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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第23章 絶対振動
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振動世界13

 この剣を出し続けていると皆が嫌な顔をするのは、常に私好みのつんざき音が出るからだろうね。


 でも、この音が出続けている限り、雷は私の手にあり続けている。


 ヴォルミルが振動で雷を細かく分断しようとするけれど、私はそれを剣の形になるように押し込め続けている。

 拡散し切ることができなくなったヴォルミルの脇腹に、雷がほんの少しだけ触れた。


 即座に身体中に、押し固めていた雷が解き放たれる。電撃が身体中を巡り、肌の色は所々で変色して眼球や口から煙が吹き上がる。

 体の内側から丸焦げになった彼女は、振動を止めてバタンと倒れ込んでしまう。


 でも、ここからが彼女のすごいところだった。


 ヴォルミルを殺したと油断した私に、振動を当ててきた。


 止まった心臓を振動によって無理矢理立ち上がり、私に魔法を唱え直したみたい。私がもしヴォルミルだったら、死なないためにそうするっていう想像はできたから、物凄く驚くとはなかったけれど、でも人間並みには驚いたよ。

 焼けた脳味噌のおかげで考えることもできなくなった彼女は、私と戦う理由を思い出せないくらい眼球を動かさなくて、まるで死んだ魚の目、というか死んだ魔女の目をしていた。


 これが彼女の最後っ屁か、逆転の一手となるかは、次の私の動き次第だね。

 右手に起きた変化を確認してから、羽織っていたマントを解かず、引き千切るみたいに脱いで、それを杖に巻きつけて上に放り投げた。


 当然、杖のない私は雷をまともに放つことができなくなってしまうけれど、彼女の命を懸けた振動には、私も大胆な行動を取らざるを得ないかな。


 指先から腕に向かって、徐々に身体が物凄く細かい粒となって崩れていくのだもの。


 地面が一定の地点まで塵になる。

 空気中にある何かが振動によって分解されているようで、何もない所から塵がぽろぽろと落ちていた。

 朝日の光が塵に差して反射してキラキラ光ることもなかった。そもそも光がある地点で綺麗に留まっているのだもの。

 だから、彼女の魔法の範囲の中にいる私の視界は光があっちへ行ったまま帰ってこないんだ。


 彼女の最大限の振動が、世界の在り方を分解してしまう。

 一定の範囲でだけれど、世界全部が振動している。


 当然だけれど、その範囲内にいる私は、私が私であるための全てが砂粒よりも小さな粒に分解されてしまった。




 でも、それだけさ。




 私が不死でなければ、身体を破壊する振動の魔法は確かに有効的だったと思う。可哀想だね。


 次に瞬きをした時には、私は元に戻っていて……いや、まあ服までは元に戻らないね。


 ヴォルミルは、欲していた黄色のマントが空に上がっていくのを、死んだ目で追っていた。マントに夢中で私が生き返ったことを気にかけていなかったし、切り札の詠唱が止まっていることに気付いてはいなかった。

 それが再び杖の自重と共に落ちて来て、私が掴むまで、彼女は震えた手を伸ばして目で追うだけだった。

 彼女には足を1歩前に出す元気も、もう残っていないみたい。


 黄色のマントを手に取った所で、君に救いはないのに、何でこんなものに執着しているのだろうね。

 自己満足を満たしたくて満たしたくて仕方がない私たちは、どの生物よりも死と老いを恐れている。

 だから、決闘を行う魔女は、戦いに負けて魔女としての地位を失ったとしても、命は落とさないように対策を立てる者が大半なのだ。


 エリスロースだって、魔力を宿らせた血を拡散させて、自分が完全に死ぬことがないように保険をかけていたからね。


 だから、ヴォルミル君。魔女として生きていくには、どうも君には狡猾さに欠けるみたいだね。




 それとも、君は誰かに私を襲うように唆されたのかな。




『!!!』

『ん』




 かざした杖は、彼女の眼前。

 雷を分裂させる振動には遥か遠くて、全てが彼女を貫いた。


 近距離で撃つ『瞬雷(しゅんらい)』は、彼女を炭へと変化させた。

 振動させる心臓がなければ、さしもの振動の魔法も形無しだろうね。



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