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弱くて愛しい騎士殿よ  作者: おときち
第23章 絶対振動
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振動世界6

「クロさん? どうかしました?」


『クロさん』という呼びかけの3回目で、それが僕のことを指していると言うことが分かりました。

 僕が返事をすると、彼女は笑顔で続けました。


黄衣(おうえ)の魔女さんは目立つ格好をしていますから、すぐに見つかると思います。それまでは我慢してもらえますか?」


 オルラヤさんは、持つのも恥ずかしい黄金の杖を持たざるを得ない僕を気にかけてくれました。

 確かに、この杖は持っているだけで人目を引きますし、見た目も好みではないので、恥ずかしいです。


 でも、彼女の笑顔を見てしまうと、恥ずかしいとかそれ以外のことは全部忘れてしまいます。

 彼女の笑顔は妹に似ていました。

 妹を思い出すと連鎖的に、家族のこと、ヒルト村のことを思い出します。


 だから、なるべく笑って欲しくありませんでした。甦る思い出の中で、1番思い出したくないクソ女を思い出してしまうからです。




 そういう時は、彼女の顔から目を背けるとマシになります。勿論、彼女から距離を離してしまえば済む話です。

 オルラヤさんは魔女だったので、気を遣うつもりもありませんでした。僕は、何度も次の魔女を探すためにあの家から離れようとしました。


 でも、なぜかヒューゴさんがそれを頑なに阻止してきました。

 彼はいつも意味不明な話をしていました。僕の知らない、僕とオルラヤさんの仲睦まじい思い出話を何度も聞かされて、うんざりしていました。

 絶対に僕たちと似ている別の誰かと間違えています。知らないって何回もヒューゴさんに言いました。

 本人が否定しているのに、彼は頑として聞きませんでした。


 魔女の顔なんか記憶したくなくて、いつも彼女と目を合わせて会話していませんでした。

 魔女は皆、殺して良い奴等。


 でも、その印象を砕いたのはオルラヤさんでした。

 彼女は病弱でした。病弱だったから、森の外の話をとても知りたがりました。

 僕が魔女探しのこと以外で経験した旅の内容を話すと、彼女は目を(きら)めかせて傾聴しました。全く大したことない話でも、物凄く興味を示してくるのです。


 いつの間にか、彼女と話す機会が増えました。

 増えたおかげで、オルラヤさんの顔を見るようになりました。オルラヤさんが妹に似ていると気付いてしまいました。


 楓衣(ふうえ)の魔女に恋占いをしてもらっていた彼女は、とても無邪気過ぎて、妹に似ていました。

 僕は変わってしまいました。




 リリベルさんとヒューゴさんを探して丸1日が経ちました。特にリリベルさんはあれだけ目立つ格好をしていたので、目撃情報はたくさんありました。

 でも、2人を見つけ出すことは叶いませんでした。目立つが故に、真新しい目撃情報を得ることを難しくしました。

 おかげで目立つだけの黄金の杖を無駄に持つ羽目になって、僕は少し有名人になりました。


 家から街まで行ったり来たりするのが面倒なので、2日目の夜は街で泊まることになりました。

 泊まることになっても、僕とオルラヤさんは夜にも出かけました。舌切り騒ぎが起きれば、お2人に会えるのではないかと踏んだからです。

 僕は杖を持って、オルラヤさんと荒れてしまった夜の貧民街を歩き回りました。


 彼女は、地割れの被害を受けて怪我した人たちを治しながら行きました。

 優しい魔女でした。




「ヒューゴさんたち、どこに行ってしまったんでしょうか」

「おーん、分からないです」


 髪や衣服に関しては妹と似ても似つかないですが、その雰囲気と顔はどうしても妹の面影と思い出をちらつかせてしまいます。




 何か悪いことが起きそうになったら、彼女を守らないといけないって思うようになりました。

 1度は無力過ぎて何もできなかったので、2度目は防ぎたいです。2度も同じことを起こしたくないです。




 事態は突然急変しました。

 オルラヤさんが骨折した人を一瞬で治して、他の怪我人がこぞって集まり始めたところで、少し離れた所で悲鳴が聞こえました。


 僕とオルラヤさんは、起きた騒ぎに舌切りとの関連を疑い、急いで駆け寄りました。


 駆け寄った先に、真新しい血の跡がありました。

 その血の跡の中心に(うずくま)っている人がいて口元を押さえていました。先日の神父さんと同じ状況で、舌を切られたんだって、すぐに分かりました。


「舌が近くに落ちていませんか?」


 オルラヤさんに言われて血の池から舌を探しました。

 暗かったので、手を横に振って探すしかありませんでしたけれど、すぐに見つけられました。

 見つけた舌をオルラヤさんに手渡すと、彼女は舌を切られた人の治療をすぐさま始めました。




 僕は治療の手伝いもできないので、ただオルラヤさんのすることを見守ることしかできませんでした。

 そんな暇そうな僕に、1人の男が慌てて此方に駆け寄って来て話し掛けて来ました。


「ああ、待ってください! 舌と血は私が綺麗にしますから、触っちゃ駄目です!」


 木桶を2つ抱えて急いで走って来た男は、オルラヤさんの治療を止めようとしてきたのです。

 僕にはその人の心を読み取ることが全く出来ませんでした。


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