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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第23章 絶対振動
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振動世界9

 その場で思いっ切り足踏みすると、地面を隆起させることができます。

 この力の良い所は意識しないと力を発揮しないことで、無意識に手を払って人に当たってしまっても、この地面みたいにはなりません。


 呪いをかけた魔女がそう説明してくれました。

 どんな時でも力を振りまけるような存在は、その魔女が目指す理想の動物にはなり得ないから、だそうです。


 隆起させた岩で来るかもしれない彼女の攻撃を防御しようと思ったのですが、防御は出来ませんでした。

 目に見える攻撃でなかったからです。


「皆さん! この杖を持った男の子が、舌切り騒ぎの犯人です!!」

「全部分かっ……た……??」


 僕は「一体何を言っているのですか?」と言いたかったのです。

 でも、実際に出てきた言葉は全く違う言葉でした。言い切る前に自分で自分が何を言っているのか、分からなくて僕は喋ることを止めてしまいました。


 そして、オルラヤさんを見てみると、彼女は口をパクパクとさせて混乱していました。やがて僕と目を合わせました。


「見た目に騙されてはいけません! この男の子のポケットにたくさんの舌があったんです!」

「そうです! 僕が犯人です!!!」


 否定するために隆起させた地面を手でどかして、皆に聞こえるように叫びました。


 本当は「僕は犯人じゃない!!」と言いたかったんです。

 でも、僕が言いたかったことを完全に否定してしまう言葉が、もう口から出てしまっていました。


 周囲の人たちは皆困惑しているかのようにざわめき始めました。


「あんな子どもがか?」

「そんな訳ないだろ」

「単に騒いで目立ちたいだけだろ」


 皆、僕と女がふざけているのだと思って信じませんでした。

 だから、安心しました。




 でも、すぐに安心できなくなりました。


 魔女はまたマントを広げて、僕だけに見えるように懐から鋏を取り出しました。

 そして、ゆっくりとじっくりと刃を開いてから、同じような速度で今度は刃を閉じました。

 刃が閉じ切られた直後、周囲の人集りの中から1つの悲鳴が聞こえました。

 悲鳴の周囲に人たちが皆驚いて後退りをして、悲鳴を上げた本人が、僕の位置からでも見えるようになりました。

 その人は口からたくさんの血を出していて、痛みで声を上げると同時に口から舌が零れ落ちたのです。


 舌を切られた人を見た人たちは一瞬だけ黙りましたが、魔女がわざと悲鳴を上げた瞬間に、皆が一斉に騒ぎ始め逃げ始めました。

 魔女からではなく、僕から逃げようとしていることは、逃げながらも振り返って僕の動きを確認しようとするたくさんの視線で分かりました。


 魔女はまた鋏を開いて閉じました。騒ぎ声の中から、目立って大きな叫び声がまた1つ出てきました。

 同時に清掃人が桶を持って、嬉しそうに舌を回収していく姿が見えました。


「お前、良い奴ですね」


 最低のクソ女に言いたかった言葉とは、真逆の言葉でした。

 舌切り魔女の攻撃が、僕とオルラヤさんの言葉を改変しているのだとは思いませんでした。


「は〜は〜は〜」


 わざとらしい笑顔を作って、僕を犯人にさせようと卑怯な手を使う魔女に、余計に腹が立ってきました。

 それと、魔女が騒ぎのどさくさに紛れてやることは、分かりきっていました。


白衣(はくえ)の魔女の舌を手に入れられたなら、もっと強くなれるなあ」


 逃げ惑う人たちの視線を気にする必要がなくなった魔女は、マントの下でチラ見せさせていた鋏を大手を振って取り出して、見せつけてきました。

 そして、刃を開き、わざとらしくゆっくりと閉じ始めようとしたので、僕は魔女に向かって殴りかかりました。


『火球』

『水球』


 1つの口から2つの言葉を同時に喋る気色悪い女は、僕の眼前に炎と水の塊を生み出しました。

 1箇所に同時に生み出された炎と水は互いにぶつかり合って、凄い量の煙を吹き出させました。


 殴りかかる体勢でも、簡単に動きを変えられるこの身体は便利です。

 火と水の塊に顔を突っ込んでしまわないように、避けることは出来ました。

 でも、1つの塊を維持していたはずの火と水は、突然破裂しました。

 破裂した勢いで空気が押し退けられて、それが衝撃となって身体に伝わってきます。


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