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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第23章 絶対振動
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振動世界12

 ◆◆◆



「リリベルさん!!」


 清掃員に近付く途中で、クロウモリ君が私の名を呼んだ。

 彼は最初、槍投げでもするみたいに私の杖を構えていたけれど、考え直して下からそっと私に投げた。


 彼の腕力で杖を投げたら、私が串刺しになると思ったのかもね。

 彼との距離は大分離れているけれど、下投げでも私の手元に余裕を持って飛んできた。


 そうそう。この手に馴染む感じが、この杖の良いところだね。


「一刻も早くそんな杖、手放したかったです!!」


 なんてことを大声で叫ぶんだ。格好良いでしょう、この杖。


 なんて言ったってこの杖を持っていれば私は、ヒューゴ君に格好良い姿を見せられる強い魔女になれるのだ。魔法の杖さ。

 魔力感知だってお手の物。魔女の気配だって簡単に分かってしまう。


 地割れの下にいるヴォルミルが、今まさに振動を起こしていることだって分かった。

 まあ、こんな大きな揺れなら、感知する必要もなく別の感覚で分かってしまうけれどもね。


 彼女は、地面に新たな裂け目を作り出して、周囲の物を手当たり次第に裂け目の下に飲み込もうとした。

 このままだとヒューゴ君がまた崖の下に落ちてしまいそうだったから、彼の身体が軽々と持ち上げられるくらいの魔法を私自身に唱えた。


 別に舌がなくても、詠唱はできる。

 轡を噛まされても詠唱ができるように、魔法を研究してきたからね。

 それが意外と役に立つのだから、研究しておいて良かったって思う。

 言葉は何で良くて、それが紙なり頭の中で用意した魔法陣と、一致していて、使用に足る魔力量があれば、魔法は唱えられるのだ。


 当然、戦いにおいては口に出す詠唱は短ければ短い程良い。

 剣士であろうと魔法使いであろうと、熟練した者は僅かな時間で戦う相手を仕留めたがるからね。

 でも魔女は、最近の若い子たちを除いて、自分の魔法がどれだけすごいかを相手に理解させるために、理解するための時間を用意してくれる魔女が多いと思う。

 わざわざ長い言葉を使って詠唱するのは、自分のすごさをアピールする時間にもなる。


 私だって、味気ないひと文字の詠唱は好まないけれど、ひと文字で魔法を成し遂げないといけない機会がたくさんあったから、致し方ないことだね。




 ヴォルミルが地割れから姿を現した。

 彼女自身が小刻みに震えていて、ブレて顔色すら見えなかった。貧乏揺すりここに極まれりかな。


 地上に到達すると震えが止まって、間近にいるヒューゴ君を見てすぐに彼に足を落とした。




『あ!!』

『ん!!』


 舌がないもの同士で唱える魔法は、きっと傍から見れば滑稽な光景に見えるだろうね。

 でも、私は本気でヒューゴ君を助けたい。


 私の肉体が『身体が引き裂けます』と痛みを使って訴えてきても、彼の元に走る。

 ヴォルミルの振動がヒューゴ君に到達する前に、自分で撃ち放った雷よりも速く彼に到着する。

 到着して、両足が使えなくなって、それでも勢いを落としたくないから地面を滑らせて、彼の服を摘んで片手でどこかに放り投げる。

 ヒューゴ君の身体を腕1本で投げ飛ばせる程の筋肉と骨を持たない私の腕は、彼を投げた瞬間に色々裂けて動かなくなってしまう。


 残りは杖を持つ左腕だけが頼りになってしまう。


 ほんの一瞬だけれど、少し遅れて直進する雷がヴォルミルを包んだ。

 でも彼女の身体を貫く寸前で、1つの雷がヴォルミルを避けるように分裂してしまった。

 あちこちに飛来していく雷は、家々に直撃して粉々に破壊する。家を壊された人間は可哀想だね。同情するよ。


『ん』


 多分、1番遅れて聞こえてきた何かにぶつかる音は、ヒューゴ君が飛ばされ終わった音だと思う。

 その間に2つ目の雷をヴォルミルに放っている。


 彼女は雷を振動させて自分に当たらないように制御している。

 その制御に全神経を集中させているから、私の視界は振動させられずに済んでいる。


 同時にいくつもの魔法を使うことができない時点で、彼女は大した魔女ではない。できるなら口に出して言ってやりたかったね。


『ん』


 雷と雷の合間に私は思いっ切り首を回した。

 絶対に回らない角度まで首を回せば、すぐに死ぬんじゃないかなって思ってやってみた。

 結果は大成功だよ。筋力強化された首は、私の元の耐久性を無視して首を引き千切らせてくれた。


 ヒューゴ君が私の今の死に方を見ていたらきっと怒るけれど、よくよく考えてみたら彼に怒られるのは嫌ではない。むしろ、好きかもしれない。

 褒められるのも怒られるのも、私にとっては良いことだって考えたら、無敵感に包まれていった。勿論、根拠のない無敵感だよ。


 ……何だか、段々考え方が馬鹿になっている気がする。


『ん』


 立ち上がって、より近くで雷を放つ。

 左腕で杖を持ちながら、右手で雷を剣の形にして留める。


 ここからは私と君との実力勝負だ。


 剣の形になるように魔力を制御している雷と、雷を迂回させるように魔力を制御している振動。

 私がヴォルミルにこの剣を振り放った時に、どちらの魔力制御が上かはっきりする。



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