終わりよければ全て良し
列車から落ちた砂衣の魔女が、点になってやがて消えていくのを見届けていると、列車の屋根から飛び降りてきた緋衣の魔女が、赤いマントをひらひらとたなびかせて近寄って来る。
見た目は俺が最後に見た彼女とは違う。
祭りで俺に大量の金が入った袋を渡してきた女ではなく、身なりの良い黒い衣装を着ている。そもそも髪の毛の色も違うし、顔もいくらか苦労してきたかのような皺が見られる。
「不意打ちとはいえ、あいつに一撃を与えられるとは思わなかった。本当に興味深いなお前」
まるでリリベルみたいに俺を褒め始めた彼女は、俺に早足で近付いて来る。
そんな彼女に対してリリベルは、俺から素早く立ち上がり彼女の前に立ちはだかる。
「せっかく助かった命をここで絶やしたくはないだろう?」
俺も身体に緋衣の魔女の血を流し込まれてまた吐きたくないので、立ち上がって彼女と距離をとる。
そんなことよりも彼女がなぜこの場所にいるのか聞いてみた。
彼女は、砂衣の魔女に町を滅ぼされて追われる身となった。理由は身に覚えのないものらしく、泥衣の魔女と魔人微睡む者に黒衣の魔女の魅力を伝えて、世界を破滅に追いやろうとした罪で魔女狩りの対象となっていたからだ。
彼女は知り合いであるリリベルを頼りたくて、彼女が魔法に関する依頼を受けているという噂を耳にして、南下して来たのだと言う。
そこでたまたま列車に轢かれて、こんなことになったという訳だ。
リリベルが推測するに、緋衣の魔女と知り合いである彼女に手紙を送って、彼女を尾行することで緋衣の魔女といずれ会えるのではと企んでいたのではないか。
赤いマントを羽織っている緋衣の魔女以外は、列車の屋根から降りてそれぞれの部屋に戻っていった。
屋根の上にいた従者たちは、緋衣の魔女が死ぬ度に、新たな緋衣の魔女となるためのストックだったようだ。
俺が砂衣の魔女へ飛び出す前に木箱の後ろに隠れていたコルトがすごすごと現れてきた。
「あの、一体これは……」
コルトだけは緋衣の魔女の血の呪いにかかっていなかった素の人間なのだ。
彼には、緋衣の魔女については黙っていてもらうことにした。彼女は単純に危険な魔女であるし、列車に招待されていない者が乗っていたとなれば、ややこしいことになる。
彼が血の呪いにかかっていないのはなぜだろうかと、考えていたらふと以前に緋衣の魔女と相対した時のことを思い出した。
彼女は『町人の健やかに生きたい』という願いを叶えたくて、血に混じることができた。
そう考えると、彼は復讐のために生きていたのだから、復讐を果たした後死んでも良かったと思っていたのではないか。
健やかに生きたいと思っていないから、緋衣の魔女の血を受け付けなかったのだろう。
何にせよ、多分これで事件は解決した。
俺とリリベルは、すっかり疲れて眠くなってしまったため、部屋に戻ってゆっくり眠ることになった。
隣の部屋で死人が出たというのに、あっさり眠ることができてしまって自分でも驚いた。
緋衣の魔女は、そのまま従者になりすますことになった。




