと呼ばれた男は、ネリネを手招きして彼女を校舎の方へ案内していった。


 てっきり俺たちもラルフに連れて行かれるのかと思ったが、どうやら用向きが異なるらしい。


「私はアンタリアと申します。これから、教職室へご案内します」


 リリベルは自然に彼の背を追い始めて、俺も後をついて行く。

 そのついでにリリベルに耳打ちして質問を行った。


「リリベル、一体俺たちは何の用でここに来たんだ?」

「あれ、言ってなかったかな?」

「全く」

「黄衣の魔女には、臨時で教壇に立っていただくつもりです」


 話が聞こえていたアンタリアから出てきた言葉は、驚くべきことだった。

 リリベルが先生?


「じゃ、じゃあ俺は?」

「ヒューゴさんは、黄衣の魔女の補助とその他の雑務を執り行っていただきたい」

「雑務とは一体」

「ああ、構えなくても大丈夫です。ここの敷地を掃除してもらうぐらいですから」


 全く話が読めない。

 なぜリリベルが急に先生をやることになったのか、なぜ俺もその手伝いをすることになったのか。


 考えている間にことはどんどん進んでいった。

 教職室で他の先生と挨拶を交わし、身だしなみを整える意味を込めて教職用の制服に着替えた。

 準備が整うとリリベルに連れられるまま、校舎の長い廊下を渡って、1つの教室に入った。


 たくさんの視線が一斉に集まった。

 ほとんどは若い人間だが、時折大人や老人も見られる。

 階段状で半円状の机が並べられていて、そこにひしめくように生徒が座っていた。

 椅子が全て埋まっているのか、後ろの方で立ち見をしている者もいる。


「おお、黄衣の魔女様、お待ちしておりましたよ。もう話すことがなくて困っていたところです」


 先に教壇に立っていた男が、リリベルの姿を見ると嬉しそうに寄って来て、握手を求める。

 リリベルは自慢げに握手に応じて、彼に「後は任せなさい」と言い、教壇の上に立った。


 背の低いリリベルが教壇に立つと、こじんまりとして見えてしまう。

 黄色のマントを気にしなければ、どう考えても生徒にしか見えない。


「やあやあ、皆さん元気かな。私が黄衣の魔女です」


 まるで舞台に立つ女優のように派手な身振りは、観客を湧かせた。

 リリベルと代わった先生は、神を崇めるかのように膝を突き両手を合わせて拝んでいた。


 何だこれ。






「つまり、気が向いたらで良いから先生をやって欲しいと頼まれたのだよ」


 授業を終えて教職室に戻ってから、やっと状況を説明してくれた。


「ええ、私が彼女に駄目元で頼んでみました。引き受けてくださって嬉しい限りです」


 学長のケリーは嬉しそうにリリベルを眺めて手を揉んでいた。

 手紙を読むのを面倒臭がり、普段は俺に読ませて、必要な情報だけをリリベルに伝える習慣があった。

 それなのに、今回に限って、リリベルは手紙を自ら受け取って読んでいた。

 ネリネに入学の許可が降りた手紙を受け取った時に同封されていたのだろう。


 彼女の胸元から出てきた1枚の紙を渡されて読んでみると、確かにケリー学長のサインが入った文章が書かれていた。


「魔法学の授業には、より専門的な知識を持つ魔女にやってもらいたかったのです。彼女は他の魔女と違って、優しい魔女とお聞きしましたもので」


 ありがたい話ではあるが、手紙だけのやり取りで、良く学長もリリベルを受け入れようとしたものだ。

 重要な話なのだから、1度実際に出会って、良く話し合って決めるものだと思っている。その段階は見事にすっ飛ばされている。

 彼女は確かに優しい魔女ではあるが、実際に会ってみなければ、彼女が先生としての適性があるのか判断のつけようがない。


 それに、先程の授業だって、学長に報告していないサプライズ授業だった。今になってそれが分かって冷や汗をかいたが、学長がサプライズ好きな性格のおかげで、事なきを得た。


 リリベルは本能のままに動く自由な魔女だが、ケリー学長も大概自由だ。


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