振動世界5
『憎い? アタシに復讐したい?』
『殺せるなら殺してみれば?』
『ほら、さっさと殺ってみなさいよ』
全部、全部憶えています。
僕はその時は、クソ女のことよりも、家族のことを見ていました。
内臓が外に飛び出て、身体に繋がっている管が無理矢理伸ばされて、千切れるその瞬間に、父も母も妹も弟も、壊れた人形みたいに糸が切れました。
僕の耳が聞こえなくなったのかと勘違いするくらい、皆の声がピタリと止まりました。
多分、気絶したんだと思います。
その後は、多分1日くらいは家の前で寝ていたと思います。
誰かが来て、「何でこんな所で寝てるんだ」って声をかけてくれるかましれない。誰の死体も視界に入らないように横になって寝ていました。
それが無駄だって分かったのは、血の匂いが漂ったせいでした。
諦めて、皆を土に埋めて墓を作りました。
何日か村で暮らしていましたけど、少しずつそわそわして、居ても立ってもいられなくなりました。
何でこんなことが起きたのか、あの女は何が目的で皆に酷いことをしたのか。
知りたいと同時に殺してやりたいと思いました。皆にやっとのと同じやり方で殺してやりたいって思いました。
村を出て、沢山の街を渡り歩いて、女のことを調べました。
特徴的なマントのおかげで聞き出しやすかったです。分かったことは、あの女が魔女であることでした。
魔女の情報をより集めるために、別の魔女を探し出した。
そして、探し出して出会った魔女に呪いをかけられました。
その魔女は、異なる種類の生き物を掛け合わせることを生き甲斐としていました。
ゴブリンと虫、馬とエルフみたいな感じです。
でも、僕の場合は何と合体しているのか分かりません。
オークとか言われたりしますけれど、今までに戦ったことのあるオークと負けたことはありませんでした。
そもそも力の差がありすぎました。
力の差がありすぎて、オークの力を受け継いだとは思えなかったんです。
とは言いつつも、その魔女に呪いをかけられたことは幸運でした。
何の力も持たない子どもの僕でしたが、今はパンチ1回で皆殺せます。少し押した程度で何でも壊せました。
呪いをかけた魔女には逃げられてしまったけれど、それ以外に出会った魔女は皆殺せました。
一応、出会った魔女が何をしているのか直接聞き出したりもしました。
彼女たちは皆、嬉しそうに自分が行っていることを語ってくれました。
嬉しそうに語るその内容が、どれも自分以外の誰かの命を奪うことを必要としていて、死に対する価値が余りにも低すぎました。クソみたいな奴等でした。
酷すぎて、魔女は殺して良い奴等なんだって思いました。
魔女の噂や、彼女たちの謂れなどを聞けば聞く程、嫌悪感、憎しみ、うざったさを感じました。この世で1番死んでも良い奴等、それが魔女という存在だと認識しました。
殺しても誰も文句を言わない奴を、殺しても何の罪悪感も湧きませんでした。
その中で出会ったリリベルさんやオルラヤさんは、今まで出会ってきた魔女たちの印象を覆す、ある意味おかしな魔女たちでした。
特にオルラヤさんは、無償で他人を助ける不思議な魔女でした。
彼女が魔法を研究する理由も不思議でなりませんでした。
彼女は、生まれつき身体が弱くて、自分を生き永らえさせるために医療に関する知識に長けていました。
でも彼女は、医療に関する魔法だけでなく、もう1つ研究していることがありました。
それは恋でした。
彼女は、恋に関する魔法の研究を懸命に取り組んでいました。今まで聞いてきた魔女たちの、意味の分からなくて、何の役に立つのかも分からない行動とは違う、意味の分かる思惑でした。
彼女と出会った最初は、顔を見る度に虫唾が走って、苛ついて仕方がありませんでした。彼女の言葉が耳に入ると、彼女を殴り殺してしまいそうになりました。
でもヒューゴさんの意味の分からない提案に強制的に乗せられて、我慢して彼女の話を聞いているうちに、魔女への印象が変わっていきました。
彼女は、凄く普通の人だったんです。普通過ぎて魔女の肩書を持つ女にしては、滅茶苦茶おかしかったです。
それからは、聞きたくなくて仕方なかった彼女の言葉が、すらすらと耳に入るようになりました。
見たくなかった彼女の顔も、いつの間にか見ても平気になりました。
その顔が、無邪気で元気で天真爛漫な妹に似ているっていうことを知ったのは、出会ってから何ヶ月も経った後でした。
オルラヤさんの顔をちゃんと見ていなかったんだって気付いた僕は、魔女に対する考え方を改めるようになりました。
それからオルラヤさんは、魔女ではなくなりました。
魔女は皆、殺して良い奴だっていう認識が消え去ってしまいました。




