振動世界14
ヴォルミルを殺して、オルラヤ君とクロウモリ君がそろそろとやって来た。
私とヴォルミルの戦いはそれなりの被害を出したはずだけれど、ようやく落ち着いて辺りを見回してみたら、舌をせっせと集め続ける男がまだいた。
自分の身よりも舌の方がよっぽど大事みたい。
ヒューゴ君をガラクタから取り出して、オルラヤ君の前に連れ出す。
彼は気絶していたので、代わりに私が彼の口をこじ開けて、彼女に私とヒューゴ君が舌を切り取られたことを示して治してもらった。
「君がいて助かったよ。危うく一生このまま2人であうあう言うだけの存在になるかと思ったね」
「借りがあると感じたのなら、この不便な呪いをもう少し便利にして欲しいですねー」
「それは無理かな」
舌をぐりぐり回してみて、可動に問題がないことを確かめた。
さすが白衣の魔女だ。切り取られる前と同じ動作ができるなんて思わなかったよ。
会話ができるようになって、怪しい清掃員について言及すると、驚くべきことにオルラヤ君の方で対処してくれたことが分かった。
彼は舌だらけの魔女に心を奪われているみたいで、幾ら説得しても話は通じない。魔女自体はオルラヤ君がやっつけてくれたみたい。
既に夜に解き放たれている鋏を除けば、この街で舌が切り取られることはなくなったと彼女は自慢げに語った。
「そこの黒焦げの魔女と同じく、冠も持たない魔女の卵でした」
「魔女の卵にしては、やけに魔法の扱いに長けていた気がするのだけれど、そちらも同じ印象だったのかな?」
「ええ、きちんと魔法の研鑽を積んでいれば、私の白衣が奪われていたかもしれない程、強かったですねー」
「誰かが入れ知恵をした?」
「付け焼き刃だったのは、それ以上その人から学ぶ機会を得られなかったからですか?」
「ふふん、あり得るね」
「陰謀論ではないでしょうか?」
「ヒューゴ君はどう思うかい?」
「リリベルに賛成だ」
「僕はオルラヤさんに賛成です」
2対2。
この話は、これ以上の進展はなさそうだった。
街はいずれ勝手に直っていくと思う。
けれど、舌を切られた人間たちは治らない。
オルラヤ君はそんな人間たちを治したいと言い始めた。
だから、しばらく貧民街で私たちも過ごすことになった。
オルラヤ君と距離が離れていても、魔力さえ途切れることがなければ、何の問題もないのだけれど、万が一その魔力が途切れてしまったら彼女は無防備になってしまう。
クロウモリ君とヒューゴ君にせがまれて、彼女の近くにいざるを得なかった。
その状況が数日経った。
オルラヤ君とクロウモリ君が人間たちを集めてせっせと舌を治す様子を、ヒューゴ君と一緒に眺めていた。
彼の身体に収まっていれば、鼻水が垂れることはない。
「魔女の卵たちの狙いが、リリベルやオルラヤだとするなら、心当たりがある」
「急にどうしたのかな」
「考えてみたんだ」
ヒューゴ君の温かな手が私の頬を撫でると、居心地が良くてすぐに眠気がやって来てしまう。
私は眠らないように舌を噛んで、彼の会話に応えた。
「ヴォルミルはリリベルを最初から狙っていて、舌を切られても戦い続けることができた」
「オルラヤが言うに、舌を切り取る魔女の目的は最強の魔女になることらしいが、それにしてはやることが地道すぎる」
「舌に宿る魔力が欲しいなら、もっと適した場所があるはずだ」
「だから、2人がこの街に居合わせたのは偶然ではなく必然なのではないか」
その魔女たちをけしかけた黒幕は、最初から私たちが狙いで、偶然を装ってそうさせた。彼はそう言いたいみたい。
「知識を与えた奴は、相当な魔法の知識を持っている。リリベルたちの界隈では有名な奴かもしれない」
「私たちを殺したい魔女なんてたくさんいるよ?」
「だが、自分が研究した魔法を自分で使わず、自分で手を下さずに、狡猾にことを運ぼうとする魔女は、俺は1人しか知らない」
彼の口からどのような答えが出てくるのか、待ち遠しかった。
物語が佳境に差し掛かって、次の頁をめくるのが楽しみな状況に物凄く似ている。
おかげで眠気は少し去った。
「そして、その狡猾な魔女の弟子で、俺たちを猛烈に殺したがっている魔女を、俺は1人しか知らない」
「ラルルカだ」




